第6話
運ばれてきたラーメンたちが、食べられるのを今か今かと待ちわびている。
湯気立つ目の前の天国を前に、月ヶ瀬さんの目が変わった。
いつものほんわかした眼差しや、どこか期待を持ったこちらを試すような目ではなく、完全に獲物を狩る捕食者の様相を呈していた。
「では、いただきます」
その佇まいや武士もかくや。
あれ、魔法使いって話だったよな……?
左手に持つのは刀ではなく箸……っと月ヶ瀬さん、左利きなんだ。何かとこの現代社会、生き辛いだろうなぁ。
俺も遅れないように箸を手に鶏白湯ラーメンと向かい合う。
勇んでひと口。うわ、すごい。
もったりとしたとろみのあるスープに麺が絡む絡む。行列のできるラーメン屋だからインパクトのある味かも思いきや、意外にも繊細。
口に入れたそばからするすると通り抜けて喉へと進んでいく。
しかしそれだけでは終わらない。
しっかりと味のついた肉厚チャーシューがコントラストを生み出している。
噛めば噛むほど味の出る肉に上品な鶏白湯スープがこれまた合うもんだ。
走馬灯のように駆け抜けた味たちを伝えたくて左を向くと、今日何度目か分からない綺麗な瞳と視線がぶつかる。
「ここの鶏白湯、美味しいですよね」
うっとりとした表情が、彼女も同じ道をたどったのだと語っている。
「えぇ、ほんとに……こんなのスープ飲むための具じゃないですか」
「そうなんですそうなんです!」
目を輝かせてずいっとこちらに身を乗り出してくる。よっぽど好きなんだろうなぁ。
美味しさを語られるのかと思いきや、彼女は自分の席へと戻っていく。
「麺が伸びてしまうので、先食べましょう……!」
やっぱりラーメンに、というか食にかける思いは熱いみたい。
言われるがまま麺を啜る。ほんと、スープ飲み干したいくらい美味しいな。
数分後、隣から満足気なため息が聞こえる。
「はぁ……至福……」
1人で来ても楽しんでそうだなこの人。
まぁ、美人の幸せそうな顔を見れるってんだから役得もいいところか。
「鶏白湯、堪能しました?」
にっこり笑いながら彼女は俺に言葉を放つ。
「それはもう!豚骨も美味しそうでしたね、また俺も頼もっと」
あんなに美味しそうに食べられたら豚骨の方も気になるじゃないか。
こちらを見ていた月ヶ瀬さんはにやっと笑って指をくるくる回す。
刹那、口に濃厚な豚骨ラーメンの味が飛び込んできた。
「ほんものはもっと美味しいですよ」
驚いて口に手を当てていると、彼女の持ち上がった髪が静かに肩口へと落ちていった。
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