第3話 彼方からの隣人を歓迎する
放課後になった瞬間、僕は部活に命を掛ける運動部の連中を見送ってから、第二グループとして教室を出た。勧誘チラシが貼られた壁の前には誰もいない。昼休み中に当たりを付けた部活の見学に行っているのだろう。数メートル前から確認できたが、やっぱり僕には光が見える。人けのないこの場所で、早く見つけくれと小さく主張しているように思えた。僕は昼休みと同じく隠すように重ねられたバドミントン部のチラシを捲り、今度こそはと光る紙に並んだ小さな文字を目で追った。
――彼方からの隣人を歓迎する――
「……どういう意味?」
意味不明。首を傾げて疑問を呟くと、
「私にも分からない」
後ろから急に同意の声が上がって心臓が飛び跳ねた。光る紙に夢中で後ろに立つ生徒に全く気が付かなかった。
「
「よかった、覚えてくれてた」
「クラスメイトの名前くらいはさすがに覚えたよ」
安心した様子の彼女の名前は綾見恭子。僕の名前が
「それで、綾見さんは僕に用?」
「うん……」
口ごもりながら綾見は光る紙を指さした。
「二見くんが見ている紙って……?」
目立たないのにどうして見つけたの? 彼女の質問に僕は答えに迷った。光っているからと正直に答えれば変な奴と思われることは必至。入学して早々変なキャラ付けをされるのは避けたい。綾見がどういう子か知らないが、女子のネットワークほど男子にとって怖いものはない。
「えーっと、ほら、たくさん勧誘チラシが貼られているだろ? 埋もれている部活がないかなって」
不自然じゃない回答をとっさに口から出すことに成功――したはずなのに、綾見は僕の瞳から何かを見つけ出そうとじっと見つめてきた。そして、訊かれた。
「もしかして……視えてる?」
その一言にぎくりとした。
「……視えてるって?」
綾見も? そう聞き返したかったが、僕は慎重さを優先した質問で返した。
綾見は多少逡巡を見せたが、意を決して口を開いた。
「変な子だと思わないでほしいのだけど、たとえば、――光って視えるとか」
「やっぱり綾見も――」
僕が言い切る前に、綾見は僕と壁の間に滑り込んで光る紙を壁から剥がしてしまった。
「ここじゃ目立つから」
場所を変えましょ、と綾見はさっさと部室棟と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩き出してしまった。
「この紙を貼ったの、私なの」
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