4-8
翌朝、
何せ食材は大量にあったので、その余りを電子レンジで温め直すだけでも大変な作業だった。
「それじゃ、頂きます」
「プラネタリウムいくのにせよ、今回の天体観測にせよ、上手くいったね。次は――何かなあ」
咲心凪は夢見るような顔で斜め上を眺めている。
「次はの前にでしょ。四月分の活動報告を生徒会に上げるの、連休明けまでって話だったよね」
一体。
一体どうして、
僕に、こんな僕に、何か価値があるの?
桜にはまだ、分からなかった。
「活動報告か……纏めるとなれば、プラネタリウムいった時の事もあるよね? って事は今日やるのは無理じゃない?」
玄佳は冷静に提案する。
「まあそこは私が家でこそこそ仕上げるよ」
「咲心凪ちゃんに任せるの不安なんだけど……」
「咲心凪一人じゃ雑になりそう」
「遠慮ないね二人共!? っていうかそれなら手伝ってよ!! うちにくるのは構わな……いや連休中は五月蠅くなるな……」
咲心凪の家は恐らく焼肉屋だという推測が濃厚になっていく。そうでなくとも何かしら飲食店であるのは間違いない。連休中は稼ぎ時だろう。
桜は、自分の家に友達を呼ぶと怒られるので、どうすればいいか分からなかった。それだけでなく、
「まあ仮に咲心凪の家がOKだとしても私は無理なんだけど」
「急に梯子外すじゃん」
玄佳はすぐに不参加を表明した。咲心凪が不満そうな顔をしている。
「私だけじゃないと思うんだよね。っていうか私が忙しいのは写真部の活動で薄いアルバム一冊分くらい写真撮らなきゃいけないから。桜と由意も何かあると思う」
あまり活動熱心なイメージはないが、玄佳も一応写真部としての活動はあるらしい。桜も最近はあまり文芸部で発表する小説の執筆が進んでいない。由意はどうか。桜は由意を見た。
「まあ園芸部の活動の合間を縫ってって事ならいいんだけど。学校の花壇に水やり当番あるくらいだし。桜ちゃんは?」
由意は桜に話を回してくれた。
「僕は……手伝いたいけど、何をすればいいのか分からない……」
「うん、そこじゃなくて、文芸部の方大丈夫なのっていう事」
「大丈夫じゃなさそう……」
「なら私と咲心凪ちゃんでやるしかないかー」
桜の答えを聞くと、由意はすぐに決めた。どこか諦めたような顔をしている。
「由意ちゃんのストッパーと天文部の癒しがいない状態で由意ちゃんと二人で作業するの……?」
「咲心凪ちゃん、玄佳ちゃんの活動は普通に決まってたものだし、桜ちゃんに至っては天文部の無茶が許されてる理由になる桜ちゃんの活動だから、妨害したら最悪天文部潰れるよ」
さらりと『由意と二人は嫌だ』と言い出した咲心凪に、由意は無情な現実を見せる。玄佳が写真部の活動をあれこれしていないのはともかく、
自分はそれ程大層な者なのだろうか――桜はそんな事を考えた。
黒崎会長は僕の作品を読んだって言ってくれた。けれど、僕はその時その時で精一杯に言葉を並べているだけで、そこに何かを見出す事ができるかは分からない。でも、黒崎会長も褒めてくれてた。
凛々子先輩は僕の心の声が物凄いものを生み出せるって言ってたけれど、それは本当?
桜は考えている内に肩に重責がかかるのを感じていた。
「ま、活動報告に関しては実際合宿の計画練った二人がやった方がいいでしょ。っていうか、月一で活動報告があるって考えると、次の活動考えないといけなくない?」
桜が考えている間にあれこれ言い合っていた咲心凪と由意に、玄佳は冷静に次の話を振る。
「それだよね。五月……でも中間テストあるし、合宿やってる余裕はないか……」
咲心凪は答えて、口元についたカレーをペロッと舐めた。桜は猫みたいな動作だなと思った。
「うーん……今の所、IBMには全然近づけてる感触しないし、そこをどうするかだよね」
由意はもっと現実的な所が見えている。天体観測一回でIBMには全然近づけていない。それはまさに由意が言う通りだった。
「うちに何かメモがあればいいんだけどな……」
玄佳は実父がIBMを見たと遺しているからか、思案気な顔で目を伏せた。
「そこが引っかかってる所。咲心凪ちゃんのおじいちゃんは何も手がかりを見つけられなかったみたいだけど……」
「由意ちゃん?」
「玄佳ちゃんのお父さんはしっかり見たっていう事を書いてる。なら、他にも目撃報告があるんじゃないかなっていう推測は立つよね?」
「その通りだけど、うちのお祖父ちゃんが凄いポンコツみたいに言うね?」
「昔と今じゃ流通する情報の量も、探し方も全然違うからそう言ってるわけじゃないよ。問題は、IBMを見るのに適した環境の見つけ方」
咲心凪よりも由意の方が、この辺りは得意だった。現実的な問題となると由意は本当に頭が回る。
「うーん……あ」
玄佳は、何かを思いついたように咲心凪をスプーンで指した。
「できるかどうかは博打だけど、こういうのはどう?」
何か、玄佳の中にプランがあるらしい。
「お父さんが描いた『Icy Blue Moon』は私の今のお父さんが務めてる出版社――
確かに、玄佳の今の父親から繋がりを探る事は可能なように思えた。寧ろ、そこをしっかり探っておかないと闇雲に探す事になるのではないか――桜はそんな事を思った。
「玄佳ちゃんのお父さんかー」
咲心凪は縞瑪瑙の瞳に期待の色を浮かべている。
「や、闇雲に探すよりはいいと思う……!」
桜は、やっと言葉を紡げた。
「そう言えば、桜ちゃん会った事あるもんね。じゃ、五月の活動はそこを重点的にかな」
由意がどこか鋭い目で決める。
「確かに、つきのひさし先生がとうやってIBMを見たか分かれば、その分前進する……玄佳ちゃんにあれこれ頼む事増えるけど、大丈夫?」
咲心凪は玄佳に尋ねる。
玄佳はすぐには答えず、カレーを一掬い食べた。
「断ったら詰める」
そして、咲心凪に向けて親指を立てて見せた。
「怖いね!?」
咲心凪はその顔に浮かぶ威力に驚いて、持っていたスプーンを取り落としそうになっている。玄佳ならやりそうに思えた。
「し、玄佳ちゃん……」
「冗談だよ、桜。ただ、あの人私の言う事は一切断らないから、そこは心配いらない」
「それはそれで心配だけどね……」
由意が何が、危険な臭いを嗅ぎつけたように顔を食卓から逸らした。
いざとなれば、自分も何かできる事をしよう。桜は密かに決めた。
「じゃ、次の活動も決まった所で、あんた達、使った所の掃除してからだからね? 帰るのは」
西脇の一言で、食卓には沈黙が舞い降りた。
その後、桜達は手分けして掃除をして、咲心凪の家にいって焼肉とアイスをご馳走になった。
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