第24話
「麒麟、を知っているか」
「きりん、とはあの
西竜王は控えている護衛をちらりと見て。
「聞かれたくないから結界を張り、音を
西竜王はフォディーナにさらに近づき、控えている護衛には口を読ませない位置に。
「先ほど、
「その麒麟の子を保護している」
「保護?」
「どこの馬鹿が
フォディーナは息を
「親は仲間に危険を知らせる、子供を助けて欲しかった。理由はわからないが、絶叫。それをシルフが聞き取った」
しかも真夜中。魔族の地から戻った二日目。シルフに叩き起こされ。いや、寝ているところを風を操り、運ばれ、見たのは。
「生まれたばかりの
話しを、背後関係を聞きたかったが、話すことのできない身に。
「治癒魔法をかけて
「だが?」
「
四大精霊に他の精霊が、こうしてみれば、と助言してくれ。ただ、どの精霊も麒麟のことは知らない。聞いたことはあるが、会ったことはない、と。
大きく息を吐く。
「群れがあれば群れに帰したい。群れが無理なら仲間に頼みたい」
四大精霊でさえ知らない。シルフ、ノームに捜しに行け、と言いたいが、狙われているかもしれないので、下手に外には出せず。別の精霊に頼んでも。ラビアから頼まれたと話せば、ラビアが
「ふむ」
「永く生きているから何か知っているかと。言い触らしはしないだろう」
知っていれば竜でも欲しがるだろう。だから多くに知られたくない。
「麒麟、か。永く生きているが」
フォディーナを見る。
「ごめんなさい。話に聞いたことはあるけれど」
知らないようだ。
「私より永く生きている者に聞いてみよう。何か知っているかもしれない」
「私も、書物をあたってみましょう」
「お願いします」
素直に頭を下げる。
ラビアでは限界が。魔王に聞きに行くのは。
「そう、だな。数日後にまた来てくれれば」
数日後。
「それなら、五日後に」
その西竜王の背後から、こちらに向かってくる男が。手には光るものが。
「ん?」
ラビアは目を細め。西竜王も背後を見る。控えている護衛は何か叫び、手を伸ばす。
向かってきた男は結界に勢いよくぶつかり。何が起こっているかわかっていない顔。しかし判断は早く、
「うりゃ」
ラビアは指を動かし、魔法で男を外、
そこへ、以前見たような男と白夜が取り押さえ。何か話している。
控えていた護衛は
ラビアは結界を解くと、騒がしい。
「ご無事ですか」
取り押さえている男が西竜王を見ている。
「ああ。
「結界を張っていたから、傷一つない、結界にぶつかっただけ」
ラビアは
「無謀にも
「最近、西竜王様と
他の竜もいるので、様をつけたのか。いつもは白慈と呼び捨て。
「元気そうに見えるが」
西竜王、白慈を見る。
「失敗している」
「お前がブサ、いい男台無しになっている原因はそれか。何日寝ずに張り付いてた。寝ろ。いざという時に動けなくなるぞ」
「もっと言ってやって」
「それとも信用できないのか」
「そんなことは」
「連れて行け」
取り押さえている男が近くの男に。
力を
「ぶっ」
魔法で潰し、地面に。
「
男は頭をかき。
「なんだ、反対勢力か。それとも何か言いたいことでもあるのか」
潰されている男は顔を上げ、
「血を」
「ち?」
「
必死に。
「分けてもらってどうするんだ」
ラビアは
「同じ時を過ごすため」
「同じ時?」
「俺と同じ時間を過ごすには西竜王様の血が必要なんだ」
「誰が」
「……彼女」
「また馬鹿を吹き込まれたな」
呆れをにじませ。
「馬鹿、だと」
潰れている男はラビアを睨み。
「ああ、馬鹿だ、大馬鹿だ。信じる奴も、実行する奴も」
「言い方」
「それなら、その女がどうなるかその目で見ていろ」
ラビアは立ち上がり、振り返る。
「そういうわけだ。少量でいい、血をくれるか。ほんの少しでいい。
「その者の言う者に与えると」
「それをやれば、その女は命を落とす」
「っ」
潰されている男は息を
「命を
詠唱し、下級魔族を呼び出す。
ラビアの手には体長二十センチほどのやせ細った小鬼が。ギイギイと鳴き、暴れている。
「少しでいい。ほんの少しを、こいつに」
小鬼を掴んだ左手を
「よく見ていろ、これがその女の
ラビアは小鬼を男の近くに投げた。
小鬼はギイギイと鳴き続け、地面を転がっていたが、右腕が太く。続いて左腕、左足、右足と巨大に。
「まず、体が変化する」
二十センチほどの小鬼が二メートルほどの大きさに。小鬼というより鬼。
「……大丈夫、なのか。凶暴化したような」
「なわけないだろ。
「おい!」
「安心しろ、責任とって倒す。剣も新しくなったし」
「笑顔で言うな。試し斬りしたいだけだろう」
「それなら、魔王との魔法合戦で鍛えられた魔法で」
「狙うのはあれだけにしろ」
「心配しなくても長くはもたない。急激な体の変化についていかないだろう。それに」
「それに?」
小鬼は自らの体を見回し、腕を振り、足を動かしていた。知能は変わっていないようだ。が、突然、動きが止まり、どんと地面に膝をつく。
「何が」
「体に合わなかった」
「体に合わない?」
「そうだ、体に合わず、苦しんでいる」
地面をのたうちまわり続け、やがて静かに、動きが止まる。
「あれがお前の女の
