第8話

 結婚式の招待状を欠席で返送するのも今年はこれで三度目だ。かつて友人だった人たちへのご祝儀を用意するのは憂鬱で、付き合いで参加することをやめてからは随分気が楽になった。ポストへ行こうか迷ったが、週明けに投函すればいいかと葉書を鞄へしまう。


 土曜日の午後。私はいつものようにパソコンで動画サイトを開く。趣味といっても動画鑑賞くらいになってしまった。それでも感想を共有する友人はインターネットの向こうにいる。顔も知らない人たちだけれど、それなりに人となりを理解しあっている。私は最近その中の友人が勧めていたアニメを観始めたところだった。ポップな絵柄と対照的に少し気が重くなるテーマなので、毎日少しずつつ観ることにしている。今日は3話ほど観たところで画面を閉じ、少しだけ感想を書こうとSNSを開いた。


 友人たちの投稿に混ざってプロモーションという広告が流れていく。自分で投稿したキーワードと関連性の高いものが表示されるようで、友人に勧められたアニメの絵柄が表示されていた。私はある程度タイムラインを遡ったところで、視聴済みの部分の感想を投稿する。


『おすすめの某アニメ、ちょうど半分くらい鑑賞済み!毎話生と死について考えさせられるのでメンタルにくる。でも面白いね、続きはまた明日。』

 早速友人たちからリアクションがある。

『自分も同じあたりまで観た!やっぱり一気見は厳しいよね~!』

『そうそう。確かにこれ病む。でもやめられない!笑』

 あれこれ言い合っていると、同じ熱量で楽しんでいる実感が湧く。これくらいがちょうどいい関係性だなと思ってしまう。

『今日はなんだか暖かいからさぁ、今からちょっと出かけてきます!』という友人に『行ってらっしゃい』と返信をしたところでお開きとなった。


 再びタイムラインを遡っていくと、『葬式を善く考える』というイベントのプロモーションが目に入った。先ほどの友人たちとの会話からキーワードが抽出されたのだろうが、結婚式よりも葬式のほうが縁がありそうな自分に笑ってしまった。そして、彼らのお葬式に呼ばれることはきっと無いなと思いながら画面を閉じた。

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