「このままでいいの?」

 たまたま実家に身を寄せたとき、母親がそう切り出した。

「これからどうしたのか、あなたからちゃんと伝えないと。一緒に暮らし始めて、結構長いでしょ」

 外から見たら、そんなふうに思うのかとぼんやりと考えた。急に罪悪感のようなものを覚えて、返す言葉が見当たらない。伝えるって言われても、僕はいったい何を伝えたらいいのか。

「そんなんじゃ、ないんだ」

 姉には感謝してもしきれない。しかし、そんなことをわざわざ伝える必要もない。もちろん、母親が意図するところは理解できているつもりだ。

 コウキを連れて三人で出かけると、普通に親子連れと思われた。姉の手前、その度に訂正していたのだが、最近は面倒になって、そのまま通すことが多くなっている。

 だからといって、なし崩しのように妻のかわりを姉にお願いするというのも、何かが違うような気がしてならない。姉のことは尊敬しているし、ずっと一緒に暮らせたらいいとは感じている。……けれど。

「曖昧にしておくのは、よくないと思うけどね」

 母親の言い分もわかるし、世間の目も気にならないわけじゃない。ただ、僕の心が定まっていないのに、それを無理やり、言葉に変えてしまってもいいものなのか……。

「このままでいいの?」

 母の問いかけはときおり頭をかすめ、僕の心を乱すのだった。

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