第30話「皆狙っている気がしてならない」

はは、フレドも大まかにはチフユの事が知れたかな? こんな感じで、少し変わってるんだよね」


 こんな感じって何だ。人を変人みたいに言わないで頂きたい。

 そもそもね、異世界から来たんだから常識がズレてるのも致し方ないと思うんですよ。他の人が来たってきっと変わってると言われるはず。私からすればレオルカさんだって変人ですよ。言わないけど!

 私は大人だから口にしませんけどー!


「変わってると言うか、おかしいと言うか。さっきは純粋に気持ち悪りぃと思った」


 やめろ! 流石に傷付く!

 君ほんっっっっとうに口悪いな!?

 気持ち悪いはないでしょ! 孫がおばあちゃん大好きで何が悪いんだ。心外です。



「ははは。チフユはチトセさんがだーいすきだからねぇ」


「チトセ?」


「チフユと一緒に召喚された女性だよ。チフユの祖母に当たる人だね」


「おいおばあちゃんを呼び捨てにするなよ」


「うわっ」


 うわって何だ! うわって!

 いちいち勘に触る奴だな。


「今頃もう任務終わってるかな、チトセさん」

 

「まあおばあちゃんは出来る女だから、恙無くこなしてるだろうね!」


 誇らしげにそう言ったらフレドさんは何だか生温かい視線を私に寄越して、「うんうん、そうだね」と頭を撫でてきた。

 それとなくスイッと体を離すと何だかショックを受けたような表情をして固まってしまった。


「ひ、ひどい! 言葉は無くても伝わる拒絶にレオルカの心はずたぼろです!」


「いやそんな、拒絶なんて。頭触られるのがちょっと嫌だっただけですよ」


「それは拒絶では!? 言葉の刃が更におれの心を傷つける……」


 胸を押さえてしおしおと萎れるレオルカさんに私は困惑する。

 これどう収拾つければいいんだ。いやだって頭撫でられるの恥ずかしいじゃん!

 おばあちゃんにされたら天にも昇るような心地でたちまち幸福感に包まれているだろうけれどもレオルカさんは歳上の男の人で昨日初めて会ったんだよ。恥ずかしいよ!

 ぶっちゃけ、長峯相手でも恥ずかしいもの!


「え、ええ? そんなに凹む?」


「おいお前、もう少し言葉を選べよ……」


 マジかよお前、とでも言いたげなフレドの表情と言葉に私はさも心外だという気持ちを全面に叫んだ。 


「お前にだけは絶っっっっ対に言われたくないんですけど!?」


 つい今しがたか弱い女の子である私をド直球に気持ち悪いと言ったお前には絶対言われたくない!

 

 何で人でなしみたいな扱いをされなければならないのか!

 本当、フレドは今日初対面だしレオルカさんだって昨日初対面だからね!?

 距離の詰め方がおかしいんだよ、高校の友達だって私はるちゃんだけだしね? 長峯は幼馴染なのでまぁ。うん。 


「うっ、心の傷は深い……。二十歳男の子のハートはズタボロよ。十五歳の女の子のご飯を恵んでもらったらマシになるかもしれない……」


「んなっ……!」


 それが狙いかー!!

 ほらフレドが甘やかすから私からももらえる希望を抱いちゃってるじゃん!


 ……いや待て、レオルカさん、ちょっと笑ってるな?

 よーく見たら口角上がってる。

 ……はっはーん。なるほど冗談だな? 

そうとわかれば別に優しくしなくてもいいでしょう。うん。


「これはおばあちゃんが私の為に私の事を想って作ってくれた物なので、絶対に嫌です」


 きっぱりとそう言ったら、レオルカさんは予想の範囲だったのか肩をすくめた。


「やっぱりチフユは一筋縄ではいかないよね」

 

「いや普通に会って二日の男にはこんなもんでしょ……」


 そんなやりとり自体、会って二日とは思えないんだけどもね?

 打ち解けるの早すぎる。


 そんな私達を、いや私を、フレドが引いた顔で見ていた。


「お前心狭すぎないか……? 見た事ないぞお前みたいな女」


「はあ!? 女苦手なくせに何言ってんの!? 対して女と交流ないくせに女語るなよな!」


「は、はあ!? 別に苦手じゃねぇし! 女なんて死ぬほど相手してきたし!」


 そこで吃ってる時点で図星なんだよなぁ!

 

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