第16話 強力な呪い
相手が領主、しかも既婚者だという話だと、結婚相談所に招くのはかなり問題になりそうだ。
そこで急遽、招き入れるのは『ユナ上級ハンター依頼受付所』とした。
ジル医師と、御者の青年……領主様の側仕え、ユアンという名の精悍な彼も帯同した。
こちらの方が室内は小綺麗で、また、貴族が訪問するとしても場違い感はまだ少ない。
町外れにあるこの場所だが、これだけ目立つ馬車であれば、それなりに人目に付く。
領主とは思わずとも、身分の高い人物が訪れたことは噂になるかもしれないが、俺たちが真竜と戦った (実際には戦ったのはほとんどユナ)という噂もそこそこ広まっていたし、その関係と思われただろう。
実際、俺も心当りはそれだけだったし、関係者であるジル先生も同行していたためにそれは確信となっていた。
しかし、それらについてはほんの少々、話題に出ただけだった。
実際はもっと深刻な話になると言うことで、オルド卿は盗聴防止だという魔道具を置き、室内を文字通り音も漏らさぬ密室とした。
「……さて、ここからが話の本題になる。私が何のためにこの地に足を運んだかというと……国王陛下から、全領主にお達しがあった。その内容は、『腕の良い、優秀な医者と、占い師または呪術師を連れてこい』という前例のないものだった」
「……なんか、とっても嫌な予感のする命令ですね……」
本音をつい口にしてしまった。
「まあ、そう思うのも無理はない……しかし、私は今、専属の優秀な医師も、占い師も抱えてはおらぬ……どうやって探そうかと考えていた時に、竜討伐の陳情に来た一団がおり、その中に、顔と評判を知っているジル医師の姿があった。彼に事情を話すと、二つ返事で王国にお供します、と引き受けてくれた。残りは腕の良い占い師か呪術師……ジル医師は、心あたりがあると、君たちの事を紹介してくれた……君たちにも、王都に来て欲しい。そこで占いをしてもらいたい」
「……ちょ、ちょっと待ってください。そんな、いきなり言われても、俺は、最も幸せになれる結婚相手を占えるっていうだけで……内容も分からないし……」
いきなりすぎると考えたし、辞退しようとも思った。
しかし、次の彼の言葉は、悲壮感に溢れていた。
「すまなかったな、占いの依頼内容を先に言うべきだったか……対象は、現国王陛下の第一王女様だ。まだ十代の彼女は、とある強力な呪いを受けて、意識不明の昏睡状態に陥っている。ずっと眠り続けており、その状況を救えるのは、とびきり優秀な医師、または非常に腕の良い占い師か呪術師しかいないではないかということだ」
「呪い!? でも……俺は、最良の結婚相手を……いや、待てよ……」
「そう、気づいたか……眠り続ける王女様に、もし運命の結婚相手がいるとなれば……それは、何かしら解決方法を、その男性が知っていることになるとは思わぬか?」
確かに、オルド卿の言う通りだった。
俺には、見た相手の最良の結婚相手を知る能力がある。
そしてその相手の人相や特徴を知ることができる。
さらには、二人を繋ぐ『
そしてそれは、ジル先生との冒険の最中、二人の間の障害を取り除くための解決手段へと導いてくれるように進化した。
ならば、もし……王女様の結婚相手が見えるのならば、『強力な呪い』という障害すらも取り除くように導いてくれるのではないか。
ただし、相手が見えれば、の話だが……。
「いきなりの話で困惑するのは分かる。しかし、これは国家を揺るがす事態になりかねないと、私は思っている。現国王はたった一人しかいない娘を溺愛しており、相当憔悴しておられる……是が非でも、なんとかせねばならぬ」
……まあ、領主様自らがここまで足を運んだ時点で、俺に拒否権などないのだが。
「タク、私からもお願い……王女様……ソフィーがそんなことになっているなんて、私、知らなかった……ソフィーは私の親友なの……」
ユナの言葉に、今度はオルド卿が僅かに目を見開く。
「ユナと言ったな……そなたの姓は?」
「……ロックウェルです……ユナ・ロックウェル」
「……そうか……ロックウェル家の……」
えっと……二人でわかり合っているようだけど、ひょっとしてユナ、貴族の一員なのだろうか……まあ、深くは追求しない方が良さそうだ。
「それで、この地まで私が馬車で来たということは、どういうことか分かってもらえるだろうか」
オルド卿がプレッシャーをかけてくる。
「はい……今、すぐに準備を整えて、共に同行せよ、ということですね」
ユナが即答した。
「うむ、理解が早くて助かる」
そうなんだ……いくらなんでも急すぎると思うが、俺と領主様では身分の差が天と地ほどある。逆らうことはできない。
ジルさんは非常に申し訳なさそうな顔をしているが……遅かれ早かれ、「的中率の高い占い師」という点で、俺の所に話は来ただろう。
それに、ユナの親友ならば、助けてあげたいし。
「承知しました、俺もすぐに準備します!」
――こうして、俺達は王都に向けて緊急で出発することとなった。
そこまでたどり着くまでだけでも結構な旅路だったのだが、強力な呪いをかけられた王女から伸びる『
闇の組織による狡猾な罠、必要に迫られ挑む、未踏破の古代遺跡。
旅の仲間となるのは、一見大人しそうに見えるが、貴族の血により強力な氷結魔法を操ることができるオルド卿の実の娘。
さらに彼女を『
そして魔神の核を埋め込まれた、不確定な自我しか持たない、しかし爆炎を支配することのできる半生命体の美少女。
俺とユナ、そして新たな仲間達は、王女を救うために長い旅に出ることとなる。
俺の『
そこに待ち受けるものが、王家とその敵対勢力を巻き込んだ過酷な冒険となることなど、この時点では知るよしもなかった。
~ to be continued…… ~
究極縁結能力者(アルティメイト・キュービッド) エール @legacy272
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