第4話 各高齢者の独自作戦
もはや、ニッチもサッチも行かない状況で、では、この「タコ・ゲーム」の参加者は、自ら志願したとしても、どのような方法で、どこの離島に行くのか、振り分けられるだろう?。
一番、理論的な方法は、例のマイナンバーを使って、コンピュータでランダムに振り分けする方法である。
しかし、これだと、南海の孤島1島に、北は北海道から、南は沖縄諸島までの、全国津々浦々から、当該、参加者を集めて来なければならない。
輸送費だけで、膨大な必要がかかる。
逆に、全国を細かなブロックに分けて、収集した方が、楽に集められるのだ。
しかし、この方法だと、同じ高齢者部落の顔見知り同士が、集まる事になる。
これは、どう言う事を意味するか?
縁もゆかりの無い高齢者同士なら、それほど、殺し合いも、良心の痛みは、感じられないだろう。
しかし、昨日まで、ご近所さんだった人達は、果たしてどのように感じるだろうか?
きっと、良心の呵責に耐えられずに、モタモタしている内に、別の誰かに、撲殺される事になる。
この話を聞いて、更に、「タコ・ゲーム」の参加者は、最終的には50万人に減ったのだ。
日本の大学病院・県立病院・市民病院等等の大きな病院では、安楽死促進科が、開設された。高齢者の「安楽死」を促進する科なのだ。
さて、この『80歳定命制』の実施日は、2031年6月1日と発表された。
黒紙は、既に、半年前から、徐々に、各、高齢者宅に届いていた。
それに、合わせて、国や地方自治体は、「タコ・ゲーム」の準備に、年末・年始、返上で頑張っていたのである。
既に、この段階で、日本中が、既に、何処かが完全に狂っていたのだ.
一番狂っていたのは、「80歳デス!」と宣言した、例の女性独裁者だったのだのだが……。独裁者故、誰も、反対出来なかったのだ。
まるで、かって、戦前の日本の「一億玉砕」を唱えて本土決戦を唱えていた、陸軍の青年将校らの洗脳にズッポリと迫っていた、あの時代のような雰囲気だった。
この時代の話を、亡くなった祖父等から聞いていた高齢者の中には、竹槍を考案した者もいたが、その肝心の小刀が支給されないので、竹槍作りも、不可能だ。
せめて、太いゴムがあれば、木の枝を拾って、Y字型のパチンコを作って、小石を玉の代わりにできる。これで、頭を狙い打ちできる。
そして、次々と、人間の頭を狙い打ちして行く計画だ。
そこで、着物のジャージの中に、ベルト替わりに埋め込んで、隠して持って行く者が、こっそりと現れる事になる。
実は、このような、自衛作は、各自、色々と考えられていたのだ。
ある高齢者の女性は、折りたたみ式の小型ナイフを、女性のアソコの中に隠して持って行く事にしたと言う。
また、ある高齢者は、強力な釣り糸を、ジャージの中に隠し、それで、竹のような木を探して弓を作る作戦を立てた。ただし、矢が無いのだが、細くまっすぐな枝を、矢の代わりにすると言うのだ。
このような話は、高齢者同士の間で、徐々に、広まっていった。
で、松下洋介の作戦は、息子の嫁さんの美里の言った、劇薬・猛毒を、靴底に隠していく事にした。
「なあ、美里や、うちの父のためにも、青酸カリや、亜ヒ酸を、大量に盗み出してくれないか」と、頼み込む息子の旭。
「でも、劇薬・猛毒室の鍵は、薬学部長が握っているのよ……」
「何とか、ならんのか?」と、息子の旭。
「買収すれば不可能では無いでしょうけど、これが国にばれたら、只じゃ済まないから、最低でも数億円単位のお金が必要でしょうねえ……」
「そんな、大金は、サラリーマンの俺では用意できない」
「一つだけ、方法があります」
「どんな、方法だ?」と、夫でもある旭が聞く。
「薬学部長はまだ50歳の性欲満々の人間です。これを利用して、ホテルにでも連れ込んで、Hをさせ、飲み物に睡眠薬を混ぜて、いつも腰にぶら下げている鍵の型取りをし、後日、同じ鍵を作って、盗み出すのです」
「そ、それは、分かるが、それは、お前が他の男と寝る事になる。
夫としては、とても許可出来ない。こう見えても、俺もまだ53歳の若い男だ。とても許可はできない」
「だったら、ホテルに連れ込んで、先に、睡眠薬入りの缶ビールでも飲ませ、眠らせる事でしょうか?ただし、相手が、ホテルに入るなり、ズボンを脱いで押し倒してきたら、どうにもなりませんけど……」
「しかし、それしか、方法が無いのか。やはり、そこは目を瞑るしか無いのか……」
「まあ、これはあくまで、最悪のシナリオです。何とか頑張ってみます」
ここで、旭の嫁さんの美貌に少しだけ触れておく。
絶世の美人で、年齢も丁度、40歳だ。
このホテル連れ込み作戦は、何とかうまく行きそうだ。
しかし、この嫁さんの美里の、ほとんど、無謀に近い献身的な行為によって得られたのは、青酸カリと亜ヒ酸も、共に10グラム、合計、たったの20グラムだった。仮に、致死量0.1グラムと仮定したとして、たった200人分の殺害量である。
これで、果たして、あの過酷な、「タコ・ゲーム」を乗り切れるのだろうか?
松下洋介の、前途は、もの凄く暗いのだ。
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