17 ありがとう先生2
――ご……50点っ!? ば……バカなっ!?
もしあてずっぽうで当てられたらマズいと思って、ペヴルくんにだけは王宮魔術師の採用試験用のテストにしたのに……!?
毎年受験しているこの私ですら、10点も取れない難しいテストなのにっ……!?
シットシット、シットットぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!?
そうとも知らず、僕は自分の浅はかさを悔いていた。
僕は前世の記憶を取り戻していたので、テストでは最下位にならないだろうという自信があった。
他の生徒が罰を受けることになったらかわいそうだと思ったから、罰の対象をオーシット先生にすることを申し出たんだけど……。
でも……違ったんだ……。
僕を狙い撃ちして罰を与えようとしてたわけじゃ、なかったんだ……。
オーシット先生は、僕にだけ簡単な問題を与えて、いい点を取らせて……。
魔術師の生徒たちに、戒めを与えようとしていたんだ……。
剣士だからといってバカにしてはならない……!
【勝ってローブの紐を締めよ】、と……!
そうだ、やっぱり僕に配られたテストはみんなとは別のものだったんだ。
尋ねたときに否定されたけど、そりゃそうだよね。
みんなの前で、ハイそうですなんて言えるわけないもん……。
証拠ならある。僕と同じ問題をやっていたのなら、あのピュアリスやアグニファイが50点しか取れないなんてありえないもん。
きっと彼らに配られていたのはかなりハイレベルな問題だったに違いない。
貶めるフリをして、みんなに猛省を促すなんて……。
オーシット先生は、本当にすごい人だ……!
僕は感動のまなざしを向けたんだけど、しかしオーシット先生は動き出したポーラスター像にガシッと捕まえられていた。
「シットギャアッ!? ぽ、ポーラスター様! こ、この決闘はウソなのです! 本気でやろうとしたわけじゃ……!」
ポーラスター像はジタバタと悪あがきするオーシット先生の身体を小脇に抱え、そのままベランダのほうに連れていく。
この学園のベランダはテラスみたいに広いんだけど、そこでなにをするのかなと思っていたら……
ポーラスター像はがばぁと手を振り上げ、オーシット先生のお尻を音高く打っていた。
まさかの、お尻ペンペン……!?
叩かれるたびに、オーシット先生はシッポを踏まれた猫みたいに大暴れ。
「ポーラスター様、これはなにかの間違いです! そ、そう! ペヴルくんはカンニングをしてました! だからお仕置きを受けるべきはペヴルくんで……! シットギャァァァァァァッ!?」
なんかいろいろ言ってたけど、ポーラスター像は聞く耳を持たずに刑を執行していた。
「お……お許しを、ポーラスター様っ! こ、こんな姿を校長に見られたら……た、大変なことに……! シギャァァァァァァァァーーーーーーーッ!?!?」
オーシット先生は叩かれるたびに大騒ぎするものだから、どんどん注目を集めていく。
ベランダには他のクラスからも生徒たちが出てきているし、校庭には大勢の生徒や先生方が集まってきていた。
なかには、いちばん見られたくなかった校長先生の姿もある。
校長先生は、嫌悪感丸出しの表情でオーシット先生を見上げていた。
ポーラスターのからのお仕置きは、【100叩きの刑】。
しかし僕のせいで倍になっていたので、オーシット先生は200回お尻を叩かれていた。
後半になるとポーラスター像も面倒になってきたのか、尻を暴れ太鼓みたいに連打。
その頃になるとオーシット先生はショックのあまり引きつけを起こし、泡を吹いていた。
お仕置きを終えたポーラスター像はオーシット先生の身体をゴミのように投げ捨て、元いた場所へと戻っていく。
生徒たちの人混みをかきわけるようにして救急隊員がやってきて、オーシット先生を介抱する。
この学園は決闘が日常茶飯事だけあって、救急体制は万全らしい。
ズボンの上からでもわかるくらいパンパンに膨れ上がったお尻を見て、救急隊員たちは憐れみとも呆れもとつかない声を漏らしていた。
「あ~あ、ひどいなぁ。こりゃしばらくの間、うつ伏せにしか寝られないね……」
「新学期早々に出動があるなんて……しかも、生徒じゃなくて先生を運ぶとは……」
「「とんでもない時代になったもんだ……」」
救急隊員たちはテキパキとオーシット先生をタンカに乗せ、保健室へと運んでく。
僕はその様子を教室の中から見ていたんだけど、いつの間にか隣にはピュアリスが寄り添っていた。
目が合うと、彼女はいつもの感激ポーズを取る。
「ペヴルさんって、すごいです……! 剣士なのに、魔術師のテストで50点も取るなんて……!」
いつもなら嬉しい褒め言葉も、今回だけは素直に喜べなかった。
だって……。
「僕なんか、ぜんぜんすごくないよ……。すごいのは、オーシット先生だよ……」
ピュアリスにそのすごさを伝えたいんだけど、オーシット先生はきっと望んでいないと思う。
僕にできることといえば遠ざかっていくその姿を、恩師へのまなざしで見送るくらいだった。
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