第15話 領主の訪問

 それから数日後の朝。

 冒険者ギルドから『タクヤ結婚相談所』に一通の手紙が届き、それを見た俺は仰天した。


 何やら高級そうな黒い封筒に入っていたのだが、その内容が、とある上級貴族が明日この店を訪れるから、他の客が入って来ぬように配慮しろ、という内容だった。


 わざわざ冒険者ギルドを介したのは、要約すれば

『初級ながらハンターライセンスを持っているから、そういう依頼形式にした方が手っ取り早い』

 とのことだった。


 急いでその手紙を持って、隣のユナの下を訪れる。

 のんびりモーニングコーヒーを飲んでいた彼女だったが、それを見て一瞬驚き、目を見張った。

 しかしすぐ冷静になり、本来は貴族、それも上級となれば一般の平民は会うことすら難しいのだが、冒険者ギルドを通じた特殊な依頼であれば例外的にこういうこともあり得る、と説明してくれた。

 さすが三つ星のハンターは経験が違う、と感心したが、それも束の間、ユナに

「対応をひとつ間違うだけで捕えられる可能性がある」

 と脅され、必死で店の掃除や他の依頼者の訪問予約キャンセル (郵便配達員に特急で以来)を行った。


 翌日の昼前。

 二頭立ての立派な馬車に、それを操る御者と、二人の男性が乗車してやって来た。

 紋章のような物は入っていない。

 俺とユナは、並んで深々とお辞儀をして迎える。

「その節はお世話になりました、タクヤさん、ユナさん。私です」

 馬車から先に出てきた人から聞き覚えのある声を掛けられ、その顔を見て驚いた。

 先日、顧客としてこの結婚相談所を訪れ、期せずして共に冒険の旅へと出ることになったジル医師だった。


 そしてもう一人。

 ジル先生も深くお辞儀して、馬車の奥から降りてきたのは、軽装ながら大柄で、がっしりした体格の、渋い中年の紳士だ。

「こちらの二人が、私が推薦致します占い師のタクヤ殿、そして上級冒険者のユナ殿です」

「うむ……確かにいい目をした若者達だ。私の名はオルド・エンボス。そなた達に至急、かつ内密に頼みたいことがあって、この地を訪れた。まずは話をもらえぬか?」

 その言葉を聞いて、ユナが驚きで目を見開く。

「元五つ星ハンター、剣聖オルド……領主様!」

 ユナの『領主』と言う言葉に、今度は俺が驚く番だった。

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