④言ってくれ
「本当に……良いんだね?」
あいつが確認する。
俺はゆっくりと頷いた。
沈黙。ささやかな間。
本当は逃げ出したい……でも、聞きたい。
微細な空気の流れが頬を撫でるのが分かった。窓からの風……それすら忌々しい時間。
どれぐらいの間がたったのだろうか……時間にして本当はせいぜい数秒だろうに。
唐突にあいつは言った。
「何も……無い。お前は心配ないと聞いてる」
「は?」
じゃあ、なぜ……わざわざ確認を。
俺の意図に気付いたかのように話を続ける。
「……だからこそ、この場で言い辛かった。ここでは、言うべきではないと思ったんだ」
……ああ、そうか。
あいつがためらっていた理由。それは彼女への気遣いだった。……あいつは性格が悪いように見えるときもあるが、こういった細かい気配りもできる人間だから。
俺はふっと体が軽くなるのを感じた。
胸の痛みもいつの間にか消えていた。
終わった……大丈夫なんだ。もう安心なんだ。俺は安堵感で一杯だった。
あいつはそれを見届けると、挨拶もなしに部屋を出ていった。
やれやれ……ああいうところは相変わらずか。
ガン!
後頭部に激痛がはしり、俺はよろめいた。
何だ……は?
振り向いた俺には信じられない光景が広がっていた。
彼女が鬼のような形相で立っていた。その手には血が付いた花瓶が握られていた。
「……どうして?」
それだけ言うのが精一杯だった。後頭部への一撃は強く、まだ足元がおぼつかない。
「全部……全部お前のせいだ! お前のせいで私は残りの人生を苦しんで生きていかなければならないのに……お前は……」
ああ、そうか。
意識がぼんやりとしていたが、彼女の言いたいことは分かった。
――俺が、肝試しに誘わなければこんなことにはならなかった。
――俺が、廃病院の2階に行こうとしなければこんなことにはならなかった。
――俺が、続きを聞こうとしなければこんなことにはならなかった。
反論の余地は無かった。
反論する前に、俺は3階の病室の窓から落ちた。
胸には、「手」の感触が残っていた。
それは彼女が突き飛ばした時の手か、それとも…………
ぐしゃ!
<友達には気を付けて。でないと死んじゃうよ>
END A
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