第20話
「仲良しな夫婦ですよ。ちょっとあの……仲良し過ぎるのが……あれなのですけれども、まあ普通に好きな両親っすね」
「仲良し過ぎるとは」
「……家族旅行に行って、ちゅーし始めて、それがなっっっっっがくて、当時十四歳の私は死ぬほど恥ずかしくてな……レオルカ氏、知っとるか……恥ずかしさで人は吐く」
「吐く!?」
人はというか、私がだ。その日の事を思い出して気が遠くなった。
こめかみを押さえて俯いた私をレオルカさんが心配そうに肩に手を置く。
「アッ触らないでください」
「しっ辛辣……! 心配したのに」
いやまぁ、ほら、私も女子なので会って日が浅い異性にいきなり触られるのはちょっと。
そう言ったらいつもの調子で謝られた。だから軽いんよ。ごめんごめんじゃないのよ。
レオルカさんは、こういう人なんだろう。基本的に距離が近い。そして軽い。ちょっと嫌な言い方をすると軽薄。
「まあそんな両親と仲良く暮らしておりました」
「そうかぁ。いいなぁチフユの周りは愛に溢れてるんだなぁ」
「おっう……」
恥ずかしい言い方をするな。
そりゃ愛に溢れてるわ。あの両親の周りはいつでも愛が飛び散っております。そしてそれに被爆しているのが私です。
まあ最近は心を無にすることに慣れてきたかな。ちなみにあの吐いた日を境に段々私はグレた。九条千冬、反抗期突入である。
うん、荒れてた。荒れてた間も実はずっと隣に長峯がいたのを今思い出してしまった。さっきあんな話をしたせいで変な羞恥心が……。
てかこの会話やめよう!?
女子高生にはちとディープな会話が続いてる! てか何でこっちの話ばっかなん!
「レオルカさんは? イイ人いるんでない? もしやもう結婚してたりして」
「いなーいよ。チフユ、なってくれる?」
「おっふ……、なりません」
ほらこれだよ。軽い。
よし、会話終了! もう何にも言わないしよう!
「もうこの話はやめましょ。んーと。明日のことで聞きたいことが」
「ん? なあに?」
や、優男……! なんかむず痒い甘ったるい顔してる。何なんだ。
ぶんぶん、と頭を振る。
「フレド、さんでしたっけ? 歳近いらしいですけどおいくつなんすか?」
「んー……確か十六だったかな?」
あ、もしかしたら同級生かもな。
どんな人だろうか。
「あ、そうだ。チフユにチトセさん、オレ二十歳の若いにーちゃんだし、普通に話してよ」
「普通のにーちゃん……?」
それは自分で言うやつか? というか私は割と貴方のことを変人だと思っております。普通のにーちゃんと思ったことはございません。
「五歳上の方に普通に話すのは……」
「大した! 差では! ないから!」
「お、おお」
何故そんなに力強く……。なんか切実な感じが沸々と……。
別にそんな拘らなくてもよくないか? そもそも学生なので歳上の人には敬語が絶対なので……その……。
と、言おうとしたら有無を言わさぬ顔をされた。イエス以外は許さぬと言った顔にも見える。
うーん……。まあ話し方くらいいっか。
「はいはいはい。わかった」
「では、遠慮なく。あ、そうだ。レオルカさん、お夕飯食べていく?」
あっ!!
「え、いいの? ありがとうチトセさん!」
こいつ、絶対狙ってた!!
……よもや泊まろうとしてないよな? 絶対に帰れよ……。いや女人二人の家に泊まろうとする馬鹿男なんていないよね。そこまではないよね。
一応牽制はしとくか。
絶対に絶対に帰れよ。その思いを込めて睨みつけた。まああの……この人にはあんまり効かないんだけど。やり過ぎたかな。
絶対慣れてきてるよコレ。
睨み過ぎた……。睨み過ぎたって何だ? わからなくなってきた。口に出来たらいいんだけどな。帰れやと。でもな、おばあちゃんに怒られる。おばあちゃんからお誘いしたし。
仕方ない仕方ない。今日は諦める。
「私は明日レオルカさんとしゅぎょーですけど、おばあちゃんは明日もう本番なんだよね」
「そうだよぉ。チトセさん、大体の魔術できるから簡単なのならもうやって大丈夫そうだからね。万が一なことがあってもトリスがいるしね」
トリスさんめちゃ信頼されてんなぁ。
「ふふふ、心強いわ。隊長さんだものね」
おばあちゃんの言葉に私はがちりと硬直した。
だってそうでしょ。何なんすかその信頼感あふれる感じ。トリスさんいつの間にそんな好感度上げてんの……? おかしいよぉ。
「そうだよー。頼りにしときなね!」
何故レオルカさんが自信ありげなの?
とにかくだ。明日でコントロール完璧にして、おばあちゃんと一緒に行くんだ!
別行動なんてありえないからな。絶対に同行してみせる。
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