第一話 救世主

「このルートも駄目なのかよ!!!」


危うくスマホを床に叩きつけそうになるが、寸前のところで留まる。


二日かけて見つけた新規ルートがまさか町中で石につまずいて転んで死ぬ、なんて終わり方すると誰が想像できるだろうか?


あーーー!ほんとイライラする!!









































っとまぁこんなふうに今の俺にはハマっている……というか半分意地になって続けているゲームがある。


【歯車が狂う前に】


というある無名の会社が出したソシャゲだ。


ありえないほど綺麗。まるで現実世界かのような作画。それを全面に押し出したPVはリリース前にもかかわらず絶大な支持を誇った。


そしてゲームにはもう一つ大きな売りがある。


マルチエンディングだ。


選択肢によって様々なルートに分岐し、プレイヤーによって違うストーリーを進んでいく。


ソシャゲには珍しいシステムであった。


それもあってかネットで大いにバズり、運営が広告に力を入れていたこともあって事前登録者数は100万人を突破した。


普通にあり得ない数字である。


凄まじい期待の中始まったこのゲーム。リリース後もさぞ人気だろうって?


あはは、低評価の嵐さ!


はい、ここでストアのレビューを拾ってみよう。


『どうあがいても推しが死ぬ。というか全部死ぬ。あまりに救いがなさすぎるストーリーで読んでて楽しくない』


『鬱ゲー好きだけど、流石に数が多すぎてイライラする。多ければいいってもんじゃない』


『意味わかんない』


など様々である。


まぁ、要するにあまりに救いがないのだ。


始めから鬱ゲーとして売っていたのならまだしも、グラフィックを全面に押し出していたので、鬱展開が苦手な人も結構プレイしており……


そりゃレビューが悲惨なわけである。


あまりにバットエンドしか見つからないので運営に問い合わせたところ……


『このゲームは約22,500種類のバットエンドがあります』


だそうだ。控えめに言って頭おかしい。


この投稿もあってまともなプレイヤーはほとんど辞め、今は鬱ゲー大好きなド変態か俺みたいにあるかもしれないハッピーエンドを探すのに躍起になっているやつしかいないのである。


そして俺はそんな数少ない変人プレイヤーの一人と言うわけだ。


なんて言うか、このバットエンドの中でずっと苦しんでいるキャラクターをどうしても救いたくなってしまうのだ。


運営はハッピーエンドがないとは明言していない。


ならば、追ってしまうのがオタクというものだった。


「取り敢えず、掲示板に今回のバットエンドへの分岐乗せとくか……」


俺と同じように丸二日かけて石につまずいて死ぬやつがいないとも限らないからな……


実際、俺もこの攻略掲示板のおかけで時間を無駄にせずに済んだことがいくつもあった。


数少ないプレイヤー同士だ。助け合ったほうがいいに決まってる。


ま、ハッピーエンドは俺が最初に見つけたいって気持ちもあるが……


そうしてスマホで掲示板を立ち上げようとしたところ、今更充電がもうほとんどないことに気がついた。


相当長いことゲームしてたからな。貴重な休日に何してんだって話なのだが。


スマホは現代人の生命線。早く充電しなければ。


俺は重い腰を上げ、充電器をとりに立ち上がったその瞬間、


おそらくペットボトルを踏んだ。


「へ?」


と無様な声を上げて倒れる俺。


あ、これやったなぁ、なんて思いながらスローで流れる世界を眺める。


『……と……た……』


良くわからない言葉が頭に響くのを感じた。


後ろには先程まで座っていた机。


俺は思いっきり後頭部をぶつけて……












































「……って死んでたまるか!!!」


俺は勢いよく立ち上がる。


このままじゃ未練だらけだわ。簡単に死んでなんかいられな……


ってあれ?


俺は辺りを見渡す。そこはどこまでも広がる草原だった。


……ん?


脳の処理速度が追いついていない。俺ってさっきまで自分の部屋にいたよな?


寝ている間に連れてこられた……とかも一瞬考えたが、そんなことしてくる友人は居ない。


「どうなってんだ?これ。夢でも見てんのかな」


机の角で頭をぶつけたことは確実だし、ここが天国だったりするのだろうか?


にしては色々リアルなんだよな。


「ってか頭全然痛くないし……やっぱ死んだのか?」


そうして後頭部に手を伸ばそうとしたときに気がついた。


何かが首の辺りにある?


触ってみると凹凸のある感じで結構ゴツい。


俺はこの正体に心辺りがあった。


【歯車が狂う前に】のキャラクター達はモブも含め全員首に歯車が埋め込まれていた。


そう、凹凸のあるゴツゴツした……


冷や汗が出てくる。いや、うん流石にないだろ。


そう思いつつも、俺はゆっくりとしたの方に視線を向けて、


……うん、あるわ歯車。


しかも、主人公に付いてる黒色のやつが。


「どうなってんだこれはよ!!!」


一度自分の頬をつねってみるが、ちゃんと痛い。


これって、もしかして……


「転生ってやつ……?」


俺の問いかけは虚しくも誰も居ない草原に響き渡った。




















用語解説


歯車→この世界の住民はすべての人が平等に役割を持っている。その歯車は世界におけるその人物の運命であり、個性である。一つとして同じものは存在せず、皆違う色や形を持っている。その歯車は世界における絶対的な規則であり、歯車を回すことで自身の権能を行使できる。





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