序章  業火転生變(一) 新免武蔵 14


   3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)②


     『鹿賀2』


 鹿賀はバットの先で、かつて細谷だった肉塊をつつく。

「なんだよお前、死んじまったのか? じゃあもうしょうがねえな」

 すでに彼の感情には、細谷の存在はなくなっている。


 周りに残っている組員は、五人だった。

 しかし完全に気圧されて、誰ひとり鹿賀に立ち向かおうとするヤツはいない。


 鹿賀はズボンのポケットに手を突っ込み、無造作にサプリメントを口に入れる。

〝ガリゴリ、ガリガリ、ゴリ〟

 まるで飴を噛むように、音を立て呑み込む。


 次の瞬間鹿賀の目が、左右バラバラにぐるぐると回り始めた。

 瞳の動きが止まると、歪な眼差しでソファーに座っている後藤に向かって、にんまりと嗤いかけた。


 後藤は震えながら、手にしている拳銃を鹿賀に向ける。

 トカレフのコピーのようだ。

「く、来るな、来るんじゃねえよ。撃つぞ、本当に撃つぞ」

 お構いなしに鹿賀は、ゆっくりと後藤に近づく。


〝パン! パン!〟

 銃声が二発響いた。

 実際の銃声はドラマやアニメのような格好いい音はしない、乾いたパン、パンという味気ない響きだ。

 至近距離なのに、いずれも命中しなかった。


 一発は鹿賀の右頬をかすったようだが、もう一発はかすりもしていない。

 銃の扱いに慣れてないものが、こんな慌てた状況下で発砲してもまともに当たらないのである。


「残念」

 そう言いながら鹿賀はアイスピックを取り出し、後藤の脳天に突き刺す。

〝がすっ〟

 アイスピックが半分ほど頭頂に突き立った。


「ほら、もう少し」

〝ズズッ〟

 柄の部分に上から手を添え、根元まで細い金属を沈めてゆく。


 後藤は恐怖のあまり、糞と小便を垂れ流しながら死んでいった。

「さあ、次は誰だ」

 床から拳銃を拾い上げ、手近なヤツから撃ち始める。


〝パン!〟

 ひとりは、一発で眉間を撃ち抜かれた。

〝パン! パン!〟

 ひとりは右目を撃たれ、もうひとりは喉に命中している。

「ひやあーっ」

 最後のひとりは叫びながら、ドアへ取り付いた。


〝パン! パン! パン!〟

 背中を三発撃たれ、脱出は不成功に終わった。

 一階出入口に一体、二階の組本部事務所には八体、合計九人の遺体が転がっている。



 こんな異常な中、鹿賀の行動はさらに奇妙だった。

 建物内にあるシャワー室で、身体についた血を洗い流している。


 本部事務所の建物には、事務所機能以外に若い衆の寝泊まりのためのフロアや、食事を採るスペースもあった。

 そこでインスタントラーメンを作り、二杯喰った形跡がある。



 血だらけの自分の服を着替え、適当にぶら下がっている誰かの服を着る。

 斃れている後藤の内ポケットを漁ると、スペアマガジンがふたつも出て来た。

 鹿賀は一発だけ弾が残っているマガジンを捨て、新たに八発全弾装填済みのものに入れ替える。

 そうして朝一番の新幹線で、土地感のある東京へと移動した。


 金なら薬の売人のジミーのウエストポーチに、たんまり入っていた。

 そうして彼のポケットには、シャブを始め様々な薬が突っ込まれている。


 ここで逮捕されていれば、暴力団関係のトラブルによる殺人事件として話題にはなるだろうが、それだけの事件ことで片がつくはずだった。

 しかし、ここから場所を東京に移し、鹿賀が犯した真の修羅地獄が始まることとなるのである。

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