5
姉の三十三回目の誕生日を、リビングで祝った。
フライドキチンを食べて、ロウソクが消えたケーキを切り分けた。三人でゲームを始めると、すぐにコウキは夢中になった。自然と身振り手振りが大きくなり、ソファの上で何度も笑い転げた。こんなにはしゃぐ彼は珍しかった。
「じゃあ、もう一回しよう」
夜が更けるにつれ、コウキは目を擦り始めた。欠伸の回数が増えていくのを横目に、僕は声をかけた。
「これでラストにしようか」
「まだ、したいけど……」
「また今度ね」
肩に手を添えて、姉はくすくすと笑った。
コウキが部屋へ戻るのを見送ってから、僕は熱い飲み物を二つ用意した。
「ありがとう。……楽しそうだったね、コウちゃん」
姉はカップを受け取りながら、頬を緩めた。
「自分の誕生日と間違えてるんじゃないですかね……」
いまだに姉に対して敬語をつかうけれど、それを気にしたことはない。
「また一つ、歳をとっちゃった……」
姉はカップに口をつけ、細く息をついた。
「三十のときに旦那と別れて、もう三年。新しい人生をスタートさせたはずなのに、すぐに妹が死んじゃって。いろいろ重なったせいか、自分を見失ってた。今ここにいるのも、何か信じられない感じがするし……」
妻によく似たその横顔を、僕はただ眺めた。
「ああ、勘違いしないでね。ここにいることが、いやだってわけじゃないんだから……」
姉が真剣な表情を見せたとき、ふっと、心が揺らぐのを感じた。
姉に対して何か言うべきなら、今なんじゃないかと……。
「もしよかったら……」
いくら探してみても、この想いを伝えられる言葉なんて見つからない……。それなら。
「もしよかったら、僕らと本当の家族になりませんか?」
口にしたものの、その言葉には心がないように聴こえた。物足りなさと、余韻の不自然さで、居たたまれない気持ちになっていく。
「コウキも喜ぶと思うし、それに……」
言葉を重ねてみても、何も変わらない。姉にどんなふうに伝わったのか、想像もできなかった。
姉は少し驚いたような仕草を見せてから、静かに
「……少し考えさせて」
僕らは他人から見れば家族だった。
けれど、そこには何の約束事もない。いつ損なわれるかしれない危うさがある。そんな当たり前のことに、今更ながら僕は気づいてしまった。
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