第11話

「いやいや怖いよ。チフユちゃん怖かった。特にオレに馬乗りになって殴りかかってる時の顔は特にやばかった」


 のっそりと立ち上がったレオルカさんは引き攣った顔でこちらを見ている。

 怖いだなんて酷いわー。ナチュラルに名前も呼んでますけど、私は貴方を許してないからね。


「仲良くなってもないのにちゃん付けやめてもらえますか?」


「そういうところが! 怖いんです! 当たり強すぎでは!?」


「おばあちゃんが天才だったから良かったものの、運が悪ければおばあちゃんを巻き込んで怪我させてた。私がおばあちゃんを潰すところだった」


 私のせいでおばあちゃんが怪我をするなんて。私が原因で、おばあちゃんが痛い思いをするなんて、考えただけで死にたくなる。


「千冬、おばあちゃんは大丈夫だったのだから。それに、万が一あの力が出なくてもちゃんと受け止めるつもりだったよ」


 おばあちゃんが優しく言ってくれるけれどそれは結果論だ。私は、力量を計るためにこのやり方を選んだレオルカさんが許せないのだ。もし、受け止め切れなくて怪我をさせたら。骨折だってしていたかもしれない。


 そんな納得できない私を、レオルカさんは黙って見ていたけれど、やがて「言いたいことはわかった」と言って息を吐く。


「確かに危険だった。でもさ、万が一の事があったらギリギリで守ろうと思ってたし、」


「うそくせぇです」


「万が一だって。オレはね、チトセさんが絶対どうにかすると思っていたんだよ」


「!」


 自信満々に言い放つレオルカさんに、私は思わず息を飲む。いやいや今更何を言っても変わらんぞという気持ちを目一杯出す私に、レオルカさんは変わらず語り続ける。


「チトセさんは、とても清らかで高い魔力を持っているのがすぐに分かったよ。君が暴れまくるからつい隠れてしまうけれど、チトセさんだって君に負けないくらいに君を愛している。繊細で美しい彼女ならきっと君を守るなんて容易いはずさ。君のいう通り、チトセさんは天才だったしね」


 おばあちゃんは清らか。その通りです。清廉とは、おばあちゃんを表す為の言葉です。むしろ清廉という言葉の擬人化と言っても過言ではないです。


「いや過言だよ千冬」


 アッ口に出してた。

 私に負けないくらいに私を愛してる? やだ愛なんて言葉を使うと恥ずかしい。でもそうだね。私も愛してます。あっ恥ずかしい。


 そう、おばあちゃんは天才です。土壇場で私を助けてくれた。そして料理はうまい。美味しい料理を作れる。天才。


「料理は……普通なのよ千冬……。貴女の両親がダメダメなだけなの……」


 良妻賢母。才色兼備。どれもおばあちゃんを表していると言っても過言ではない。


「過言です」


「こいつすげぇな一人でこんな盛り上がって」


 おばあちゃんは控えめなので。謙虚なので、開けっ広げにはしない。

 でもまごうことなき女神なのは明らかだ。


「チトセさんを危険に晒したのは謝ろう。だけどね、これでチトセさんは天才で、土壇場に強い事も分かった。そして魔法も幅広く使えることもね。これからは身を尽くして守るよ」


「そうです。天才で美しいんです。土壇場にも強い。完璧です。まあ守るのは? 私だけでも事足りるとは思いますが? 少しくらいはご教授願うかもですね、魔法あたりはわからんので」


「勿論だよ」


 まあこいつはわかる奴だな、始めにも言ってたしな、孫と祖母には見えないって。若々しくて美しいって。わかる奴だ、今回のやり方は気に食わなかったけど。


「ちょれえなコイツ」


「しっトリス! 折角おさめたんだから余計なこと言うなよな」


「……千冬……。孫がすみません……」


 内容は聞こえなかったけど三人で仲良さげにしないでもらえますかね。


「おっと、結果を言わないとね。チトセさんは言った通り天才だ。難なく風の魔法でチフユを助けてたしね」


「うわっ呼び捨て」


「うわって何? いやもう知らないから! オレはチフユと呼ぶ!」


 まあいいか。今はそんな気にならないし。


「魔力も高いし、量も凄いね。器用なんだね、チフユを助けた時もしっかりコントロール出来てたし」


 そう。おばあちゃんは器用! 手先も器用! お料理も出来るし裁縫も出来る。


「褒め過ぎではないですか? 千冬の手前褒めてるのでは」


「いやいやチフユ抜きで貴女は天才ですよ」


 私の手前とは。


「で、チフユ。君はまぁ扱いは多分ド下手。チトセさんみたいにさらりとは出来ないだろうね。魔力はあるんだろうけど、不規則に放出されてる」


「ふーん」


「お前自分の事なんだからもう少し興味ある持てよ」


「あんまり興味ないなぁ」


「まあ聞いてよ。ド下手なんだけど、道具を通すと上手いこと出来てるんだよ」


「道具」


「そう。さっきの剣。すごい威力だったでしょ」


 ああ、確かに。すっごい地面えぐれてた。


「オレが思うに、武器を介して使うのに長けてるんじゃないかな。まあ色々試してみよう」


「面倒だなぁ……」


「お前……」


「チフユはチトセさんだけ頑張らせるつもりなの?」


「え」


 おばあちゃんにだけ頑張らせる?


「え、そういうことじゃないの? 面倒って」


 そ、そういう意味に聞こえちゃうのか!?


「ちっ違うし! 面倒だけど全力でやりますし! おばあちゃんを守る為にご教授賜っても良いですし!」


「そっか、良かった。頑張ろうねチフユ」


「おうともよ!」


 




「ちょろ……。そしてレオルカ様に扱い方を完全に把握されてる……」


「千冬……」

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