第3話
『幾野さんって普段定時は何時ですか?』
そんな連絡が月ヶ瀬さんから来たのは夏の暑さがまだまだ残る10月初めのお昼。
初めて会った日から2週間くらいだろうか。
『いつもは18時です。繁忙期はちょっとアレですが』
『アレって……お疲れ様です。ちなみに今日はどうです?』
えらく急だな。
『今日なら18時に会社出れると思います』
『もし良かったらなんですが、美味しいお店見つけたのでお仕事終わった後に会いませんか?』
合コンに誘ってくれた同僚たちにあれから何かあったかと聞いてみたものの、返事は芳しくなかった。
ということは俺だけか。人数合わせのはずが、なんだか関係が続いてしまって申し訳ないな。
仕事でPCに向かいながらも、先日のあの光景が頭から離れない。
猫って浮くのか……?
かと言って俺が警察に駆け込んで「魔法使いがいます!」とか興醒めなことしても頭のおかしいアラサーがいるって処理されるだけだろうしな。
昼休みももう少し、連絡だけ返しておくか。
『そういうことでしたらぜひ』
『ではでは!この前初めてお会いしたお店の近くでお願いします!』
鬱屈とした業務時間も終わり、PCをシャットダウンする。
一応お手洗いで髪をセットして会社の外へ。
前回は3人で乗った電車に1人で乗る。
社畜たちを運ぶ電車の静かなこと、この前の合コン帰りとは大違いだ。
冷房のサーっという音と車輪が転がるリズミカルな音が眠気を誘う。
眩しい西陽に目を閉じたまま、俺は意識を手放した。
「幾野さん、ねぇ幾野さんってば」
声が聞こえて目を覚ます。
景色を見て察するにまだ待ち合わせ駅の一つ前だ。
ふと左膝に手が置かれているのに気がつく。
ゆっくり顔を向けると、すぐ近くにあの整った顔があった。
「おはようございます、幾野さん。やっぱりお疲れですか?」
「月ヶ瀬さん、なんでここに……」
思い浮かべたのはあの勝手に動くマドラー。これももしかして、
「魔法、じゃないですよ」
ふふっと息を漏らしながら彼女は言葉を紡ぐ。思考が読まれてら。
「偶然お見かけしたのでお隣譲ってもらったんですよ」
ついついと人差し指を振る彼女。それって結局魔法じゃないか。
いや、ほんとに魔法なんてあるのか?そもそも。だめだ、寝起きなのもあって頭が回らない……というか全力で考えてもわかんないだろ。
そんな俺を差し置いて電車は速度を落としてホームに乗り入れる。
すくっと先に立った彼女から手を差し出される。
「それじゃあ行きましょっか!お腹、空いてますか?」
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