7-9
「はい、喧嘩はここまで。
「はい」
「
西脇はソファーに戻る。桜達四人はそちらを向いた。
「講演会でそれぞれノートを取って、まずは知見を深める事。って言っても入門向けらしいから氷見野さんそんなに苦労しなさそうだけど」
「そんな事ないですよ。天文学の知見って日一日進歩するし」
「あっそう……。で、この日は四人共空けておいて欲しいんだけど、大丈夫なのよね?」
西脇は尋ねてくる。
「勿論大丈夫です!」
「咲心凪ちゃん、人の予定確認してから言って」
「ごめん……」
咲心凪が先走ると由意が止める、いつもの感じが戻ってきている。
ただ――『いつもに戻る』のではだめなのだと、桜は分かる。それぞれがしっかりとした強さを得なければ、また由意に負担をかける事になるから。
「僕も大丈夫です」
今の所、特に予定はない。桜は頷いた。
「まあ休みの日って基本予定入れないし。由意はどうなの」
玄佳は改めてパンフレットを読みながら、由意に尋ねた。
「これくらいなら大丈夫だよ。もっと早く言って欲しかったけど」
「言える空気じゃなかったし、西脇先生が言い出した事だから」
「そうだけどさ……」
由意と玄佳の会話に、西脇がどんよりした目をするのを桜は見た。西脇なりに天文部の事を考えているのだろうが、しかし由意は予定に関しては結構厳しい所がある。
「まあこれるんならいいけど……なんにせよ細かい事は後で通知するわ。で……
西脇は由意に話を向けた。
茶道部と華道部については
桜が由意を見ると、彼女は視線に強い光を宿して、西脇を見た。
「どれも辞めません。天文部にいる事は私にとって大切な事ですが、園芸も、茶道も、華道も好きでやって、それぞれに責任があります。だからどれも捨てずに、全て無理なく行ないます」
由意は面接かと思うような調子でハキハキと答えた。
その姿は、どれも諦めたくないというだけで全てを選んでいる桜と似ているようで、全然違った。
由意は自分の行動の責任をしっかり果たそうとしている。それはとても大変な筈なのに、由意は大変さを見せない。
もう二度と、今回みたいな事が起きないといいな――桜は密かに、願っていた。
「そう……なら、天文部の方にしても活動体制見直さないと、それぞれの負担になるでしょ。天文部一本なの氷見野さんだけだし」
確かに、それぞれの活動との両立という物を考えるのには、今の状況は丁度いいのかも知れない。桜はそんな事を思った。
「先生」
「
「写真部特に頑張らなくても活動できます」
「うんまあ、あなたができるってだけで玉舘さんはキツいだろうし、町田さんの方も今大きな賞目指してるからね?」
桜は玄佳を見た。少ししゅんとした顔をしている。
やっぱり、玄佳ちゃんは昨日から何か焦ってるような、今まで見せなかった部分を見せてきてる。
後で、話を聞けないかな――桜が時計を見ると、今日はどうしても無理そうだった。これが終わったならば帰らないとまず間違いなく母に部活に出た事がバレる。
「
西脇に話を振られて、よそ見していた桜はピンと背筋を伸ばした。
「えっと……その時でやる事もできる事も変わるので、分かりません……」
酷く曖昧な答えを返してしまって、桜は視線を下げた。文芸部の活動はどうしてもできる時できない時がある。
「玉舘さんは?」
西脇は特に桜を責めず、由意に話を回した。
「園芸部の放課後の当番が週一、茶道部と華道部についてはそれぞれ二週に一度、外部の先生がくるので……」
由意は鞄を取り出し、予定帖を開いた。
「週二、三回くらいの活動ならなんとかなるかなと思います」
やはり、一番時間がないのが由意に変わりはない。それでも、大分譲歩してくれていると桜は思うが。
「部室は出入り自由にしても、活動日決めた方がいいわね……主に玉舘さんに合わせて、町田さんは忙しい時とそうでない時で使い分けて」
西脇は冷静に提案してくる。
「じゃあ……待って由意ちゃん、それぞれ潰れる曜日はどこ?」
「他三つの部活でそれぞれ火・水・木かな。月曜と金曜はこれるし、火曜水曜は週によっては空くよ」
「月・水・金の三日を基本にして、水曜日はそれぞれの予定に合わせて動かすのは?」
「それならそんなに負担じゃないかな」
咲心凪の話に、由意は少し微笑んでいる。それが仲直りの証に見えて、桜はどこか嬉しかった。
「で、生徒会に出す成果報告の為にあれこれ考えるわけだ」
玄佳はしっかり見なくてはいけない所を見ていた。それがあるので、ただ漫然と活動するわけにはいかない。
「月曜に集まって、それぞれやる事を決めて、金曜日に纏めてそれぞれの進度を報告かな。今の所IBMの手掛かり探しがメインだし、そうなると部室に集まってるだけってわけにもいかないし」
咲心凪は冷静に話を進める。以前より、少ししっかりと地に足のついた話ができるようになっている印象を桜は受けた。
「桜はそれで大丈夫?」
玄佳はいつでも桜を気にかけてくれる。
「うん……大丈夫だと思う」
「あ、桜ちゃんは文芸部で何かある時そっち優先して」
「いいの……?」
「桜ちゃんの邪魔したら絶対に
本当は天文部の方にいたい気持ちもあるが、咲心凪があまりにコミカルに恐怖を表に出すので、桜は自分もしっかり、両方を選んだ意味を果たそうと思った。
「じゃあ、文芸部の先輩にも話してみるね」
「うん、お願い。それから……」
咲心凪は桜、由意、玄佳を順番に見た。
「月末辺りの平日に活動報告纏めるのに全員集まれるタイミングがあるとやりやすいかなって思う。無理な人はあらかじめ纏めておく感じで」
今の所、長期的な課題はIBMだが、短期的に見るとそれ程外部に顔を出さない天文部がどのように活動報告を出していくかだった。
先月の分を書いたのは咲心凪と由意なので、桜はどのような物なのか知らない。何かしら目に見える成果はあった方がいい。
「いいけど、今月から決めて、都度来月はいつっていうのを決めてく感じにしない? その方が予定立てやすいでしょ」
「うん、じゃあ今日……」
咲心凪は時計を見上げて、固まった。
桜達が時計を見ると、もう下校時間近かった。由意との対話に時間を割いていたので、大分経っていた。
「明日以降決めなさい」
そして、西脇の鶴の一声がある。
「はい……」
咲心凪も歯向かえないので、その日はそれぞれ予定を調整しながら帰る事になった。
桜は途中まで玄佳と一緒だったが、帰り際に「明日のお昼、部室にきて」と伝えた。
玄佳の様子がおかしいと思うと、それは桜にとって放っておける問題ではないから――まだ、全て片付いたわけではないと思いながら鞄と一緒に不安を背負って、家路を急いだ。
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