14 最高のパーティ
うっそうと茂る森は夕暮れだとすでに夜みたいに暗かったけど、僕の心は明るかった。
森の奥へと入っていくと、苔むした岩があって、そこには【
樹冠に覆い被さっていたので近づくまで気づかなかったんだけど、一軒家は二階建だった。
朽ちた木の塀に囲まれているんだけど、おそらく取り壊し前に除草をしたのだろう、塀の中の庭は草がほとんど生えていない。
さっそく家の中に入ってみようと思ったんだけど、その前にすることがあるだろ、とお腹が訴えてきた。
「普通の寮だと食堂があるけど、ここには無いだろうから……自分でなんとかするしかないのかな」
しょうがない、と僕は庭を出て森へと分け入る。
なにか食べるものがあるといいんだけど……と思ったんだけど、この森は誰も入らないのか食べ物の宝庫だった。
木には実や果物が鈴なりで、ウサギや野鳥がそこかしこにいて、池には魚がウヨウヨ。
「魔力が強いところって動植物が育ちやすいんだよね。さすが魔術師が多い環境だけあるな」
アスベスト家ではこうはいかなかった。僕は入れ食いの漁場に来たみたいに獲りまくった。
ポプコーンバレットを使えば木に登らなくても果物を簡単に落とせるし、ポプコーンランチャーを使えばウサギを追いかけなくても簡単に狩れちゃう。
なにより、人目を気にせず魔術を撃ちまくれるのが嬉しすぎる。
お祭りの屋台で遊んでいるような感覚で楽しんでいるうちに、食べ物がどっさり取れてしまった。
「やっぱり……この寮は最高だーっ!」
寮の庭で山と積まれた食材を前に、僕は調理を開始。
まずは集めてきた枯れ枝に火を付ける。
マッチなんてないけど、僕はちっともあわてない。
人さし指を立てるだけで、指先にポッとロウソクのような灯がともる。
赤魔術の【
あっという間に火起こし完了。焚火を中心にあたたかい空気が広がり、庭全体が明るくなる。
つぎはナイフでウサギや野鳥を捌く。流体を操る青魔術の【
コートの懐に忍ばせてある投げナイフを取りだし、大きな肉塊に串打ちのように刺す。
あとは焚火の前に立ててじっくり炙る。
これは【ナイフ焼き】といって、剣士の間では定番料理のひとつだ。
アスベスト家にいる時は最弱を理由にあんまり食べさせてもらえなかったんだよね。
ナイフ焼きを1匹丸ごと食べるなんて初めてかもしれない。
しかも、いまは1匹どころか食べ放題。
焚火をぐるっと囲むようにナイフ焼きを置くと、肉の焼けるいい匂いがたちのぼってきた。
「うわぁ……! 今夜はごちそうだぁ……!」
お腹が鳴って待ちきれない僕の前に、まさかの人物が現われる。
「お……おまたせしました!」
なんと、ピュアリスが焚火の向こうにいたんだ。
大きなバスケットを肩にふたつ、両手でひとつ持っているという大荷物で。
しかもここまで走ってきたみたいで、ハァハァと肩を上下させている。
「ピュアリス、どうしたの!?」
「ペヴルさんのお姿が見当たりませんでしたので、途中でパーティを抜け出してきたんです!」
ピュアリスはバスケットをドサッと地面に置く。女の子が持つにはかなり重かったに違いない。
「ペヴルさんがお腹を空かせているんじゃないかと思って、パーティのお料理をもらってきました!」
「あ……ありがとう! 座って座って! いっしょに食べよう!」
僕は椅子代わりに使っていた丸太の隣を勧たところで、しまった、と思う。
あ……決闘の時でもふかふかの玉座みたいなのに座っていたピュアリスは、こんなところに座るのは嫌がるかな……?
しかしピュアリスは「それじゃ、お言葉に甘えて」と、なんのためらいもなく着席。
バスケットから皿とトングを取り出して、料理を盛り付けてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、じゃあ僕からも。これ食べてみて、剣士焼きっていうんだ」
ほどよく焦げ目のついたウサギの肉を差し出たんだけど、今度こそしまった、と思う。
いくら剣士にやさしいピュアリスでも、さすがにこんな料理は下賤だと言って嫌がるかな……。
「わぁ、ありがとうございます。焼きたてで、とってもおいしそうです……! こちらは、どうやって召し上がるのですか?」
「ああ、串の先と柄を持ってかぶりつくんだ。串といってもナイフだから、ケガしないように気をつけて」
「はい、いただきます」
ピュアリスは串を持つ仕草も気品に満ちあふれていた。
剣士焼きはワイルドな料理なんだけど、彼女にかかると宮廷料理に見えてしまう。
かと思えば「アヒュッ!?」と熱くてびっくりして、小さな子供みたいにフーフー息を吹きかけている。
オレンジ色に輝くその横顔はあまりにも魅力的で、僕は食べるのも忘れて見とれてしまった。
「お……おいしいです! 剣士さん焼き、とってもおいしいです!」
そして屈託のない笑顔を僕にくれる。
「あら? どうしましたか? お料理、お口に合いませんでしたか?」
「あっ、ううん、そんなことないよ! すごくおいしい!」
「よかった。たくさんありますから、いっぱい召し上がってくださいね!」
見つめ合い、笑いあう僕たち。夜の帳が下りてあたりは最高のムードになった。
満天の星空の下、虫の音がギリギリと鳴きはじめる。
こんなにキレイで、こんなにおいしくて、こんなに楽しくて……ドキドキする食事は、生まれて初めてだった。
……でも僕ははしゃぎすぎるあまり、ぜんぜん気づかなかったんだ。
このとき庭の茂みの中に、もうひとりの誰かがいたことを。
「し……シットっ! いまごろは腹を空かせて、自分のしたことを泣いて後悔しているだろうと思って見に来てやったのに……! 泣いているどころか、あんなに楽しそうにしてるなんて……!」
それは、悔しさのあまり歯ぎしりが止まらなくなっているオーシット先生だった。
「学園の……いや世界の姫君ともいえる【白き極星の巫女】を小間使いにするどころか、しかもあんな下賤な料理をまで食べさせるなんて……! 許しません……許しませんよぉぉぉぉ~~~~っ!」
夜の森に鳴き声が響いてたんだけど、僕はてっきり変わった野鳥だと思っていた。
「……シット、シット、シットットぉぉぉぉ~~~~っ!!」
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