09 ポーラスター学園へ
かつての悪友とかつての父親が血の涙を流しているとも知らず、僕はピュアリスといっしょに小旅行を楽しんでいた。
それから数日掛けてたどり着いたのは、【学園都市1009】。
中心に大きな学園があり、その学園から名付けられた街。
その【宇宙立第1009ポーラスター学園】を馬車の窓から見上げていた僕は、きっといまにも吐きそうな顔をしていたに違いない。
だって学園の校舎が、巨大なポーラスターの胸像みたいな外観をしていたから。
「こ……ここに通うのかぁ~」
頭を押さえる僕。それとは対照的に、ピュアリスは胸の前で指を絡め合わせる感激ポーズで校舎を見上げていた。
「素晴らしい校舎ですよね……! こんな素敵な校舎で学べるなんて、夢みたいです……!」
ピュアリスは学園の制服に着替えてたんだけど、それは前世でいうところの白いセーラー服で、とてもよく似合っている。
外を見ていると本当に気分が悪くなりそうだったので、僕は風に揺れる白百合のような彼女ばかりを見ていた。
「あら、ペヴルさんは顔色が青いようですけど……酔ってしまいましたか?」
「ねぇピュアリス……もしかしてこの学園って、朝礼の時とかに像に跪いて祈りを捧げたりする?」
ピュアリスはこの学園に来れたのが嬉しくてたまらないのか、目に見えてウキウキしている。
僕の問いにも「ご安心ください!」とニッコリ笑顔で答えてくれた。
「ポーラスター様へのお祈りの時間なら、朝礼だけでなく放課後にもちゃんとありますよ!」
「履いてますよ!」みたいなテンションで言われて、僕はよりいっそうげんなりした。
するとピュアリスはなぜか微笑ましい顔をする。まるで愛する我が子の成長を見守る母親みたいに。
「ポーラスター様を呼び捨てにされたときは、びっくりしましたけど……。うふふ、やっとわかりました。ペヴルさんはイヤイヤ期なのですね」
「イヤイヤ期? なにそれ?」
「ポーラスター様を敬愛するあまり、わざとポーラスター様を拒絶してしまう時期のことです」
「そんなのあるんだ。でもたぶん、違うと思う。あぁ……せめて、祈りだけでもしないですむ方法はないかなぁ……」
「祈りまで嫌がるなんて、かなりの重症みたいですね……」
ピュアリスはアゴに手を当て、小首をかしげて「うーん」と考えるような仕草をした。
そのかわいい仕草のおかげで、吐き気はだいぶおさまった気がした。
やがてピュアリスは、僕に向かっていたずらっぽく笑った。
「そうだ! いい考えがあります! ちょっと、お耳を貸してください! こしょこしょ……」
ピュアリスの【いい考え】は本当にいい考えで、僕はピュアリスがよりいっそう女神に見えた。
やがて馬車は校門前に停まる。そこには入学の手続きをする生徒たちが大勢集まっていた。
ピュアリスが馬車を降りると、そよ風に乗った桜吹雪が彼女のまわりを巡る。
それはまるで花の天使たちが祝福しているみたいな、幻想的な光景だった。
集まっていた生徒たちは「おお……!」と感嘆の声とともに道を開ける。
「おい、見ろよ……! ピュアリス様だ……!」
「この目で見るのは初めてだが……さすが【白き極星の巫女】と呼ばれるだけあって、お美しい……!」
「本当……! ポーラスター様にお仕えするのにふさわしいお方ね!」
ピュアリスは注目を集めることには慣れているのか、特に気にする様子もなく受付へと歩いていく。
そのあとに続く僕には舌打ちばかりだった。
「チッ! なんだあの剣士……!」
「チッ! まさかピュアリス様の従者……!?」
「チッ! そんなわけねぇだろ! もしそうだったら、すぐに痛い目に……!」
よからぬ視線を浴びながら受付のそばで待っていると、ピュアリスが戻ってきた。
「ペヴルさんが入学できるようにお願いしておきました。これでご学友です」
「ありがとう」と答えると、ピュアリスは「これから、よろしくお願いいたしますね」とぺこりと頭を下げる。
それだけで周囲から、ざわっ……! と春の嵐のような驚愕が吹き荒れた。
「ええっ……!? ピュアリス様が、剣士に頭を下げた……!?」
「う……うそだろ……!? 魔術師が剣士に頭を下げるなんて、ありえねぇ!」
「もしかしてあの剣士、【剣仙】だったりするのか!?」
魔術師と剣士には、それぞれ階級が存在する。
世間的な【偉さ】で並べてみるとこんな感じになるんだ。
階級9 賢神
階級8 賢者
階級7 大賢 剣神
階級6 賢者 剣王
階級5 導師 剣聖
階級4 師範 剣仙
階級3 術師 剣豪
階級2 剣客
階級1 剣士
いま学園に入学しようとしている新入生たちの階級は、
魔術師は、3の【術師】
剣士は、1の【剣士】
そう、魔術師と剣士はスタート時点からすでに2ランクの差があるんだ。
ちなみにポーラスターは階級10の【創造神】。
対するいまの僕は見習い剣士なので、階級すら与えられていない。
ピュアリスからすれば、格下どころか圏外もいいところ。
彼女は僕のステータスを見てそのことを知っているはずなのに、変わらずやさしく接してくれる。
まわりの評価もなんのその、本来はハナも引っかけない相手のはずの僕の胸に、受付で貰った新入生の花飾りを付けてくれていた。
「はい、できました、とってもよくお似合いですよ」
そして花束のような微笑みまでくれる。
彼女は本当に、本当に嬉しそうだ。
僕は心の底から思った。
この笑顔が、ずっとずっと続きますように。
そのためなら、僕はなんだってやってやる。
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