第2話 切り分けた記憶

「(こちら本部、マルチタスク型400番、応答せよ。)」


「(こちら、マルチタスク型400番、どうぞ。)」


「(指令本部はグリムと言う存在を危険視しない。)」


「(承知しました。その、グリムを一度拠点に連れて行っても良いでしょうか?)」


「(目的に必要ならば許可する。)」


「(ありがとうございます。)」


「(改めて、本部への帰還命令を出す。)」


「(承知しました。)」


 本部との通信が切れた。取りあえず、許可が下りた事にMTは安堵した。目を開くとホープが心配そうな顔でこちらを見ていた。


「大丈夫でしたか……。」


「本部から許可が下りた。後、本部との交渉を丸投げしたのはホープでしょ。どの口が心配何てしてるのかしら。」


 MTが苛立ちをあらわにする。早歩きで前に進み始めた。


「いやー、本部との通信時間が長いから…、何と言いますか……。」


 ホープが取り繕う言葉を選んでいる。MTには、その様子がとても不快に感じた。


「これだから、若いアンドロイドは。」


「そんなこと言ったらMTから見た殆どのアンドロイドは、若いじゃないですか……。」


「ならば、MT殿はどのくらい……、いや、女性には失礼な質問か、我の発言は忘れてください。」


「1500年と数年。グリムさんは、どのくらい?」


「我は……。」


 グリムは思い出そうとして、過去を振り返る。


「この、3000年は魔導兵器と戦い……、そうだ、戦争の始めの50年は国家同士で争っていたから……、やはり戦争の記憶しか無いな……。」


「取りあえず、グリムさんはMTよりも、長い時間戦い続けているんですね。」


「まあ……、そう言う事になるな。」


 MTはグリムがなぜ戦い続ける事が出来るのか気になった。自分なんかよりずっと長く戦い続けている意味を。でも、意地悪な質問内容だと思い、口には出さなかった。



 数時間歩き続け、転移陣の場所にたどり着いた。


「やっと戻れますね。」


「これは?我が使う転移陣とは、また違う魔法だな。」


「これは、最近出来た新しい転移陣でして、人間とアンドロイドのみが使えるんですよ。グリムさんが使えるかどうかは、分かりませんが……。」


「なるほど……、便利な魔法だな。我が使えなければどうする?」


 グリムは転移陣の性能を関心しつつも、自分には使えないのではないかと心配した。


「一度起動させてから考えましょう。出来なければ、私が本部に事情を話して他の移動方法を考える。」


 MTが転移陣に触れ、起動させた。転移陣がより一層光り、三人を包み込んだ。



「ここが、アンドロイド達の拠点か。」


 グリムの声が聞こえた。どうやら、元人間も転移対象のようだ。 


「転移成功ですね。」


 ホープが嬉しそうに成功を安堵した。


 転移先の場所は、本部入り口の玄関ホールだ。病院と工場を足したような建物には、パイプが血管のように張り巡らせている。しかし、工場のような燃料の匂いはせず、どちらかと言えば消毒液の匂いが漂っている。


「取り合えず、調査班の部署に報告を。グリムさんも着いてきて。」


 MTが先導して異様な雰囲気の建物内を歩く。大きな機械が動いている部屋、アンドロイドを直している部屋、細かい部品を生産している部屋、様々な部屋があり、そこかしこから機械音が響く。そして、一つの扉の前で止まった。MTがその扉をノックした。


「MT型400番、報告に参りました。」


「どうぞ。」


 中から男性の声がした。MTはその扉を開けた。


「お久しぶりですね、MTさん。」


「そうね、04。」


「司令部から話しは伺っていますよ。そちらがグリムさんですね。僕はアンドロイド・レプリカ型04です。取り合えず座ってください。」


 白衣を着た研究者のような風貌の04は丁寧な口調で自身の型番を名乗った。そして、散らかった机の周りにあるパイプ椅子へ促した。机の上は書類や地図で埋め尽くされている。三人は椅子に座り、MTが報告を始めた。


「報告、魔導書庫には『檸檬爆弾』という書物があったが、新表性の裏付けが出来ない。これにより、魔導書庫内での情報収集を断念。しかし、帰還時に魔導兵器に遭遇。その時にグリムさんと出会った。」


「司令部からの話しと殆ど同じですね。つまり、今後の我々の目的はグリムさんの記憶を呼び覚ます事です。」


「でも、そう簡単に記憶が戻りますかね…。」


 さすがのホープでも楽観的に考えなかったようだ。


「一つ心当たりがある魔法があります。」


「それは、どういった魔法だ。」


 グリムが身を乗り出して聞いた。


「分身魔法です。それも、完璧な分身を作り出す強力な類いの魔法です。でも、失う物がそれなりに大きいもので……。」


「なるほど、我は戦況が厳しい時に、その魔法を使ったのか……。」


「記憶を分身体に分け与えることで、術者と遜色のない実力を発揮するという仕組みらしいです。もちろん、分身体を吸収する事で記憶も元に戻ります。」


「グリムさんは、今の話しを聞いて心当たりがある?」


 MTがグリムへ質問した。グリムは「うーん」とうなり、首をかしげた。


「ちなみに、術者は分身の場所をある程度特定出来るらしいです。」


「ならば、試してみるか。」


 グリムは右手の手のひらを上に掲げ、広範囲魔力感知を始めた。


「そこは……、廃工場か?微弱な反応がある。」


「それじゃあ、早速行ってみましょう。」


 ホープはやる気に満ちた様子だ。

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