第25話
まず、大体振りかぶってたけれど向きで変わったりするのかな? 例えば横に一閃とか。それともイメージで変えられる?
氷の魔術をアラレみたいに沢山繰り出したりとかは出来る? 水は?
それも全部試す。それで、可能だったら素手でも一発入れたい。
走りながら考える。帰宅部所属の私はそんなに速くない。逃げるなら速いかも? あんまり捕まったことがない。
……いや、違う。
長峯が一緒に逃げてたからだ。手を引いたり、相手を翻弄したり。一人で乗り込もうと、大体あいつは現れる。誰かから聞いたのか、必ずと言っていいほど現れるのだ。
っと、長峯のこと考えてる場合じゃない。
「足もそんな速くねぇな」
聞こえてんだよなぁ!
私は走りながら木剣を振りかぶる。一メートルくらいの距離だ。それを振り下ろし、私は途中で持ち手を変えて地面に突き刺した。
すると男の足元から土が勢いよく突き出してくる。当たるかと思ったけれど男はそれを一歩下り避ける。
その隙に私は間合いを詰めて回し蹴りを繰り出した。
今度こそ当たった、と思ったけれどそれも男が仰け反りすれすれに私の足は空を裂いた。
「あーくっそ。当たるかと思ったんだけどな」
「当たるか。それよりお前! そんなに足を上げるんじゃねぇ、見えるだろうが」
薄らと顔を染めながら言ってくる。
コイツ割と余裕あるな。しかしよ。さっきから思ってたんだけれど……。
「見せてあげよっか? サービスするよぉ」
ちらりと少しだけめくってみる。
「ばかやろう!!」
語彙力よ。めくるったって膝見えたぐらいじゃないか。あんな口回ってたくせに最終的にはばかやろうか。
コイツ意外と初心だな? カマトト。
女は守られてりゃいいとか言ってるけど、実際にはあんまり女と関わったことないんじゃ? 女の扱いがわからないのでは? こうなったら服脱いだろか。
……いくら私でもそこまで捨てたくはない。というか普通に恥ずかしい。
くだらないこと考えたな。小さく息を吐いて、地面に刺さった木剣を引き抜く。
土は割と上手く使えた。遠距離でも使えるけど油断させたろと思って突っ込んでみた。失敗したけど。
さて。どうするかな。
木剣を構える。
やはりあちらからは向かってこない。
よし、やるぞ。集中、集中。
氷をイメージ。そして振り下ろす!
沢山の氷が茶髪男に向かっていく。よし上手くいった! 走り出した私だけど、茶髪男が氷の全部剣で弾いているのを見て思わず足を止めそうになる。何なんだあの剣捌き。漫画か。
もう一度木剣を振るう。今度は動きを止めようと地面を氷が這っていく。茶髪男にもうすぐ届くかという所で素早く後ろに飛びすさり避けられた。
これでも当たらない。
もう一度木剣を振った。ごうっ、と辺りに強い風が吹く。
もっと、もっと強い風が欲しい。ぎゅっと木剣を握り横に振った。ぶわっ、と私の体が浮く。
地面に落ちている沢山の葉が舞い上がった。
「な」
葉を巻き込んだ風はぎゅるぎゅると竜巻みたいに吹いている。私はというとその風で宙に浮いている状態だ。
木剣を振り下ろす。凄い勢いで風は茶髪男へと向かっている。葉も茶髪男の視界を遮るように舞う。私はそのまま下へと落ちるように茶髪男へと向かっていく。
葉が邪魔で見えにくいはずだ。私は右手で木剣を振りかぶる。
「!」
茶髪男がこちらを見た。
くそ、思ったより早かったな。
あ、目見開いた。ちょっと驚かせられたかな。かっ、と顔が赤くなる。
そこまで見てから、私は木剣を振り下ろした。
「くっ!」
お、ちょっと焦ったな?
がんっ、と木剣が弾かれる。
その瞬間、木剣から木の枝が伸びて剣を巻き取る。そいつの手から剣が離れた。私も持っていられず手を放す。
どさり、とそいつに馬乗りになる形で地面に落ちる。
よし、これなら。右手を振り上げる。そいつの顔面めがけて、思い切り振り下ろした。
「チッ!」
ぱしり、と拳を掴まれる。すかさず左の拳を繰り出した。それも掴まれた。
もう残ってるのはこれしかない。ぐんっ、と少しのけ反り頭突きをかます。
……つもりだったんだけど。
掴まれた腕を引っ張られ、私は引き倒された。知らぬうちに閉じてしまった目を開けると、そこには茶髪男が大層驚いた顔で私を見下ろしていた。
形勢逆転されている。
両腕は手首を地面に縫い付けられて動かせない。足も動かせないか試したけれど腹に乗られてるから出来ない。
あー……。こりゃもうダメだ。
「はあ。参りました、参りました。でも、」
私は目の前にいるそいつに、ニヤリと笑みを浮かべる。
「最後まで紳士ではいられませんでしたねぇ? んひひ」
「……別に紳士になるとは言ってねぇ」
「そうでしたっけ? でもまぁ」
そっか、紳士とか言ったのは私の方か。結構近いとこにあるそいつの顔は少しむっと口を引き結んでいる。さっきまで目を見開いて口も半開きだったのに。
「あんたの面白い顔見れたから割と満足かな」
普段仏頂面の奴のびっくり顔って貴重だ。まあこいつとは今日会ったばかりだけど。
眼前のそいつは私の言葉に、目をまん丸にして、また驚き顔を見せてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます