第24話
「少しは気にしたらどうなんだ!? ただでさえ短めの裾を着ているんだぞ! あ、あんなに、足を、晒すなんて、女として恥だろ! すぐに押さえるなり隠すのが普通だろ!」
赤い顔のまま怒鳴りつけてくる茶髪男に私は何言ってんだコイツといった顔を隠さずに間抜けにも口を開けたままだった。
パンツは見えてない。多分コイツが言ってるのは太腿のことじゃないか?
というか今日の服、短いか? 膝下だぞコレ。
いや恥じらいを持つべきだとか、言いたい事はわからんでもないけれども。
「まあまあフレド。悪いのはオレだし」
「そうですよ。大体何で見られた私が怒鳴られなきゃならんのですか。理不尽にも程があんでしょ」
「う、うるせぇ!」
またもやそっぽを向く。見れば耳は未だ真っ赤だ。
「チフユは気にしてないみたいだし続けよう。じゃあチフユ、今の意識してやってみて。あ、無しでやってみる? オレ持ってるよそれ」
「あ、じゃあ」
木剣をレオルカさんに手渡して、私はさっきのレオルカさんと同じ様に右手を前に出す。
えっと、魔力を巡らせて、風。
頑張ってイメージを繰り返すけれど、特に風は吹かない。
「チフユ」
呼ばれて顔を向けるとレオルカさんが木剣を差し出している。それを受け取り、ぎゅっと握り締めた。
もう一度、イメージする。気のせいだろうか、木剣からひゅるひゅると風の音が聞こえた気がした。
「振ってみて、チフユ」
「っ!」
私はゆっくりと振りかぶると、ぶんっと木剣を振るった。
瞬間、ものすごい勢いの風が吹く。大きな木が揺れて、沢山の葉が舞い上がる。
ちょっとこれは凄すぎでは……。
「おお、凄い。じゃあ今度は火かな。いや待て、コントロールにまだ不安あるから水にしようか」
言われた通りに水のイメージで木剣を振るう。
こちらも中々の水量の水が発生して辺りを濡らした。
「うんうん。こちらも発生はオッケー。こりゃ属性全部出来そうだな」
「というと?」
「魔術には六種類ある。火、水、木、風、氷、土。そして人には得手、不得手。そして相性がある。大体の奴は一つ二つくらいしか使えない。たまに三つくらい使える奴もいるけど。ちなみにオレは天才なので全部使えます」
「そ、そうですか」
こんな自信満々に言う人初めて見た。
でもそういうの嫌いじゃない。この人は本当に天才なんだろう。自信は大事だ。そして自信に匹敵するくらいに実力があるのも事実なのだろう。
そんなわけで、取り敢えず属性の確認の為に試していた。結果、全部の属性が出来ることがわかった。
「ふんふん、やっぱりね。チトセさんも恐らく出来るだろうな。歪みに関してはオレはわからないから実際にやらないことには何も出来ない。後は自在に操ること」
ぶつぶつ呟きながらレオルカさんは私を眺めている。
「よし! フレド!」
「はい?」
離れた所にいた茶髪男を手招きし、レオルカさんはニコニコしながら私の肩に手を乗せた。
「チフユの訓練の相手してよ! チフユはとにかくフレドに一発入れるつもりで魔術ばんばん使って!」
は?
「はぁ。わかりました。おれは防いでりゃいいんすか?」
「それじゃ人形と変わらないじゃないか。戦ってよ」
「……おれに女殴る趣味はありません」
その心構えは立派だけれども。
面倒だな、イエスと言っておけばいいのに。トリスさんなんか問答無用で顔殴ったぞ。
そのことを知っているからか、断られたレオルカさんはううん、と唸る。
じゃあ殴る以外で、とかいや手段の問題じゃないんすよとかそんなやり取りを繰り返す二人に私は溜息をついた。
すうっ、と息を吸う。
「!」
繰り出した蹴りをぱしりと止められる。
「ふうん。本当に止められましたね」
「……」
「私はか弱い普通の女の子なので、こうして不意打ちもやぶさかではないですし、相手が女だからと油断してくださっているならそれに甘んじますよ。なので別に手を抜いたままでいてもらって構いません。私はただ、全力で一発入れにいくだけですから」
そう宣言して、私はちらりとレオルカさんを見た。にかりとおおらかに笑うと、レオルカさんはぶわりと風に浮いてその場から離れる。
私は足を掴んでいる手を振り払い、逆の足で蹴り出した。それも軽くいなされ、茶髪男は私から距離を取る。
「おい、おれは女に手をあげるなんて」
「それでいいですよ。私は」
私は負かす気満々ですから。
木剣を振り下ろす。バキバキ、と氷が瞬く間に凍っていって茶髪男に向かう。
それを素早く男はかわしていく。単調過ぎるな。もっと違う風に出来ないかな。
降る、でかいの発動、だけだとワンパターン過ぎる。
ゲームとかでは、槍みたいなのとか、ニードル? とか、色々多様だよね。
……多分、そういう修行だ。色んな応用をきかせる。
レオルカさんは、魔術はイメージだって言ってた。だから必ず出来るはずだ。
女は殴らん手は出さんと言っていただけあって、あの男はこちらへ向かってくる様子はない。
「じゃあこれから貴方負かすつもりでいきますので。そのまま紳士でいてくださいね。絶対一発殴るんで」
「受けの人形はやってやるが、これは魔術の訓練だろ。ちゃんと魔術を使って……」
「はいおしゃべり終わり!」
木剣を振り下ろし風を起こす。そのまま男に向かって走り出した。
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