序章 業火転生變(一) 新免武蔵 27
3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)13
『鹿賀 11』
「警察だと、いったいなんの要件だ。俺には話すことなんかねえ、ごちゃごちゃうるせえ事を言いやがると、片っ端かこいつらを殺すぞ」
「まあそう怒らんで聞いてくれ。君は鹿賀誠治に間違いないんだな、まずはそれが知りたい」
相手をなるべく興奮させないよう、穏やかな口調で立花は訊いた。
「だったらなんだってんだ、確かに俺は鹿賀だ。よく分かったな、ポリ公」
これで相手が鹿賀誠治だと言うことが確定した。
「君の要求はなんなんだね、あったら聞かせてくれないか。出来ることであれば協力しようじゃないか」
「うるせえ、要求なんかなにもねえよ。これ以上話すことはない、切るぞ」
「待て待て、電話を切るな。いったいなにが目的でこんな真似をする、君の思いを話してくれ。それにこの建物は完全に包囲されている、どのみち逃れられはしない。その建物内も、大勢の警察官で固めている。おとなしく投降すれば手荒な真似はしない、人質を解放して出て来て欲しい」
立花が投降を薦める。
「完全に包囲だと、上等じゃねえか。手出しできるんならして見ろ、なにか仕掛けてくる度に死人の山を築いてやる。なんせここにゃ九十六人もの人間がいるんだ、十人や二十人殺してもいくらでも代わりはいる」
鹿賀の声には緊張感の欠片もなく、ただの日常会話のように淡々と恐ろしいことを口にしてゆく。
「馬鹿なことはよせ、君は逃げることは出来ない。君の姿も人質の方々もすべて見えている。観念して投降するんだ、これ以上罪を重ねるな」
ここで立花は決定的なミスを犯した、鹿賀が立て籠もっている試験会場を警察が監視していることを教えてしまったのだ。
「なんだと、俺を見てる?」
鹿賀の顔に苛立ちが見える。
「おい、向かいの建物はなんだ。知ってる奴がいるなら応えろ、黙ってやがると一番から殺すぞ」
拳銃を向けられた者の中から、大学生らしい眼鏡の若者が窓の外を指差した。
「真正面の建物は、確か機動隊の建物だったと記憶してます。だから向こうからここは丸見えのはずです、狙撃されればそれでお終いになっちゃいますよ。だから言うことを聞いて自首してください、お願いします」
正義感が強いらしく、怯えながらも真っ直ぐに鹿賀の目を見て訴えた。
「狙撃だと? ちくしょうそんなことが出来るのか」
鹿賀は正面の建物を見据えた。
試験場の窓から見えるのは、機動隊との間の広い駐車場だった。
すべて機動隊の敷地らしく、時折町中で見かける例の特徴的なバスが多数停まっている。
それに加え、びっしりとパトカーの姿もあった。
向かいの建物とこの会場との間には、なんの障害物もない。
眼鏡の若者の言うとおり、狙撃されれば簡単に殺られてしまうだろう。
「おい、それが本当なら俺がなにをしているか言ってみろ」
鹿賀は窓際に出て、軽く手を振る。
「いま君が手を振っているのが見える、どうだ信じたか。分かったらおとなしく出て来なさい、もう逃げ場はないんだから」
それを聞いた鹿賀は、素早く窓から離れる。
「僕の言ったとおりでしょ、ここは完全に監視されています。もう諦めてください、ぼくらを解放してください」
眼鏡の青年が再度懇願する。
「お前なかなか度胸があるじゃねえか、俺に指図しようってのか。これはドラマじゃねえ、下手な正義感なんざ単なる命取りだ。馬鹿が」
〝ぱん〟
呆気なく眉間を撃ち抜かれ、青年は絶命した。
スマホはそのまま繋がっており、一連の遣り取りはすべて警察に聞かれている。
「鹿賀、いまのはなんだ。応えろ、なにをした」
電話口で立花が怒鳴っている。
「下手に俺に説教しやがったから、殺したんだよ。お前らも俺を舐めるんじゃねえぞ、俺は殺るといったら殺るんだ。これで電話は切る、用があればこっちから掛けるから黙ってろ。電話をかけてきやがったら、その時点で一人ずつ殺す。脅しじゃねえのは分かるな」
〝ぷつっ〟
一方的に電話が切れた。
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