序章 業火転生變(一) 新免武蔵 28
3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)14
『鹿賀 12』
鹿賀は窓からなるべく身体を離し、ひとしきりなにかを考えていた。
この時点ではまだ狙撃手は配置されておらず、身を隠す必要はなかったのだがそんなことは知りようもない。
「おい、数字の一番から順番に右側から窓の前に立て。ぐずぐずするなよ、殺すぞ」
人々は命じられるがまま、少ない数字の者から並んでゆく。
窓際に並べきれなくなると二列、三列と重なり合うように整列させられる。
そうやって九十六人が、まるで人形が並んでいるように整然と窓に向かって立っている。
次ぎに鹿賀が出した命令は、常軌を逸していた。
「服を脱げ、全員素っ裸になるんだ。ぐずぐずするなよ、俺は気が短いんだ」
みな一瞬戸惑いを見せたが、言うことを聞かねば殺されるために仕方なく服を脱いでゆく。
まだ二十歳前だと思われる若い娘が、最期のパンティを脱ぐのを躊躇っている。
隣の三十後半らしい女性が、小声で娘に囁いた。
「脱がなきゃ殺されるわよ。こんな場合に恥ずかしがったってしょうがないでしょ、早く脱いじゃいなさい」
その声が聞こえたのか、鹿賀がふたりに近づいてゆく。
「なんだ、脱ぎたくねえのかお嬢ちゃん。嫌なら嫌でいいんだ、はっきり言いな」
娘は顔を引き攣らせ、怯えたように唇を震わせた。
「脱がなくていいんですか? わたし恥ずかしくって――」
「そうかい、ほかに脱ぎたくない奴はいるか。いたら手を挙げろ」
五人の女性が、おずおずと手を挙げた。
「そうか、脱がねえんならそれで構わないよ。じゃあここに並べ」
鹿賀は最前列に並んでいる数人を横に寄せ、六人の女たちを窓際に立たせ、窓を全開にする。
六人はパンティだけはいている者、ブラジャーとパンティの者と様々だった。
最初に声を掛けた娘の後ろに立ち、鹿賀が嗤った。
「言うことを聞かない奴は殺す、そう言ったよな」
背後から喉にナイフを当て、サッと手を引く。
頸動脈を切断された娘は、まるで潮を吹くように血を撒き散らした。
鹿賀はその娘が床に斃れるより早く、窓から突き落とした。
すかさず隣の女の喉も引き裂き、同じく外へ押し出す。
残った四人は、すぐさま身につけていた下着を脱ぎ捨てた。
「なあんだ、ちゃんと脱げるんじゃねえか。手間かけさすんじゃねえよ、でもペナルティは必要だな。お前ら一番から四番の奴らと入れ替われ」
ガクガクと身体を震わせながら、四人は最前列に右から立った。
いくら順番が早まったとは言え、この場で死ぬよりはましであった。
その時スマホに着信が入った。
番号を見ると、さっきかかってきた立花と名乗る警官のものである。
「ほうら、すぐに順番が来ちゃったな。残念だね」
言うなり一番右の女の喉を先ほどと同じように切ると、窓外へと転落させた。
「だから言っただろ、電話をかけてきたら殺すって。お前ら馬鹿か」
着信に出て、鹿賀は呆れたような口ぶりで薄ら笑いを浮かべる。
「やめろ鹿賀、いったいなん人の命を奪えば気が済むんだ。要求があれば聞こうじゃないか、頼むからこれ以上馬鹿なことはするな」
立花が声が引っ繰り返るほど、必死に訴えてくる。
「なん人殺せば気が済むかだと? そんなこと知るか。世界中の野郎を殺したって俺の気は済まねえ、それに要求なんざひとつもねえよ。俺はやりたいようにやる、いや命ぜられるままやるんだ。余計な手出ししやがると、いっぺんに全員殺すぞ。脅しじゃねえのは判っただろ、もう電話はかけてくるな」
「まて、切るな――」
必死な呼びかけも空しく、通話は途切れた。
人質になっている人々は、その鹿賀の言葉を聞きいっそう怯えきった。
この狂った男はその言葉通りに、自分たちを殺してゆくだろうと実感したからだ。
鹿賀がこの場に現れてから、すでに八人が死んでいる。
こんな事になるのなら最初に試験官職員が撃たれたときに、一斉に逃げ出していればほとんどの人間は助かっただろう。
運の悪いものは射殺されただろうが、それもいまの被害者人数である八人と大差なかったはずだ。
しかしこうなってしまっては、そんな考えも後の祭りだった。
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