第2話 依頼1 読めない本

 部室棟の一角、壁一面に所狭しに貼られた多種多様の部活動勧誘のチラシ。その中の一枚に僕の目は奪われた。面白そうな文字が踊っているとか、イラストがカッコイイとかそんな次元の話じゃない。ただ単純に――光ってる。

「……何だ、これ?」

 バドミントン部の勧誘チラシが光っている。――いや違う、光っているのはその後ろ側。紙っぺら一枚では隠しきれない光量が溢れているんだ。不思議に思いながら僕は壁に近づく。チラシは目線の少し上、そっと手を伸ばしてバドミントン部の勧誘チラシを捲ってみると、そこには同じようにA4サイズ程度の紙が一枚貼ってあった。どうやら原因はこの紙にあるらしい。元々このサイズといわけではないらしく、端には破った形跡が残っている。質感は――指で擦るも普通の紙と何ら変わりない。端を摘まんでぺらりと捲る。裏面も異常なし。それじゃあどこが光ってる? 蛍光ペンの類ではない。紙自体が発光しているとしか思えない。だけど蛍光塗料が塗られているようにも思えない。そして気になることがもう一つ。

誰も気付いていない?

 高校に入学してそろそろ一ヶ月、部活の勧誘は今でこそ下火だが入学当初はそれは盛んで手当り次第という具合に何度も声を掛けられた。当然この壁にも最初から貼られていたことだろう。僕はここにはずっと来ていなかった。中学で入っていたバレー部も視力が落ちて眼鏡になったことと、期待していた成長期はそれなりに頑張る程度で活動を止めてしまったから高校ではパス。だからといって代わりに入部したいと興味を惹かれる部活もない。いい加減に決めないと置き去りにされると後ろ向きな理由で重い腰を上げたのが今日だ。誰も気付いた様子がないとうことは、ついさっき貼られたのだろうか? だとしても、今だって僕以外にも入部に迷っている生徒が数人、この壁を眺めているが誰もこの光に見向きもしない。いろいろ検討した結果、答えは一つしか見つからない。僕にだけ見えるらしい。理由は不明。僕の目なのか脳なのか、いかれたとは考えたくない。 


 僕の意識をチラシから引き戻そうとするかのように予鈴が鳴った。昼休みが終わってしまう。放課後にもう一度確認することにして、僕は悶々としながら部室棟から少し離れた教室に小走りで戻った。

 当然というべきか、午後の授業は全く頭に入ってこなかった。適当に黒板を写しはしたが、頭の中は光るチラシが占領し、教師の言葉が入り込む余地はない。黒板をぼんやり眺めながらチラシに書かれていた内容を僕は思い出そうとしていた。光っていることばかりに目がいき、記載内容には無頓着だったのが悔やまれる。でも、普通の部活紹介ではなかったのは確かだ。普通であれば『サッカー部』『野球部』といった部活名が大きく踊っているはずだが、そういった『××部』という言葉はなかった。それは間違いない。でもそれ以上はいくら記憶を振り絞っても思い出せなかった。それにしても、部活動の勧誘でないなら何故あの場所に、勧誘のチラシに混じっていたのだろう。答えが出ないことは分かりきっているが、考えずにはいられなかった。

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