第18話
「おばあちゃん、あいつがすごいいい奴みたいになっちゃってるけど、そこまでではないよ? あの一件で謝ったのも、私の事可哀想だと思ったからって言ってたし。いつもこれ食べてるのは可哀想って言ってお弁当のおかず分けてくれたり、どっか食べに連れてったり」
美味しいを共有してくれてたわけで、……あれ、良い奴だな?
昨日も、お弁当持って来ているのに購買に一緒に行って。あれ?
「良い奴じゃないか」
「良い子でしょう?」
うぅ。
長峯、君は今異世界で知らない間に評価を上げておりますよ。どういうことだ。
「も、もういいでしょ、私と長峯の事は。お二人さんそろそろ帰りなされ。おばあちゃんの絶品料理食べて満足したでしょ」
間違っても夜も一緒に食べようとは思わないでね。はよ帰って。
そう訴えているのにお二人様は唸るばかりで動かない。ちょっと待てまさか本当に居座るつもりじゃないだろうな!?
「食べたばかりだから動きたくないなぁ」
しみじみ言ってるレオルカさんの言葉もわからなくもないが、私はおばあちゃんとのんびりと正午を過ごしたいのだ。多分三時のおやつもあるはず。それも楽しみだし夜の煮物も楽しみで仕方ない。それに二人が加わるのは普通に嫌だ。
「……俺は任務があるから、そろそろ行く」
「そっかー。がんば!」
か、軽いな? レオルカさん本当軽いわ。
というか今日はお仕事の日だったんだ、トリスさん。私とおばあちゃんのお世話がお仕事かと思った。まあお偉いさんだしお仕事も多いのだろう、多分。
「ではこれで失礼する。チトセ、ありがとう」
お、おお。トリスさんてありがとうって言うんだな。何となく言わないのかと思った。
偏見は良くないな。
「いえいえ。明日はよろしくお願いしますね」
「ああ」
あっそうだ! 明日はトリスさんとおばあちゃんが一緒にいるんだ!
「ト、トリスさん! くれぐれもおばあちゃんにはっ」
「大丈夫だ。必ず守る」
ヒェッ。そんなヒーローみたいな事言うとは思わなかった。さっきからびっくりの連続なんですけど。おばあちゃんは確かにヒロインですけどねー! 正ヒロインです!
「トリス格好良いこと言うじゃ〜ん」
そしてレオルカさんがぶち壊す。だから軽いんだって。トリスさんは「茶化さないでください」としかめっ面で言った。
そして再度私へと向き直る。
「チトセの事は心配するな。あと、レオルカ様だけだとお前も不安だろうから、フレドという奴をつける」
「フレド、さん」
レオルカさんがぶつくさと「不安とは失礼だな」と文句を言っているがトリスさんは完全に無視して復唱した私に頷いた。
「ああ。新人だが、俺の隊で今一番強い奴だ。確かチフユとも歳が近かった。少し口が悪いが、頼りになる」
ふうん? 口悪い、ねぇ。トリスさん人の事言えなくない? 貴方も大概ですよ。
なんて思わなくもなかったが、それは口にせずわかりましたと答えた。
私の答えに満足したのか今度こそトリスさんは出て行った。任務って何だろねー。騎士さまだから戦うのかしら。
まあどうでもいいか……。
「オレは体術はあんまり得意じゃないしなぁ。武器も使わないからフレドをつけてくれたんだな、多分。チフユ、明日はよろしくな」
「あ、はい」
くそ、私もおばあちゃんみたいにさらっと魔法が使えれば……!
何でちょっとクセある感じなんだ。
「多分歪みを消す事は出来ると思うんだよなぁ。武器を介すってのが前例ないし、時間かかるかもな」
「は? 私明日で完璧にする心積もりなんですけど」
だって別行動嫌だもん。すぐにマスターしておばあちゃんとトリスさんの間に突撃してやるつもりです。
「え!? そ、それはどうだろうな? チフユは確かに魔力の量も凄いし才能はあるとは思うけど。言ったろ? コントロール、ド下手なんだよ。不規則に放出されてる。つまり制御できてない」
「言ってましたね。でも私も然程意識していないのですが……」
「チトセさんはほぼ無意識で出来てるんだよ」
まじかよ……。天才じゃん……。
「いや、絶対明日中に完璧にする! 別行動嫌だもん!」
私はやれば出来る子だから!
「え? あっ、そ、そうね……」
何やら歯切れの悪いレオルカさんだったがそんなの知らん! 私はぎゅっと拳を握りしめる。
「頑張ってね、千冬。おばあちゃんも頑張るから。さて、紅茶でも淹れようか」
「ありがとう!」
食後のお茶!
何か自然な流れでレオルカさんも一緒だけど仕方ない。諦めた。
いや〜異世界でこんなに美味しい料理にお茶が飲めるとは思わなかったなぁ!
食材はあんまり変わらないっておばあちゃんは言ってたけれど、どうなんだろう。
ウインナーは出たけれど、お肉類はなさそうなんだよね。煮物の鍋覗いた時、いつもなら入ってる鶏肉がなかった。
冷蔵庫が見当たらないから、たまたまないだけだろうか? まあおばあちゃんの料理は全部美味しいからそんな深く考えてはないけれど。
そんなことを考えつつ、紅茶を啜った。
「そうだ、チトセさんに聞きたい事があったんだよ!」
思い出したようにレオルカさんがパッと顔を上げる。男のタイプまで聞いといてまだ聞きたい事がある……? やはりコイツおばあちゃんに惚れたのでは?
そう思って、私はじろりとレオルカさんを睨む。内容によっちゃあ審議ですよ。
「何でしょう」
「めんざいふ、って何だ?」
ん? めんざいふ?
何故その言葉が?
おばあちゃんも同じ事を思ったようで首を傾げている。
レオルカさんは少し興奮気味に「ほら、チフユに説教してた時!」と言って私を指差す。
あ、ああ! 思い出した! お説教から助けてくれるかと思ったら全く役に立たなかった時の!
私が元の世界でちょいとやんちゃしてたのがバレて、それをこの異世界では立ち回れてるしってフォローしてくれたけどおばあちゃんがばっさりとそんなものは免罪符にはならんって言ったんだよね。
それをずっと考えてたの?
「意味知りたかったんだけど、聞ける状況でもなかったからさー」
まああの場で聞いてたらそれはそれで凄いけど……。
トリスさんがふーくんを気にしてた事といい、忘れた頃に聞いてくるからびっくりするわ。
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