第8話 全員、抹殺
しかし、このまま、お互いの殺しあいが続くと思っていた5日目の事である。
松下洋介のいる島の近くにも、離島が数島がある事は、事前に分かっている。
だが、ここで、松下洋介は、トンデモ無い光景を目撃したのだ。
多分、下で、殺しあいをしている者には、もしかしたら見えなかったかもしれない。
実は、天気が悪く、空全体が、どんよりと薄暗い。
その時、自分のいる島の遙か遠くの方の海面で、ピカッと光る光景を見たのだ。
そこにも、確か、離島があって、多分、自分達より先に、10,000人の「タコ・ゲーム」参加者が送り込まれていた筈だったのだ。
「これは、可笑しい。あの光と、その直ぐ後にドーンと言う轟音が聞こえたのは、一体、何なのだ。もしかしたら……」
松下洋介は、ケンカに明け暮れた人生だっただけに、意外にも、軍事や武器に関する知識もあったのだ。
「あれは、東北の部落を全滅させたと言う、燃料気化爆弾では無いのか?」
「核爆弾にしては、規模が小さい気がする。
大体、そこそこの大きさの離島に、核爆弾を使うのは、如何に、国際社会から無視されているとは言え、さすがに、そこまではしないであろう……。
とすれば、燃料気化爆弾に違いない。と、言う事は、あの女独裁者は、「タコ・ゲーム」参加者ですら、現実には、一人も高齢者を生かして返すつもりは無かったのだ」
「結局、「タコ・ゲーム」に参加しようが、「安楽死」を選択しようが、高齢者は一人も助から無いのか?」
松下洋介は、まだ、完全に仕上がっていない筏を引きずって、海岸まで降りて行った。途中で、誰かに出くわせば、その時は、途中で拾った木の棒で、相手を気絶させるのだ。
松下洋介は、空手7段で、剣道は2段だった。数人程度なら、簡単に勝てるだろう。それに、ゲーム開始から、既に5日目である。多分、生き残っている者も、千人もいまい。
うまい具合に、只の一人とも出会わなかった。で、本土と思われる方向に、手製の「櫂(かい)」でこぎ出した。この間にも、さっきの島にも、燃料気化爆弾が投下される恐れがあるのだ。
しかし、島の港付近には、数頭の漁船を見た。多分、国軍の脱出用に残してあるのであろう。
松下洋介は、大事なペットボトルの水分を補給しながら、懸命に本土へ向かって筏を操った。……うまく、本土に辿り付けるか?
しかし、もっと大きな問題もあったのである。
それは、無事に本土に辿り付けたとして、スマホも何も無い状態で、どうやって実家へ帰るかである。
これに関しては、家族と綿密な打ち合わせをしてあり、万一、奇跡的に島を出てた場合に、スマホを、まず3回コールまで鳴らし、一旦切り、次に2回コールし、一旦切り、更に3回コールする。
これは、自分が生きて帰って来た事の証明であり、息子は、即、パソコン上から、GPS機能で場所を特定して、車で迎えに行くと言う、打ち合わせにしていたのだ。
息子の旭は、国立大学理学部の準教授まで、しているだけあって、父親の、離島からの脱出計画を、薄々と、理解していたのである。
本当の問題は、運良く、本土に辿り付けたとしても、一体、そのスマホをどうやって手に入れるかである。
これが上手く行かなければ、息子の旭ですら、どうしようも無いのだ。
次の日の朝の、多分、太陽の位置から想像するに午前9時頃、砂浜の綺麗な海岸に辿り着いたのだ。
そこに、母親とその子供と思われる二人連れが、海辺を散策していた。
その母親が、直ぐに、松下洋介を見つけて駆け寄ってきた。
「貴方は、例の「タコ・ゲーム」の参加者でその生き残りじゃないのですか?」
「そうです、私は、例の殺しあいに参加せずに、その間に手製の筏を作って、ここまで辿りついたのです。……あのう、良かったらスマホ貸してもらえませんか?」
「せっかく生きて帰っておいでですが、スマホを貸せば、盗聴されて、私もこの子も危険な目にあいます。無理なんです」
「いや、スマホは、3回コール、2回コール、3回コール、だけでいいんです。
国軍のほうも、単なるかけ間違い電話だと思うでしょう。そうすれば、息子がGPSで検索して車で迎えに来ます。貴方も、そのあと自分の友人らに、適当な電話をして下さい。これで、国軍の盗聴係も、さっきのは、電話番号の間違いだったと思うでしょう……で、なるべく早くこの場から立ち去って下さい。貴殿に迷惑がかからないようにね」
「なるほど、電話で話さ無い限り、盗聴もできませんものね。分かりました。でも、心配だから横で聞いています」
「ええ、どうぞ」
こうやって、松下洋介は、自宅にコンタクトを取れた。
その時である、多分、松下がいたであろう離島付近がピカッと光ったかと思うと、その後に凄い爆音が聞こえた。
「あれは、何ですの?」と、その母親が聞く。
「多分、燃料気化爆弾でしょう。「タコ・ゲーム」の参加者は、全員、抹殺されたのです。
「えっ、10,000人に一人は、助かるはずじゃ無かったのですか?」
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