序章  業火転生變(一) 新免武蔵 13


   3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)①


     『鹿賀1』



 ピンポーン、ピンポーン

 鹿賀はインターホンの呼び鈴を押した。

 三方から瞳を刺すような眩い照明が、彼の全身を照らし出す。


「はい、どちらさまですか」

 だるそうな声が聞こえた。

「鹿賀ってモンだ、俺の連れがここに居るって聞いてきた。会わせてくれねえか」

「はあっ、連れって誰だ」

 相手の声のトーンが変わった。


「細谷ってんだ、居るだろ」

「ちょっと待て、確認する」

 いったんインターホンが切れる。


 鹿賀はズボンのポケットからサプリメントのカプセルやら錠剤を無造作に掴み、一気に口に放り込む。

 十錠以上はあった。

 口いっぱいに頬張ったカプセルを、彼はガリガリと噛み砕き〝ごくり〟と呑み込む。


 さっきのビルの便所で、すでにシャブは一発喰っちまっている。

 ギンギンに極まってる所に種類も関係なく大量の薬を摂取し、すでに彼の脳は極限状態となっていた。



「兄貴、いま下に鹿賀って名乗るヤツが来て、細谷に会わせろって言ってます。どうしましょう」

「鹿賀ぁ! さっき俺がビール瓶で頭かち割ってやったヤツじゃねえか。生きてやがったのか」

 彼の手には血糊のついた金属バットがぶら下げられている。


「おい、ここに連れてこい。こいつで脳みそぶち撒けてやる」

 痛々しいくらいに顔を腫らしている男が、テーブルの上の拳銃チャカを握りしめた。

 さっき鹿賀から散々撲られた、後藤という兄貴分だ。


「おい哲平、油断するなよ。なにするか分からねえ野郎だ、身体チェックは念入りにするんだ」

「へい、わかりました」

 週当番らしい哲平と呼ばれたチンピラが、階段を降りてゆく。


〝ガチャリ〟

 カギの外れる音がして、扉が開いた。

「中に入れ、まずは物騒なモンを持ってねえか調べ――」


〝ヒュッ〟

 鹿賀の右手が鋭く横に滑った。

〝バシューッ〟

 鮮血が吹き出す。

 喉首を切り裂かれ、チンピラは瞬時に絶命した。



〝ガーン〟

 ドアが蹴破られ、血にまみれた男がのっそりと入って来た。

 その凄惨な光景に誰もが気を呑まれ、呆然となり動きを止めた。


「この野郎」

 ドアの一番近くに居た男が、それでも気を取り直し鹿賀に殴り掛かる。

〝がす、がす、がす〟

 鹿賀の右手に握られたダガーナイフが、男の左脇腹に三度潜り込む。


 崩れ落ちた男を邪魔だと言わんばかりに足で刎ねよけ、鹿賀は血に染まった顔で〝ニタリ〟と嗤う。

「さっきは世話になったな。細谷を連れに来た、出しやがれ」


〝バァーン〟

 鹿賀が凄むと、ビール瓶の男が事務机を金属バットで叩いた。

「ほら見てみろ、細谷ならここに居るよ。もうくたばっちまってるがな」

 そこには顔を三倍くらいに腫らした、誰だか分からない男が横たわっていた。


 その顔を、そいつはさらにバットの先で突き刺した。

〝びちっ〟

 小さな肉片が辺りに散らばる。


「――――」

 ただの肉の塊になっている細谷を、鹿賀はチラリと見遣った。


「残念だがお前もすぐにこうなる、あの世で仲良くしな」

 恐れ気もなく近づく鹿賀の頭に、バットが振り下ろされる。

〝ガン〟

 鈍い音が響いた。


 ただでさえ血に染まった鹿賀の頭から〝ぬるり〟と夥しい血が流れてくる。

 いっこうに臆することもなく、鹿賀は相手の目の前まで迫った。

「てめえ、化けモンか」

 再度バットを振り上げた所へ、鹿賀の右手が動く。


〝ぷすっ〟

 左目にそこから生えているように、ナイフが突き立っていた。

〝カラン〟

 バットが床に落ちる音がする。


「うぎゃー、痛え、痛てえよー。目が、俺の目が」

 泣き喚く男へ、鹿賀は拾ったバットを一閃させた。


〝ガツンッ〟

 頭を抱え蹲る。

〝ガン、ガン、ガン、ガン〟

 情け容赦もなく、バットが幾度も振り下ろされてゆく。


 とっくの昔に男は死んでいた。

 その動作は二十回程でやっとおさまった。

 ほかの組員は、ここでやっと鹿賀がまともな人間ではないことに気付いた。

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