16 手加減したのに2

 クラスはまるで、汚いバカ犬がまぎれこんだみたいに「うわぁーっ!?」と大騒ぎ。


「正気かよ!? 剣士が魔術師のテストを受けても、1点も取れないのに!」


「きっと、当てずっぽうに書いても最下位にならないと思ってるのよ!」


「あいつ、何もわかってねぇ! バカだ! とんでもねぇ大バカだ!」


「ふん……! どうやらあの剣士は、ピュリスにいい格好をしないと死んでしまう病気らしい!」


 アグニファイがそう言うと、まわりに座っていた取り巻きっぽい生徒たちがゲラゲラ笑っていた。


 なにはともあれ、僕とオーシット先生の【テスト対決】の火蓋が切られる。

 といってもオーシット先生はテストを受けず、見守る立場であった。


 クラスメイトたちが答案用紙にペンを走らせるなか、オーシット先生は嫌らしく笑っている。


「ペヴルくんはペンを持つどころか、口をあんぐりさせていますねぇ……! どうやら手も足も出ないことに、いまさら気づいたのでしょうねぇ……! でも、もう撤回はできませんよぉ……! シシシット……!」


 僕の口が開いたままが塞がらなくなっていたのは、オーシット先生の言うとおりテストの問題のせいだった。


 な……なんだこれ……!? 少しはわかるだろうと思ってたけど……!

 あまりに……簡単すぎる……!? こんなに簡単な問題じゃ、半分寝ながらでも100点取れちゃうよ……!


 僕が生まれ育ったアスベスト家は山奥で、まわりは剣士しかいなかった。

 だからこの世界の魔術のレベルみたいなのが、どれくらいかは知らなかったんだけど……。


 このテストの簡単さからすると、相当低い……?


 まさかと思い、テスト中だったけど僕は手を挙げた。


「あの、先生……このテスト、みんなと同じものですか? いくらなんでも……」


「シット! 当然、同じものに決まっているでしょう!」


 ピシャリと言われ、まわりから失笑が起こった。


「プッ! アイツ、いまさら気づいたみたいだぞ!」


「あまりにわからなすぎて、自分のだけ難しい問題になってると勘違いしてるよ!」


「さすがバカな剣士だけあるぜ! お仕置きが見物だな!」


 僕は釈然としないものを感じつつも、テストを再開する。


 どうやら、間違いとかじゃないみたいだ……。

 てっきり僕のだけ、小学生用の問題だと思ったんだけど……。


 これなら100点を取るのは簡単だけど、でも取るわけにはいかない。

 だって剣士の僕が魔術師のテストで満点なんて取ったりした日には、僕が魔術を使えるんじゃないかという疑いを向けられてしまうから。


 となると手を抜くしかないんだけど、どれくらい抜けばいいのかな?

 平均点がわかれば、その点を目指すんだけど……。


 しかしわからないので、僕はちょうど50点になるように答えを書いてみる。


 これはちょっとした賭けだった。

 クラスメイトたちの最低点が51点だったりしたら、僕が最下位になってしまうからだ。


 まぁ、その時は罰を受けるしかないか……。


 それからしばらくして制限時間となり、答案用紙が集められる。

 教壇の後ろには黒板ならぬ水晶板があるんだけど、その下にある投入口みたいなのに束になったテストの答案が入れられた。


 どうやら水晶板は【魔導採点装置】の機能があるみたいで、【採点中です】の文字が表示される。

 やがて表示が切り替わり、ドラムロールとともに順位が発表された。



 1位 アグニファイ・メテオブラッド

 1位 ピュアリス・ダイヤモンズ



「やっぱり!」と大喜びのオーシット先生。


「【スターチルドレン】のアグニファイくんと、【極星の巫女】のピュアリスさんがともに1位! こんなところでもいっしょなんて! ふたりはまさに運命のカップルというわけですねぇ!」


「当然の結果だ!」とアグニファイ。「そんなことは……」と苦笑いのピュアリス。

 しかし次の瞬間、水晶板に表示されていたふたりの名前の間に、待ったをかけるように別の名前が割り込んできた。



 1位 アグニファイ・メテオブラッド

 1位 ペヴル・スラムロック

 1位 ピュアリス・ダイヤモンズ


 以上同率1位、50点



「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 クラスメイト全員が総立ちになる。


「う……うそだっ!? うそだーーーっ!?」


「剣士が50点も取るなんて、ありえない!」


「これはなにかの間違いだ! 間違いだーーーっ!」


 教室内は大混乱に陥っていた。


 アグニファイはアゴが外れんばかりになっていて、ピュアリスは大きな口を手で覆い隠してビックリしている。

 しかしいちばん驚いていたのはオーシット先生で、ほとんど目玉が飛びだしていた。


 このとき、僕は知らなかった。

 まさか先生が、こんなことを考えていたなんて……。


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