第22話「期待のルーキーは嫌なヤツ」
こちらの世界に来てから、私はなんやかんやで制服を着ていた。着ていたといっても、ワイシャツの中にいつも着ているTシャツを脱いだくらいはした。流石にもう着れない。
昨日のレオルカさんとの腕試し? で制服は砂埃がすごいし、ワイシャツもTシャツもそろそろ着るのはきつい。
仕方ないのでクローゼットを開けてみると、色々な服が入っていた。
だがどうにも可愛い服ばかりだ。流石に全部ドレスとかではないけれど、フリルのついたやつとか。可愛いワンピースみたいなのが多い。
う〜ん。他にないの? 多分ないんだろうなぁ。
部屋を探したけれど見当たらなかった。取り敢えず、ある物で動きやすそうな物を選んで身につける。下着はあるにはあった。あったけれど、ブラジャーはサイズが合わないのしかなかったので、サラシで胸を潰した。ブラジャー は洗って部屋で干しているので明日は使えるはず。
これ系は誰に言えばいいんだろうか。レオルカさんに聞こう。トリスさんよりはマシだ。
何故この世界には乾燥機能のある洗濯機がないのだ……。早く誰か発明して……。
おばあちゃんが洗濯板で洗ってくれるけれど私は洗濯板と仲良くなれなかったので申し訳ない。私が使った時、ちょっと怪しい音がしたんだ、服から。びりって。つまりちょこっと破けた。
ええい、しっかりしろ千冬。落ちてたら何も上手くいかん。美味しい朝ご飯を食べた。絶対美味しいお弁当も持った。
屋敷の周囲の見張りをやっていた騎士さんと一緒にレオルカさんとフレドさんとやらが待つ練習場へと向かう。
ちなみにおばあちゃんはというと、迎えに来たトリスさんと出て行った。
くっそ、絶対今日中に完璧にしてやるんだから。
昨日と同じ場所、練習場に行くと、真っ白な髪の毛のあの人が大きく手を振っている。
その隣には茶色の髪の毛の男が立っている。
ぺこり、と会釈をして二人に歩み寄る。よくわからなかった顔を改めて見て私は固まってしまった。
勿論レオルカさんではない。会って二日なのにやけに見慣れた感があるぐらいだ。
その隣に立っている、おそらく同世代くらいの男の子。その人の顔を見て、私は動けなくなったのだ。
ーー似てる。
同じ、というわけではない。髪の色も目の色も違う。けれどその人を見た瞬間、長峯と似ている、そう思ったのだ。
「なが、みね」
どこがと言われると説明しづらいけれども、直感的に。そう、思ったのだ。
「おー! チフユおはよう! よく寝たか?」
「お、おはよ。レオルカさん」
「今日はこっちの衣服着たのかな? 異世界のもよく似合ってたけどこっちもかーわいい」
別に可愛くはありませんが? 強いて言うなら服が可愛い。
いやちょっとそんなさらりと誉められるのは慣れてないのでやめて下さい。あ、服のこと言っとこう。
「あの、服なんですけど、もう少し動きやすい服ないですか? あと下着。上の下着サイズ合わなかったです」
「えっマジで? チフユ思ったより胸あんだね? 絶対Bくらいだと思ったのに」
「ぶん殴るぞ」
失礼な! Dはあります! いやそうではなくてだな。私はもう少しシンプルで動きやすい服とサイズの合った下着が欲しいのです。
「その服でいーじゃん。別にお前が戦うわけじゃないしそのくらいの服でいいだろ」
「あ?」
レオルカさんではない低い声。まだお互いに自己紹介もしてないそいつに、いきなりお前と言われてつい私も低い声で答えてしまった。
「だからその服で十分だって言ってる。別にドレスでもねーし」
「そうですけどもね。私はおばあちゃんをいつでも守れるように……」
「は? 守るって何? 戦うつもりなのかお前。言っとくけど、お前は突っ立ってたまに魔術とか使えんならそれで援護して歪みを正すだけでいいんだよ。お前にその期待はしてねぇし邪魔なだけだ」
……。殴ってもよろしい?
いや駄目だ。冷静になれ。クールになれ九条千冬。ここでキレても話が進まない。
「昨日のレオルカ様との様子、見た。少し喧嘩が出来る程度だろお前は。チンピラやゴロツキ程度ならもしかしたら奇襲でもして立ち回れるかもしれねぇけどな。女騎士ってわけでもねぇ。戦場じゃあ普通に役立たずなんだ。女なんだしお前は守られてりゃいいんだよ」
うん。無理。
いや、言いたい事はわかるよ。私は喧嘩慣れしてるだけだ。私だってそりゃ物語の勇者様になろうってんじゃないんだよ。
だけどね、やっぱりさ、腹立つ事ってあるじゃん。
「いきなり何つっかかってきてんすか? 別に私は先陣切って前線出るなんて思ってませんけど。おばあちゃんを守るだけですけど」
「守るのはおれ達の仕事だっつってんだよ。お前は守る側じゃねぇ。守られる側だ」
何だこいつ。面倒臭い奴だな?
いやまぁ根本的な意味で言いたい事はわかるよ。けれど何なんだろうこちらの意志が伝わらない感じ。
「あーもう、うるさいな。私はここに連れてこられた時に絶対におばあちゃんは私が守るって決めたんですよ。それは貴方達とは関係のないことです」
「何度言やわかんだ? お前の仕事は守る事じゃねぇ」
何とか冷静を保って受け答えていた私だったが、その一言でぶちりと何かが切れるのがわかった。
「仕事と一緒にすんな!!」
それは中々に大きく響いていた。
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