第2話
合コン自体は恙無く終わった、と思う。連れてきてくれた2人も楽しく喋ってたしな。
一応全員と連絡先は交換したから成果としては悪くないんじゃないだろうか。
「今日は来てくれてありがとうな〜!」
俺を誘ってくれた同僚が手を振りながら駅の方へと向かっていく。
店からすぐの駅に同僚2人とお相手女性2人が消えていった。こういう時、自宅最寄り駅の沿線って大事だなぁと思う。
ほどよく酔っていると少し歩きたくなる。
一歩、二歩と足を踏み出せばどんどん知らない道へと身を任せてしまう。
金曜日だし少し遠回りして駅に行くか。
頭がアルコールに浸っていると、どうにも世界が鮮やかに見える。
繁華街のネオンが視界に青や白の残像を散らしていく。
そういえば月ヶ瀬さんが触れずにマドラーを動かしていたのは手品かなにかだろうか。だとすればまたクオリティの高いというか一発芸性能が高いというか……。
大通りから路地に入って住宅街を抜けていく。駅前はガヤガヤとしていたが、一本中に入るとかなり静かだ。
信号に差し掛かった時、さっきまで一緒にいた月ヶ瀬さんが見えた。
点滅が終わりランプが赤に変わる。
とその時、一匹の黒猫が歩道から車道にてくてく歩いていった。
まずい、と思うのが先か身体が動いたのが先か。
頭では間に合わないと分かっていても、足が前に出るのを止められない。
もう無理か。酔っているせいか走ったせいか、心臓がどくんと脈打つ。
車が発進する。俺は何故か目を逸らせなかった。
あぁどうか神様。
普段信心深いなんて口が裂けても言えないが、こんな時ばかり頼って恐縮だが、それでも今だけは。
果たして祈りは聞き入れられた。神様にではなく、俺の隣に立つ美人なデザイナーに。
月ヶ瀬さんは、まるでオーケストラを指揮するかのように腕を振る。
風は無いはずなのに長い髪がゆらりと靡き、青白い火花がバチバチと弾けた。
すると車に接触する寸前だった黒猫がUFOキャッチャーに掴まれたかのように空中に浮き、静かに彼女の腕に収まった。
「もうこんな危ないことしちゃだめだよ」
彼女は優しく微笑むと、黒猫を地面に降ろす。
にゃー、とこちらを向いてひと鳴きすると、彼は車道とは反対側の路地へと消えていった。
思わず言葉を失って彼女を見つめる。
「ふふ、
彼女は髪をかきあげて耳にかける。
口の端をくいっと持ち上げてこちらに目を向ける彼女は、今まで見たどんな人よりも綺麗で。
「ねぇ、魔法ってさ」
パチッと火花の散った瞳はこちらを試しているみたいで。
今見たものはどう考えても本物だろう。ならばこの後の問いに対する俺の答えは決まっている。
彼女はなんでもない風に言葉を続ける。
「この世に存在すると思う?」
俺は静かに頷いた。
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