小鬼はぴくりとも動かなくなる。白目をむき、口からは舌がだらりと垂れて。
男を潰していた魔法は解いているが、男は地面に伏せたまま。首を左右に振り。
「夢じゃない。現実だ。こいつに殴ってもらうか、気絶しない程度に」
「こうなってもいいというのなら、土下座でも、泣き落としでも、なんでもして
「誓約書?」
「こうなったら自分で始末する。西竜王に文句は一切言わない。恨まない。自己責任。
男は首を振り続けている。
「これは魔力があったから、ここまでもった。お前の女に魔力はあるか。ないのなら、もっと早く」
聞きたくないとばかりに耳を手で
「以前、
「あれにも魔力はあった。体は変化しなかったが、魔力は爆発的に増えた。一時的に。最後はどうなったか。苦しみぬいたことは確実だろう」
返した
「もし、成功したとしても、そんな変わり果てた姿で同じ時を過ごせるか。運よく姿が変わらなくとも、その女は狙われる」
「狙われる?」
「薬師の中には自ら毒を飲み、体内で解毒薬を作る者もいる。その場合、薬はその薬師の血肉」
「それと同じで成功すれば、竜王の血に耐えられた者として、他の者から狙われる」
「詳しいな」
「別の話になるが、ドラゴンで試そうとした者がいる」
「ドラゴンで?」
「人の地にもドラゴンの血を浴び不老になった英雄の話がある。ドラゴンの血を全身に浴び、不老となり。心臓を焼いて食べ、動物の言葉がわかるようになった英雄の話が」
「今も、生きているのか」
「確か、一ヶ所だけ浴びていない場所があって、そこを女に刺されて終わった、という話だったような」
フォディーナを見ると小さく頷いている。
「あと、人魚の肉を食べると不老不死になれるとも。ドラゴンよりは挑みやすい、倒しやすい。ドラゴンは毒を持っているものもいる。そんなものの血を浴び、食べるのは。人魚は嵐を起こすともいわれていた。乱獲されたと」
「今も、されているのですか」
フォディーナはか細い声で。
「いや、今はマーマンが護っている。
槍を持っているように手を動かす。
マーマン。男性人魚の一種。基本的に大人しく、特別な理由がなければ人間に危害を加えるようなことはしないが、マーメイド、人魚を
「不死の成功者は……南の魔女と北の魔女は成功したか?
不老ではある。首から上だけと、魂を移すという無茶な方法で。
「まあ、そういうわけだ。お前の女がどうなってもいいのなら、試せばいいのでは。あ、結果、教えてくれ」
「止めたいのかやらせたいのか、どちらだ」
「もう一度言うが、九分九厘失敗する。まっ先に襲われるのは」
男を見た。
「何も知らない者にすれば、魔族がどこからか現れた、と思えるだろう」
「いいか」
男を逃した、短い
「実は、似たようなものを一度見た。魔族だと考えていたんだが。翼はない、息絶えていたから、どこから来たと。竜があんなもの連れてくるとは考えにくい。それなら人か、とも考えていたんだが、人にしても、あんな目立つものは。金色の竜が混乱させるために連れて来たとも。あれもまだ見つかっていない。それにしては暴れたとも聞かなくて。そこから新たなものは現れず、静か」
「あれに似ていた?」
ラビアは動かなくなった小鬼を見た。体は大きいまま。
「似ていると言われれば」
「実物見ていないからはっきり言えない。見てもわかるかどうか、だが、先に誰かが試して、失敗したのかも、な」
「
「西竜王でなくとも、純粋な竜の血で試せる」
「つまり、そいつは純粋な竜を襲った?」
「もしくは仲が良ければ
試した。
男は顎に手をあて。
「け、
耳を
「それもよくわからないが、純粋な竜にしかできない条件か、何かがあるのでは。たとえば、どちらか片方が命を落とす。両方落とす、とか。何かしらあるから同意が必要、純粋な竜しか使えないのでは」
竜だけが一方的に想っても。竜も減ってきている。ハーフとはいえ、これ以上減らしたくないのだろう。危険な橋を渡らせたくない。成功するのならとっくに教えて。
目の前の男はハーフ、か。想い人と同じ時を過ごそうと
「両方命を落とすのならいいかもしれないが、片方だけ、女だけ残るのは嫌だろうな。その女は永い年月を
どういう結果になろうとも後悔しないと。
男は答えない。
「詳しいことはわからない。お前も、その女も命を落とす、見るも無残な姿になってもかまわないというのなら、試せばいいのでは」
小さく肩をすくめ。
どうするか決めるのは目の前の男。こう言ってもやる者はやる。自分を信じて。そうして失敗してきた者を見てきた。後始末はラビアに。ここでは
短い
「さて、私も」
戻るか、と。
「これ、始末していって」
「有効活用して、西竜王の血を飲んだ女がこうなったと」
「もう十分わかっているから。口止めできないほど」
「それでも馬鹿考えて、土下座、泣き落とし。ちょっと見たいかも」
「土下座を。それとも変化した人?」
「両方」
「僕は土下座が」
「
体格のよい男が止め。
詠唱し、小鬼だったものを燃やす。骨も残さず。
「そうだ、あの件のこと」
西竜王を振り返る。
「ああ」
二人が頷くのを見て、家へと転移。
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