15 テストで決闘

 昨日の夜は本当に楽しかったなぁ……。

 いっぱい食べて、いっぱいおしゃべりして……。


 ピュアリスが僕の口をハンカチで拭いてくれたときなんて、キュン死するかと思った。

 夜遅くまでいっしょにいて、【白銀寮プラチナホワイト】の前まで送っていった。


 けっきょくその日、僕は寮の中に入らずに庭で眠る。

 小鳥のさえずりで目を覚ますと、近くの池で顔を洗って、昨日の残り物を朝ごはんにしてから校舎のほうへと向かった。


 ポーラスターの校舎を最初見たときは、ここに毎日通うのかと憂鬱になったんだけど……。

 昨晩のように楽しいイベントがこれからもあると思うと、スキップで登校できた。


 この学園は職業によってクラスや受ける授業が分かれていて、僕は【剣士科】だ。

 だから剣士科の教室へと向かったんだけど、廊下でオーシット先生に呼び止められる。


「シット! ペヴルくんの教室はそっちじゃないですよ! 私の隣にシットダウンするのです!」


 そう言って連れて行かれたのは魔術師科の教室。


 教室は扇状の形をしていて、扇の狭いところがステージ上の教壇になっていた。

 生徒たちの席は階段状で奥にいくほど高くなっていて、いちばん高いところにはピュアリスやアグニファイなどの名家といわれる生徒たちが着席している。


 そして僕はというと……なぜか教壇の上、教卓のすぐ近くにポツンとある席に座らされた。


「あの……オーシット先生、これは……?」


 オーシット先生によると、この学園には【特別参加】というシステムがあるそうだ。

 これは、授業に他の職業の生徒を招いていっしょに勉強し、お互いの学力の向上を図るというものらしい。


 すでにこの学園では問題児となっている僕が授業に参加したので、魔術師の生徒たちはザワついていた。


「シット! 静かに! 今日は初日の授業ということで、特別にテストをしましょう!」


 一部の生徒から「えーっ」と嫌そうな声があがる。


「シット! このテストではみなさんの初期の学力を見るのが目的なので、どんなに点数が悪くても成績には影響しません! ただし最下位生徒だけは、ポーラスター様からのお仕置きを受けてもらいます!」


 オーシット先生は、教壇の後ろにあるポーラスター像を示している。

 3メートルくらいある大きなヤツなんだけど、どうやらアレが動き出してお仕置きするらしい。


 生徒たちの声は「おおっ!」と喜びに変わっていた。

 ピュアリスだけは納得いかないようで、「せ……先生!」と手を挙げる。


「もしかして、剣士のペヴルさんも魔術師のテストを受けるということですか?」


「ええ、もしかしなくても受けてもらいますよ」


「なら、ペヴルさんは【おまめさん】なのですよね? でないと最下位はペヴルさんに……」


 【おまめさん】というのは、鬼ごっこなどで幼い子が参加するとき、鬼につかまっても鬼にならなくてもいいという特別ルールだ。

 このテストの場合だと、僕がテストでビリになっても罰を受けず、ビリから2番目の魔術師が罰を受けることになる。


 しかしオーシット先生は、それを「シット!と一蹴した。


「おまめさんなんて特例はありません! ペヴルくんも同じ学園の生徒なのですから、同じテスト、同じ罰則を受けるのが筋というものでしょう!」


「そんな……あまりにも理不尽すぎます! なら、わたしはPPを使います! ペヴルさんのテストを免除に……!」


 PPってそんな使い方もできるんだ。

 オーシット先生は「ぐぬっ!」となっていたので、僕がかわりに言った。


「ありがとうピュアリス。でも、その気持ちだけもらっておくよ」


「えっ、でも……!?」


「僕、テストを受けてみたいんだ。それに、PPをそんなことに使うなんてもったいないよ」


「し……シット! その通りです! こんなどこの石ころともわからない剣士に、ピュアリスさんがPPを使うなんて……!」


「あ、オーシット先生、みんなと同じようにテストを受けるかわりに、ひとつ条件があるんですけど」


 僕は先生の返事を待たずにその条件を告げた。


「もし僕が最下位にならなかったら、罰は生徒じゃなくて……オーシット先生が受けてもらえますか?」


「シット! なにを言っているのですか? 剣士のキミが魔術師の教師である私に条件を出すなんて、あってはならないこと! だいいち……!」


「受けてくれるなら、罰の量を倍にしてくれてもいいですよ」


 するとオーシット先生のチョビヒゲが、興奮した猫みたいにピーンと逆立った。


「い……言ったね!? いま、言いましたね!? ポーラスター様からの罰は、この学園においてもっとも不名誉とされているのですよ!? それを、倍にするなんて……!? ペヴルくん、自分の言っていることの意味がわかってるんですか!?」


「もちろん、わかってますよ」


「言っときますけど、最下位になったあとで、ウソでしたは通用しませんよ!?」


「その言葉、そのままお返ししますよ」


「ならば、決闘です! 決闘になれば、言い逃れはできない……! ここに、ペヴルくんとの決闘を宣言します!」


 ピュアリスが見かねた様子で「お……おやめくださいっ!」と立ち上がったが、僕は「大丈夫だよ」とアイコンタクトを送る。


「その決闘、受けて立ちます……!」


 僕が応じると、決闘を告げるラッパの音が教室内をビリビリと震わせた。

 まさか……この音を入学早々、2日連続で聞くことになるなんて思わなかったな……。

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