第5話

 一度目の卒業式は舞台の上で進路や将来の夢を語った。「中学生になったら、新しい友達をたくさん作りたいです」私はそう叫んだ。卒業の度にそれまでの関係をすべて終えてきたように思う。門出は圧倒的終わりだ。卒業アルバムの寄せ書きで完結している。どうか元気で。未来がいいものでありますように。


 新任で高学年の担任に大抜擢された体育大卒の若い教師は、明るくとても人気があったが、20代半ばですっかり禿げていた。それがかえって説得力をもたせていたように思う。生徒たちはその教師から健気さを感じ取っていた。他人を傷つけることの汚さ、傷ついた人の強さを学んだ。頑張っている人を笑うのは恥ずかしいことだ。気をつかいながら期待に応えていた。私たちもまた健気なこどもだった。


「先生はね、高校生の時にできたともだちが、今でも一番のともだちだなぁ。みんなも大きくなったらわかると思うよ。」卒業式の予行のあとで、担任がそう言っていたのをよく覚えている。遠い未来に一生もののともだちができるのだという漠然とした期待感と、卒業間近の小学生に向けてなんてことを言っているのだろうとかなしさを感じた。泣いたり笑ったり忙しい教師はずっと自分の人生を生きていたから、卒業しても友達でいたい小学生のことはわからなかったのだ。私は初めて人に裏切られたような居心地の悪さを感じたまま卒業することになった。夢に向かって。


 もうすぐ高校生活を終えようとしている私に、あの言葉が呪いのように纏わりついていた。

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