第7話 上陸後の阿鼻叫喚


「さて、ようこそ、「タコ・ゲーム」参加者の皆さんへ。

 この目の前に見える、大きなバラックの建物には、食料倉庫である。



 皆さんには、まずは、最低1週間分の、食料と水が与えられます。



 これは、各自、持ち帰って下さい。



 なお、2~3日後に、食料庫にこっそりと取りに来れば、ここにいる国軍によって、即、射殺されます。



 皆さんは、ただただ、お互いに、殺しあいをして、最後の一人になれば、この食料倉庫にまで来て下さい。



 その時に、「タコ・ゲーム」勝利者としての認定証を与えます。

 


 そして、自分の家に帰って、天寿を全う出来ます。



 全てが、情け深い、女性総理のおかげなのですよ……」



「何が情け深いだ!キチガイが!」と、松下洋介はペッと唾を吐いた。



 ただ、この話を聞く限り、食料や水等も鑑みて、残り、最低10日以内が、勝負なのだ。



 ここで、さっきの国軍の隊長らしき者が最後に言った言葉は、次のようなものだった。



「なお「タコ・ゲーム」の開始は、明日の9時からです。明日の朝に、サイレンが鳴る。

そこで、思う存分、殺し合いをして下さい。



 なお、このルールを破ると、即、射殺です」



 やはり残された時間は、最低でも、10日。いや、少しでも早く、1週間とみておこう……。



 松下洋介には、この島の様子を既に大体分かっていた。息子の旭の資料のおかげだ。北側に、標高150メートル級の小高い丘がある。



 まずは、一番先にそこに行き、少しでも早く、筏(いかだ)を作る事だ。



 次の日の9時となった。サイレンが鳴ると同時、島中で、「ウオー」と言う、異常な地響きのような大声が聞こえた。



 いよいよ殺し合いがはじまったのだ。



 松下洋介は、小高い丘から、その様子を見ていた。



 しかし、ここで、松下洋介は、思いもかけない武器を数々、見たのだ。



 一つは、強力なナイロンやビニール袋に小石を入れて、降り回している者がいたのだ。



 中に入っていたのは、結構な大きな石だったらしい。殴られた者は、次々と、骨が砕け、血だけになって倒れて言った。そこには、死体の道が出来た。死体道だ。



 いや、もっと、凄い武器もあったのだ。



 何と、平べったい石を混紡に、ツタ等であろうが、強く縛り上げて作られた、いわゆる石斧である。まるで、縄文時代だ。



 これも、思った以上に、強力な武器であった。



「キエー!」と言う奇声で、人間の頭にふり下ろされたその石斧は、頭を真っ二つに、叩き割ったのだ。一人だけでは無く、次々とだ……。

横に降れば、首が、吹っ飛んでいくのだ。



 長い棒を、槍のように器用に使い、人間の腹を次々に刺して行った者もいた。



 正に、阿鼻叫喚。この世の、地獄だ。



 皆、松下洋介が、当所、思っていた以上の作戦を考えて、この「タコ・ゲーム」に望んでいたのである。



 とてもこんな状況で、たった一人だけで、生き残るのは、ほとんど不可能であろう。いや、そもそも、このような異常なゲームを考えた人間こそが、本当の異常者なのだろうが……。

 


 しかし、既に、この日本は、完全な独裁国家になってしまっている。今更、どう、文句を言ってもどうにもならないのだ。



 松下洋介に出来る事は、多分、5キロ以上はそれに乗って、本土まで無事に帰れる、頑丈な筏を作り上げる事だ。



 今は、島の一番小高い丘にいるので、何とか助かっているが、ここにいる事が分かれば、自分の身も危ないのだ。

 特に、頑丈な筏を作れば作るほど、この自分を殺して、その筏で、この島を脱出しようとするであろう。



 では、一体、どうすれば良いのか?



 やここは、はり、静かに静かに隠れて生きて行くしか無いのである。



 これは、もはや、我慢比べしかないのだ。



 下手に、ノコノコ下に降りて行ったら、それこそ、「タコ・ゲーム」に強制的に巻き込まれる事になるのだ。

 現に、次々と人が、殺されている。



 何しろ、生き残るのは、10,000分の1である。



 常識的に考えれば、生き残れるのは、奇跡に近い。むしろ、自分のように、こっそりと隠れており、お互いの、殺しあいを待ったほうが無難だろう。



 人生の多くを、ケンカで生き抜いたきた松下洋介の直感だった。



 さて、2日目になった。



 既に、10,000の参加者の半数近くが殺されていたのだ。



 それは、丘の上から見下ろすと、転がっていう死体らしき数の多さからも。ほぼ推定できる。



 松下洋介は、焦った。一日でもいや一分でも早く、筏(いかだ)を完成させねばならない。

 あまり、ちゃちな物だと、本土に辿り付く前に、沈没してしまうからである。



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