第6話 松下洋介の作戦


 既に、「タコ・ゲーム」に参加希望していた松下洋介の元に、6月15日までに、自宅に最も近い○○港まで、集合命令が来ていた。



 無論、息子の嫁の嫁さんの美里のおかげで、青酸カリ10グラムと、亜ヒ酸10グラムを、靴底に隠す事に成功はしたが、いかんせん、絶対量が足り無い。



 すでに、6月1日から、数万人単位の離島への移送が始まっていた。



 松下洋介は、既に、ある作戦を決めていた。どうせ、血みどろの肉弾戦や白兵戦になる事は避けられない。



 松下洋介の生涯は、実は、ケンカからスタートしたのだ。

 小学生の時、上級生に、殴られて、刃向かったものの、ボコボコにされた。

 そこで、自ら進んで、空手を習いに行った。


   

 小学校・中学校・高校と、ケンカは絶えなかったが、実力が付くにつれて、ケンカは減っていった。



 学生時代は、空手の全日本大会で、3位にまでなった。



 で、これを元に、空手道場を開設。近所の子供らに、空手や勉強を教えて来た。



 40歳頃には、コンビニで、3人のチンピラにカツアゲされそうになった。相手の一人はバタフライ・ナイフを持っていたが、手刀で叩き落とし、瞬時に3人を、叩きのめした。



 いわゆる、「道場破り」にも、数回会った事もあった。皆、打ちのめしたが……。



 このように、松下洋介の生涯は、実は、ケンカだらけであった。



 なので、松下洋介の考え方は、他人とは全く別の作戦を考えていたのだ。



 離島に着くなり、ある程度の食料と水を持って、なるべく素早く離島の中心部から離れる。



 うまく、洞窟等があれば、そこに籠もって、脱出用の筏(いかだ)を、こっそり作るのだ。



 早い話が、「タコ・ゲーム」に参加する事によって、まず、「安楽死」から逃れる。

 そして、離島に着くなり、皆と即、別行動をし、脱出用の筏を、島に落ちているだろう古木で作り、夜、一人で島を脱出するつもりだった。



 今は6月だ。かっての北海道での、観光船事故「KAZU1(ワン)」のように、凍え死ぬ事も、まあ無いであろう……。



 ケンカだらけの人生を、送ってきた、松下洋介の考え方は、孫子の兵法の「戦わずに勝つ」と言う作戦だったのだ!



 息子の嫁さんの美里のおかげで手に入れた、青酸カリ等は、万一の時の、自決用に使うつもりでいたのだ。



「誰が、こんな、キチガイじみたゲームなどに、参加するものか!」



 だが、この作戦は、家族の誰にも言わなかった。



 何故か?



 下手に、家族に言うと、この作戦が漏れる危険性がある。



 それと、悲惨な地獄のような「タコ・ゲーム」に参加せずに、一人で、うまく生き延びてノコノコ帰ってきた場合、正式な「タコ・ゲーム」の生き残りと同じように扱われるかどうか?



 下手をすれば、見つかり次第、射殺される危険性もある。



 これらを踏まえての、離島脱出作戦だったのだ。



 ようやく、○○港まで、辿りついた。



 港近くには、数百隻もの、漁船から小型のモーターボートまでがひしめきあっている。

 その前に、自動小銃を構えたかっての自衛隊(→この頃は、既に、国軍と名前を変えていたが)員らが、目を光らせている。



 簡単な身体検査があった。



 それで終わりだと思ったその時である。



 例の国軍兵は、金属探知機で検査していたのだ。



 急に、自動小銃乱射の音が、その場で、鳴り響いた。



 例の、小型ナイフを、女性のアソコに隠し持っていた高齢女性が、この金属探知機に引っかかったのだ。



 肉片のみになった彼女の下半身当たりから、金属製の小型折りたたみナイフらしきものが、発見されたと言う……。



 これを、聞いて、急に、

「ギブ・アップ」と唱える者が出て来た。これは、「タコ・ゲーム」への参加を辞めて、「安楽死」を選択できる最後のチャンスであった。

 数十名が、「ギブ・アップ」を表明し、「安楽死行き」の灰色のバスに、ノロノロと、乗った。



 松下洋介は、無事にこの検査を乗り切り、100人は乗れるかと言う、中型の漁船に乗船したのである。



「いよいよか!」と、大学の空手選手権以来の、武者震いを感じた。



 ここで、実は、裏話がある。

 松下洋介の息子の旭は、国立大学理学部の準教授までになっていた。主に、地震の研究が主であったが、そのため、日本の近海の地形には、普通人以上に知識があった。



 で、父親の洋介が○○港に集合する事を知って、○○港からなるべく近い、無人島や人が若干住んでいる島を、ある程度、絞ってくれていたのである。



 まさか、○○港から、北海道や九州まで、行く筈が無いのだ。



 で、めぼしい島を、数島、ピックアップして、島の図形、高さ、特徴を調べていてくれていたのである。



 また、当該離島は、本土から、最低でも4~5キロメートル離れている筈だ。あまり近いと、泳いで、帰る事が危惧されたからである。



 いよいよ、謎の離島に、それぞれバラバラの船に乗って、続々、この離島に上陸して来た。



 しかし、上陸して見て、直ぐに、ここは、完全な離島では無い事が分かった。何故なら、数十軒の住宅もあったし、バラックであるが、緊急に立てられた大きな建物もあったのである。



 ここで、松下洋介は、国軍のこの島を取り仕切る隊長らしき人物から、次のような演説を聴いたのだ。



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