第13話「別行動ってありえなくない?」

「よく聞こえませんでした。もう一度お願いします」


「いやだから、チトセさんはトリス達と討伐へ行ってもらう。んで、君はオレと修行」


「よく聞こえませんでした。もう一度言ってみろ」


「だから、明日はチトセさんとチフユは別行動!」


「そいや!」


 何度聞いても変わらない返答。私は笑みを貼り付けたままレオルカさんに裏拳を繰り出した。ぱしりと手首を掴まれるが私は慌てない。


「よく聞こえませんでした。もういっぺん言ってみろ」


「このやりとり何回すんだよ! チトセさんはトリス! チフユはオレと行動すんの!」


 私の手首を掴んだままレオルカさんが叫ぶ。彼の背後には呆れ返った顔をしたトリスさんがいた。

 私はまとめて二人を睨みつけながら、掴まれていない手でチョップをお見舞いしてやろうとするがそれも掴まれ不発に終わる。

 だか私は諦めない。


「そいや!」


 両手を掴まれたまま私はぴょんと跳躍すると、そのまま両足をレオルカさんに叩き込んだ。


「うごっ」


 放される手。私はバランスを取れず地面に落ちた。


「あいたっ」


「何してんだよ」


 未だ呆れた顔をしながらトリスさんが近寄ってくる。手を差し出してきたが、私はその手を取らず自力で立ち上がり、汚れたであろうお尻を叩いた。

 いきなり紳士みたいなことせんでほしい。ぶん殴ったくせに。


「千冬、もうやめなさい」


 嗜めるようにおばあちゃんに言われて私はだってえ、と子供みたいな声を出してしまった。今の蹴りは見逃してもらえたようだ。よかった。

 私がこんな子供みたいにぶすくれているのには理由がある。先程から私がどうしても受け入れ難い、レオルカさんの提案。


「何で別行動なの! こんな見知らぬ異世界に来て唯一の味方であり心の安寧であり私の心の支えなのに! むさい男の群れにおばあちゃん一人を放り込むなんて出来ないよぉ! 危険過ぎるよぉ!」


 そんな私の嘆きを、私以外の人は理解してはくれない。レオルカさんは地面に座り込んだまま頭を抱えている。

 トリスさんはがりがりと頭を掻きながら言葉を探し、あろうことか騎士団は若い女ならまだしもおばあちゃんには何も感じないとのたまったのだ。

 ぷちりとキレた私がトリスを射殺さん勢いで睨んでいるのに気づいたおばあちゃんは、ぽんっと私の頭に手を乗せる。


「やめなさい、千冬。トリスさんの言ってる事は正しいよ。十代二十代の男の子が、自分の母親祖母と変わらない年齢の女性にどうこう思うことなんてないよ」


 そこに母親も入れるおばあちゃんが好き。自分が若いおばあちゃんてわかってるところ好き。


「わからないよ! 世の中には歳上好きだっているし何よりおばあちゃんと過ごしたら魅力にすぐ気づくに決まってるもん!」


「こいつ本当にめんどくせぇ」


 ぼそり、とトリスさんが吐き捨てる。聞こえてるからな。面倒臭くて結構ですー!


 はぁ、と大きな溜息がトリスさんから溢れた。そして仕方ない、と言ったような顔で私に真っ直ぐと向き合う。


「チフユ。チトセの安全は、俺が誓って守る。もう知ってるだろ。俺は年下が好きなんだ。だからチトセのことは誓ってそういう意味で好きにはならない。騎士団第一部隊の隊長として必ず守る」


「……」


 ものすごく真剣な顔で、トリスはそう言った。そういえば隊長だった。忘れていた。

 そんな真剣な顔で好みのタイプ言ってるのちょっと面白いな。言わないけど! 私は空気の読める女。


「ね、トリスもこう言ってるしさ。トリスの好みはチトセさんよりチフユだし大丈夫だよ」


 レオルカさんが立ち上がってにこやかに言った。そっかぁ。私の方が好みなのかぁ。じゃあ安心……ん?


「なっ何言ってるんすか!? レオルカ様!」


「本当の事だろ?」


「いや、別に、俺はチフユのことはっ」


 わたわたしてるトリスさんは気持ち赤い顔をしているような気がした。

 いやまぁ、うん。私くらいの歳の女の子がタイプってことね。わかってるわかってる。


「チフユはいくつになるの?」


「十五ですね」


「ドンピシャじゃないか!」


「レオルカ様!」


 もういいだろと言うようにレオルカさんの肩を掴むトリス。まあいつまでも自分の好みのタイプをネタにされるのは可哀想か。


「千冬。不安に思う気持ちもわかるわ。おばあちゃんも不安だから。でも大丈夫。千冬ならすぐに出来るはず。千冬はやれば出来る子なの知ってるわ。あなたは自慢の孫だから」


 自慢の孫!


「明日はお弁当を作ってあげようね。後、お夕飯は千冬の好きな物を作ろうか」


 お弁当!! お夕飯!


「じゃあじゃあっ、お夕飯は煮物! 煮物食べたい!」


「いいよ。それを作るから、千冬も頑張っておいで」


「がんばる! 自慢の孫だからね!」


 おばあちゃんのお弁当持って修行!

 そんなんすぐに効果出るに決まってる!

 そう、明日は朝からコースなのだ。なんてこと。でもおばあちゃんのお弁当があると思えば少し楽かな。

 私は魔力の扱いがド下手らしい。だから明日はおばあちゃんと一緒にいれない。だから、明日の修行で、絶対に完璧にしてみせる。

 私はやれば出来る子!


「ありがとう、チトセさん……」


「いえ。孫がお手数おかけします。駄々を捏ねたらおやつも作るとちらつかせてください」


「チフユ……。と、レオルカ様。そちらにはフレドを置いていきます」


「わかった。さて、明日は頑張らないとね」


 また三人で話してる……。悔しい。

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