第31話
「まあまあフレド。オレもこんな答えが来るってわかって聞いたんだし。フレドが美味いフルーツサンドくれたから十分だよ」
「……甘いもんしかないんすけど。他のやつ食います?」
おずおずと籠を差し出すフレドに、レオルカさんは笑顔のまま首を振った。
「いんや。オレ、甘いもん好きだから! 大丈夫! そんなに貰うと悪いしな」
にこやかに断られたフレドはそれ以上は言わず「そ、そっすか……」と引き下がる。
……と思ったら、レオルカさんには聞こえないよう私に耳打ちをしてきた。
「お前の食ってるもんなら貰うんじゃないか?」
いや知らんし。
本人が良いって言ってるんだからもう良くない? そう思う私とは対照的に、フレドはじっと私を見て訴えてくる。何かやれと。
「蜂蜜とフランスパン、フルーツサンドが昼飯って気の毒だろ? デザートしかないじゃないか」
それは君の感性でしょう!
見なよ、レオルカさんを。幸せそうに蜂蜜ぶっかけてフランスパン食べてるよ。
レオルカさんにしちゃ好きなものを食べてるんだから気の毒でもなんでもないよ。私はそう思います。
それでもフレドは肘鉄しながらすごい促してくる。ほら、じゃないよ。後押ししてるみたいな感じやめて?
恥ずかしくてあげられないとかじゃないから。純粋にあげたくないだけだから。
「ちょ、うざ、やめて」
「うざいって言った? お前は本当に血も涙もないな……」
はーん!?
「あぁもう! 何なんだよ! 口わっるいくせに変な優しさ発揮すんのやめてくんない!? 他力本願な優しさだけどな! 人はそれは余計なお世話、お節介と言います!」
あげればいいんでしょ、あげれば!
そう言って、私は大切に食べていた煮物を箸で掴み、レオルカさんへと差し出す。一応、箸をひっくり返して口をつけてない方を。
「……ど、どうぞ」
ぷるぷると箸を持つ手が震えているのは本能に抗っているからである。このまま自分で食べてしまいたいという、本能にな……。
ぎりぎりと歯軋りしつつ、レオルカさんの顔は見ないよう努めている。
今はあの笑顔を見たくない。
「ふは! すんげー嫌そう!」
嫌ですけど!?
断腸の思いで差し出してるのに笑うなんて何事だ!
バッ、と顔を上げ睨みつける。
レオルカさんは相変わらずの笑顔で、軽い謝罪をしてから、もう引っ込めてやろうと思っていた私の腕を掴む。
え、いや、何?
怪訝な顔をする私なんて構わず、レオルカさんは軽く私の腕を引いて。
ぱくり。
そのまま煮物を口にした。
「……あ?」
間抜けな声と、間抜けな顔で固まった私などお構いなしに、レオルカさんはもぐもぐと煮物を堪能している。
「ん〜、美味いなぁ! ありがとな、チフユ!」
しかも食わせてくれたし〜!
なーんて、ヘラヘラしているレオルカさん。
いや待ってよ。何でそのまま食べたん? 受け取ってよ。何でよ。
その私の心の声がわかったのか、レオルカさんはごくん、と煮物を飲み込んでから口を開いた。
「手で取るとついちゃうからさー!」
ま、まあ確かに。うぐ。
「あ、ああそれで。でもおれ、手拭くの何枚かあったのに」
ごそ、と籠の中身を見せながらフレドが言う。は、早く言ってよ。
「あ、てか私手洗ってない」
「きたねぇな。直接触らないったってエチケットだろ」
こ、この男にエチケットを語られた……!!
でも正論だから何も言えねぇ。
というか手拭きを予備で持ってるとか何?
女子より女子じゃん……。
「オレはフランスパンもらう時洗ってきた!」
追い討ちのようにレオルカさんが言う。
今更だけど拭いとけとフレドに手拭きを渡される。手を丁寧に拭いた私は、ついでに面を変えて顔と足を拭いた。
「お前!!!」
フレドが顔を赤くして声を荒げた。
あっごめん。
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