不協単音
完全五度は完全協和音程です。
いや、それはないでしょ。ガンガンぶつかりまくってますけど?
ギターをいくら音程ぴったりに調弦しても、コードを鳴らしたときの気持ち悪さは拭えなかった。
そもそも音って気持ち悪いものなんじゃないのか?
音程やリズムに空気の振動を無理矢理当てはめるなんて。いや、私たちが普段聴いている自然音だって気持ち悪いのかもしれない。だって揺れているのだから。自分に心地よい揺れというものがあるはずで、つまり音とは音源と自分の身体との共鳴なのだ。いくらきれいな整数比の周波数を鳴らしても、受け入れる側の器と合わなければおしまい。それが単音であったとしても、不協単音。音と音がぶつかるのではなく、音と自分がぶつかる。いくら音源が音同士の調和によって神秘的な世界観を構築していたとしても、無駄。
その点打楽器はいい。人はリズムに順応する能力を持っている。単調な労働作業を何千年としてきた強みだ。でもどうだろう? 現代にはリズムというものがない。いや、あるのか? そもそもリズムに順応する、というのは動きを伴う前提のことであり、つまりダンスミュージックが私の最適解なのか? いや、私自身はリズムに順応する能力などないんだった。いつもワンテンポ遅い反応で学校生活も何もかもを取り逃してきたんだった。わからない。いろんな思考を巡らせては、これじゃない、あれでもないと破棄。
純正律というやつの動画も聴いてみた。確かに和音はきれいだ。でもそれでもないと思う。きれいになった分、鋭利な刃物が鼓膜を引き裂いてくる感覚すらあった。自分の耳はおかしいのだろうか。少なくともクラッシック向きではない。Jポップもわからない。ロックも、HIPHOPも。わざと理論に背いて気持ち悪い音作りをしてる曲もあって、それはまだしっくりきた。しっくりきただけで、好きにはなれないのだけれど。
ネットとCDの世界だけでは音楽は狭すぎるのだろうか。どこに行けばいいのだろう。ライブは行きたくない。私のパーソナルスペースが、音楽との距離と信仰心が、崩壊する。
DTM画面に向き合う。Qbaseに入れた自分のギターソロを聴く。耳の穴の中に鉄屑の塊を押し入れられたような感覚になる。どこも間違っていない、音楽理論は、和声は押さえたはずなのに。頭の中がガンガン痛む。
いっそ聴かなければいいのでは?
そうだ。いっそ、このギターソロからはじめて、あとは一切、自分は音を聴かないまま曲を作って、投稿する。人気が出ればそれでいい。少なくとも、前回の投稿が高校二年の時で止まっているのは避けたい。なにかをはじめなければ成功なんてあり得ない。7年間もいったい何をしていたんだろう。
もう、画面に模様を作るくらいの気持ちで入力した。頭の中ではなんとなく音は鳴っているのだけれど、細かいところは気にしなかった。馬鹿にしていた。どうせ音楽なんてこんなもんだろ? こんなテキトーなのでフロアが沸くんだろ? じゃあゴミ作って売ってやるよ。金が入ってくりゃそれでいいんだから。少なくとも親の仕送りに頼らずに、生きていけるように、ならなきゃ。鉄屑売って、人の耳と脳にゴミ放り込んで、そんなのでいいよ、もう。生きなきゃ。生きるためには間違うしかないんだ。間違わない生き方なんてできないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます