第16話
ほかほかと美味しそうな湯気を立てているのはチャーハンとスープ。
二人の座るテーブルへと運ぶ。鼻腔をくすぐる匂いに腹が反応するのがわかった。
ことり、とテーブルへ料理を置く。湯気がふわりと顔へとかかり、ぐるると腹の虫が鳴いた。それと同時だろうか、男二人がごくりと喉を鳴らす。うむ、わかるぞ。だから私の腹の虫をからかうのはやめろ。
「威嚇みたいな音がお前の腹から聞こえたんだが」
「気のせいです」
ニヤニヤしながら言うんじゃないよ。トリスさんは性格がよろしくない。本当。
威嚇とはなんだ、威嚇とは。
「うわぁ、良い匂いだな! 知らん料理だが美味そうだ!」
「あら、嬉しいことを言ってくれますね。どうぞ、食べてくださいな」
あっレオルカさんずるい! 先に褒められた!
「じゃあ遠慮なく……」
「私も食べる! いただきます!」
先ずはスープからもらおう。ふうふうと息を吹きかけてから、スープを啜った。
ん〜! 美味しい! 具はネギだけのスープは優しい味がしていて、胃をじんわりと温めてくれる。その後はスプーンでチャーハンを掬って食べた。こっちも美味しい。
「美味しい! おばあちゃん全部すごく美味しい!」
「わかったわかった」
語彙力皆無な私が感想を言いながら食べている姿をおばあちゃんは頬杖をついて見ていた。目を細めて微笑むおばあちゃんはまるで絵画かな? といった雰囲気だ。
「題名をつけるとしたら微笑む女神……いや安直過ぎるな。食卓の鬼子母神……違うな。昼下がりの乙女の微笑み……」
う〜んと悩みながらスープを一口。美味しい。
「また変な事言い出したぞ」
「放っておいて大丈夫です」
うんうんと唸りつつ食べてもチャーハンは美味しい。ちらり、と二人を見たらぱくぱくと無言で食べ進めていて、もうすぐ終わりそうな勢いだった。
改めて男だと認識した。食べるのはっや。
かっこみはしてないけど、すごい早い。しかもレオルカさんのが早いな。トリスさんは私よりは早いけど、レオルカさん程ではない。
やがてレオルカさんはチャーハンを食べ終え、スプーンを置いた後残ったスープを一気に飲み干した。
「ぶはぁ、美味かった! チトセさんは本当に上手いんだな! あの時のチフユの気持ちがわかったよ!」
はて、あの時とは。首を捻る私をレオルカさんはからりと笑った。
「オレ達が誘われた時、すげえ嫌そうな顔してただろ」
「うぐ」
そりゃな! この味知ったらまた来るもん絶対!
「美味かった。チトセ、礼を言う」
「はい、皆様お粗末様でした。……皆絶賛してくれるけれど、簡単な料理だからね……?」
「そんなことないよ! 料理を美味しく作れるのは才能だよ! 人を幸せにさせるなんて物凄い才能だよ!」
謙遜するおばあちゃんに、力一杯に力説すると、照れた顔の後、申し訳なさそうな顔をされる。
料理できない娘……もといお母さんのことでも思い出したのだろうか。
「千冬にも出来るわ、きっと。教えるからね…….」
「?」
決意したように言われて取り敢えず頷いた。
「チフユの言う通りだよ。トリスも言っていたけど、オレ達は料理はぜーんぜん。そんな謙遜しないでいいよ、金取れるくらい美味いんだからさ!」
「レオルカさん……」
手放しで褒めるレオルカさんにおばあちゃんは少し照れ臭そうだった。
私は最後の一口を口にしてから、おばあちゃんが皆の食べてるところを眺めていて食べていない事に気づく。
「おばあちゃんも食べて! 洗い物は私がやるし! あ、でも残ってるならおかわり欲しい」
「あるよ、盛ってきてあげようね」
「わーい!」
ここは甘えちゃお。
「お二人は? 足りましたか?」
「あるなら欲しいなぁ! あるの?」
レオルカさんが嬉しそうに立ち上がる。
「ないっすよ! おばあちゃん残り全部入れて!」
チャーハンがそんなに沢山残ってなかったのは確認済みだ。もうやらんぞとレオルカさんを睨みながら言ったらおばあちゃんにぴしゃりと跳ね除けられてしまった。
「馬鹿言わないの! 分けるに決まってるでしょ! 欲張らない!」
「は、はい」
怒られた……。
「チトセ、俺はスープをもらいたい」
「あら、そうですか? スープなら沢山ありますよ」
結局、残りのチャーハンをレオルカさんと分けた。
トリスさんは三回くらいスープをおかわりしてた。どんだけ気に入ったんだよ。
おばあちゃんも食べ終わり、私はお皿やらを回収して流しへと向かう。
そういえばキッチン周りは普通なんだなぁ。冷蔵庫はないけど。電気とか通ってんのかな。
「あ、そうだ。チフユと改めて自己紹介したからチトセさんもしようよ」
そんな声が聞こえて、私はいいからはよ帰れやと思いつつ耳を澄ます。レオルカさんは私にした自己紹介と同じように言って、トリスさんにも同じことを言わせていた。
そして同じ様におばあちゃんに自己紹介を促す。
「じゃあ改めて。チトセ・ウツキ。五十四歳。子供は娘一人。一応パート……お仕事をしてました」
「へえ! 仕事って何してるか聞いても良い?」
「大丈夫。清掃員をしてました」
「なるほど。好みのタイプも聞いとこっかな?」
「あら。こんなおばさんにも聞くの?」
くすくすとおばあちゃんが笑う声が聞こえる。
レオルカさんは言いたくないならいいよーと軽い口調で言っていた。軽々しくおばあちゃんの好みとか聞かないで欲しいですねほんと!
そう思いながらもおばあちゃんの返答が気になり、口を挟まずにいた。
すると、そうねぇとおばあちゃんが話し出す。
「旦那が好みのタイプですね。三十年以上変わらないしこれからも絶対変わりません」
お、おばあちゃ〜〜〜〜〜ん!!!
おじいちゃんの事、本当に好きなんだな。
私が静かに感動していたらヒュウと口笛が聞こえた。おいっヒュウじゃないよ! 茶化したら許さないからな!
「熱烈だね。よっぽど良い男なんだね」
「ええ、もちろん。世界で一番良い男です」
おばあちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん!!
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