06 魔物たちの神様
【ワンインチ・アバランチ】はもちろん【
【ポプコーバレット】は飛翔体を小さくすることで、わずかな魔力で射程を出すことができる。
【ワンインチ・アバランチ】は逆に射程を短くすることで、飛翔体を大きくするというもの。
【
テッキンにはちょっとやりすぎちゃったけど、僕が体術であることをアピールしたおかげでまわりのみんなから魔術を使ったとバレずにすんでひと安心。
ホッとしたらお腹も空いたので、僕とピュアリスは村の酒場でお昼ごはんを食べた。
食後の飲み物として僕はハニービールを、ピュアリスはミルクを注文。
木のジョッキに両手を添えて、こくこく飲むピュアリス。
それで思いだしたんだけど、アスベスト家の女性陣もよくミルクを飲んでいた。
剣士の身体づくりのためだと思ってたんだけど、もしかして女性はミルクが好きなのかな?
そのことを尋ねてみたら、ピュアリスはなぜか恥ずかしがった。
「その……ミルクはお胸にいいそうなので……」
「ああ、そういうことか」
バストアップ目的だとわかり、僕はおもむろに納得する。
しかし次に放たれた彼女の言葉には、耳を疑った。
「『大きいことは、いいことだ』、ですから……」
「えっ? まさかそれって……」
「はい。ポーラスター様は、胸の大きい女性がお好みだったそうです。ポーラスター様にお仕えする巫女になるためには、最低でも……」
「そんなことないよっ! 僕は別に……!」
ついテーブルを叩いて立ち上がってしまう。
僕がいきなり大声を出したので、ピュアリスはビクッと肩をすくめていた。
その反応のおかげで、まずいことをを口走らずにすんだ。
「ぼ……僕は別に……気にしないし……だからたぶん、ポーラスターも……えっと、その……」
僕はモゴモゴしながら腰を降ろす。そこから気まずい空気が流れ、ふたりともすっかり黙ってしまう。
先に沈黙を破ったのは、彼女のほうだった。
「あの……ペヴルさん……しつこいと思われるかもしれませんが、よろしいでしょうか……?」
「え? なに?」
「わたしといっしょに、来ていただけませんか……?」
またその話かと思ったけど、ピュアリスは慌てて言い添えた。
「あっ、付き人としてではないんです! ご学友として、いっしょに進学してほしいんです!」
「なんで?」
「ペヴルさんほどの剣士さんは、ぜひ学校で学んで、その力を活かすべきだと思うのです! お願いです! わたしのためではなく、この国の……いいえ、ポーラスター様のためだと思って……!」
テーブルに三つ指突いて、つむじが見えるくらい深々と頭を下げるピュアリス。
魔術師が剣士に土下座同然のマネをするなんて、この世界初なんじゃないかと思う。
そこまで言うなら叶えてあげたい。でも……。
「ごめん、ピュアリス。なんと言われても、それは無理なんだ。たとえ天地がひっくり返ろうとも……!」
僕はピュアリスの両手を握りしめ、よりいっそう熱を込めようとした。
でも酒場のスイングドアが勢いよく開いたことで、水をさされてしまう。
「おい! やべーものを手に入れたぞ!」
傷だらけの剣士が、像のようなものを抱えて飛び込んできた。
血まみれで、身体のあちこちに矢が刺さっているのに大興奮している。
酒場で寛いでいた剣士の仲間たちが、「おおっ!?」と歓声をあげた。
「すげぇ!? ポーラスター様の像じゃねぇか!」
「ああ! 魔物どもの祠にあったんだ! ヤツらが拝んでいるところを乗り込んでって、奪ってやったんだ!」
「売れば、しばらく遊んで暮らせるんじゃねぇか!?」
「誰が売るかよ! 俺の家に大事に飾って、一生拝むんだ!」
「いいなぁ、俺にも拝ませてくれよ!」
剣士たちはゴロツキみたいなナリをしているのに、ポーラスターには敬虔だった。
気づくと酒場じゅうの客どころか、ピュアリスまで僕の手を離して床に跪き、像に向かって祈りを捧げている。
それはちょっとショックだったけど、僕にはそれ以上に気になることがあった。
「あの……ピュアリス、ちょっといい?」
祈りから戻ってきたタイミングを見計らって、僕は尋ねる。
「はい、なんでしょうか?」
「魔物の祠って、なにを祀ってるか知ってる?」
すると、当然のような顔で返された。
「それはもちろん、ポーラスター様ですよ」
「えっ、うそでしょ? ポーラスターは人間だから、魔物の敵なんじゃ……?」
「ぽ……ポーラスター様を、呼び捨てにするなんて……!」
ピュアリスは髪の毛を逆立てるほどに驚いていた。
「それにポーラスター様はわたしたち人間だけでなく、魔物さんの神様でもあるんですよ!?」
「う……うそっ……!?」
それは衝撃の事実。
あまりのことに僕は髪の毛を逆立てるばかりか、思わず椅子から転げ落ちそうになっていた。
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