第12話

 武器を介して、ねぇ。いまいちピンと来ないな。


「けど、レオルカさん。貴方にしっかり入ったの、ほぼ素手での一発じゃないですか? ローリングソバットとドロップキック。あと普通に殴った」


「ああ、あのとんでもねーヤツね……女の子に繰り出されるとは思わんくて喰らっちゃったよ。あれは地力だしあんまり魔力とかは関係ないと思うなぁ。てか君本当場慣れしすぎじゃない? 砂で目潰しとか意外過ぎてびびったし」


「目潰しした時ちょっとキレてましたよね」


「そりゃあね! 腹は立つよ! いや本当、順応良過ぎでしょ。普段からやってないとあそこまで……」


「売られた喧嘩は買うし、長峯と技の練習したり可愛い友達がちょっかい出されてたら粛清してたしそれかなぁ、多分」


 はるちゃんは絡まれやすいんだ。あの子は可憐すぎるんだな。


「さらっと粛清って言ったよ。怖」


「ナガミネ、とは」


 あ、さらりと長峯と言ってしまった。いかんいかん。

 そういえば長峯はどうなったのかな。ここにいないということは無事ではあるのか。

 そんなことを考えていたら、ぽんと肩に手が乗せられた。

 振り返ると、とても良い笑顔のおばあちゃんが私を真っ直ぐ見ていて、私はぎくりと体を震わせる。


「千冬。聞きたいことがあるのだけど」


「は、はひ!」


 こ、こいつはやばいぞ! おばあちゃんこれ怒ってるぞ!


「もう十五の女の子なのだから慎みを持ちなさいと言っていたわね? 危ない事はしないよう言ったわね?」


「はい!」


「喧嘩は買ったのね。どんな喧嘩?」


「えっとぉ! 口! 口喧嘩ですよぉ!」


 発端はね。


「ふーくんとの練習……」


「あ、あのっ二人で必殺技を開発しようってやってるやつで!」


 高校生にもなって、とかそういうのはナシですよ。


「粛清は」


「あっあの、はる……美晴ちゃんが、よく不届き者にナンパされたりするので、一発……あの……」


「……」


「ち、違うんです! そこで引く奴にはなんもしてません! 強引に事を進めようとする輩にですね!」


「千冬」


 呼ばれて私は口を噤む。


「何度も言うけれど、もう十五になる女の子よ。もう少しお淑やかになるよう以前から言ってるでしょう。喧嘩もね、もう取っ組み合っての喧嘩はしないの。女子高生で男相手に素手で喧嘩なんて危ないからやめなさいと言ってたでしょう」


 ……たまに武器使ってたことは黙ってた方がいいな。


 そんなこんなで、おばあちゃんに懇々とお説教をされたのでした。

 くそー、隠せてたのに。レオルカさんのせいだ。そんな思いを込めてレオルカさんを睨むと、一応フォローをしてはくれたのだけどもおばあちゃんに普通に撃退されてた。


「ま、まぁまぁ、前の世界のことは知らんがこうして今こっちの世界で立ち回れているし」


「異世界から召喚なんて普通絶対起こり得ないことです。こっちの世界での事など免罪符にもなりません。この子の素行とは関係ありません」


「は、はい、すみません」


 異世界にいるのに元の世界での事を怒られている。

 気づいたら正座していた私は、我関せずの精神でこちらを見ている二人を睨んだ。


「ナガミネ、って誰なんでしょうか。チトセにはフークンと呼ばれてるみたいでしたが」


「二人で練習って言ってたし友達とかじゃないかな」


 ふ、二人で普通に会話しやがって! 助けろ! どうにかして!


「チトセさん、取り敢えずその辺にして、チフユの能力の確認をしていい?」


「わかりました」


 もっと早くそれしてほしかった。さっきの意味ないフォローじゃなく。

 まあいいや。


「多分出来ないと思うけどそのままやってみて。魔力を手に集中するイメージで。そうだな、火を出すイメージでやってみようか」


 多分出来ないっていります?


「わざわざ貶すなんて酷い人ですね。バックブリーカー食らわして良いですか?」


 手のひらを広げて言われた通りにやりつつ睨みつける。火……火よ出ろ〜。こんなんで魔法出来んのかな?


「また未知の事を言ってる……! バックブリーカーて何? なんか怖いんだけど」


「むむ〜……火出ろ〜……! 口で説明するより実際受けた方がわかりやすいっすよ。やりましょうか?」


「何で受けないといけないんだよ! こちとら君には四発もらってるから嫌なんだよ!」


 そんなに入れたっけ。ローリングソバット、ドロップキック、馬乗りになってからの二発。ああ、四発ですな。


「四発も五発も変わらないですよ」


「君はね! オレは違うの!」


 そんな会話をしつつも私は頑張ってみたけど何にも起こらなかった。


「バックブリーカー、とは日本名……私達の言葉で訳すと『背骨折り』と呼ばれるプロレス技です」


 おばあちゃんがそう解説すると、レオルカさんはドン引きした表情を私に向ける。

 ちょ、何でトリスさんまで引いてるんだ。あなただって女の子殴っただろ。


「せ、背骨折り!? オレの背骨折ろうとしてんの? こっっっっっわ」


「お前えげつねぇな……」


「実際に折るわけじゃないんですけど」


 なんかめちゃくちゃ心外なんですが。

 ちなみに結局魔法は出ませんでした。同じ事をおばあちゃんにやってもらったらあっさり炎の玉が出現しました。流石やで……。

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