第3話

 志望校を「校則が厳しいらしい」という噂の学校に決めると、進路指導の教師はもっと良い学校へ行ける成績だからと違う学校の資料を並べてきた。教師にとっては偏差値が高いほど良い学校であるらしい。私はどれも興味があるような顔をしながら、結局志望校を変えずに受験した。筆記試験の後の面接では中学生活の思い出についてきかれた。私は合唱祭での出来事を、力を合わせることで結果を生み出すことの楽しさなどを交えて話した。高校生になったら合唱部に入りたいという意気込みまでみせて。用意していた質問の答えは一つも使わないまま、私は進路が決まった。


 いざ入学してみると厳しいという噂は拍子抜けするほど緩やかで、学校はとても居心地のいいものだった。高校生の醍醐味は放課後の寄り道だろうが、放課後に制服で繁華街へ行くのは禁止という校則を最大限守り、初めて友人と地元のファストフード店に入ったのは夏休み直前のことだ。友人は季節限定のフルーツジュース、私はレモンティーを注文して2階へ上がる。少し大人になったような、悪いことをしているような気持ちで私は完全に浮かれていた。広いフロアの一角に、見覚えのある顔を見つけるまでは。


 学区で一番偏差値の高い学校の制服を着て座る彼女は、中学の頃よりもっと落ち着いた雰囲気を醸し出していた。背中しかみえないが一緒にいる友人も似たタイプだとわかる。私は無意識に彼女たちから一番離れた席へ座り、一度もそちらに視線を向けずに友人とすごした。浮かれた心はすっかり落ち着かなくなり、友人との会話も記憶に残っていない。視界の端で揺れる空気に、私の呼吸が混ざり合うことがないようにと祈っていた。

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