第23話
「これは、
そうとしか見えないものが
ここに現れる魔族は翼のあるものばかり。だが、路地に倒れている、
どこから来て、なぜ、ここに倒れていたのか。
いつまでもここに置いておくわけにもいかず。危険はないとわかっていても運ぶ者は顔をしかめ、嫌々。
他にもいないか、何人かで組ませ、捜索したが、見つからなかった。
本日は
女性の黄色い声。子供が親を応援する声。訓練している者の声、色々な声が響いていた。
「僕が御前試合に出ていれば。やはり
そう言う竜も。真面目に訓練にも出ず。
「だったら、対戦してみるか」
いつものことと聞き流していたのに。
白斗はここの者達をまとめている。いくつかの隊に分け、隊長が上司である白斗に報告。白斗から
白夜も隊を任されている。隊長の一人。隊は白夜と同じ、人と竜の子が多い。純粋な竜もいる。人とか竜とか気にしない者。
「白斗」
「そんなこと言うってことは、腕を
磨いているわけない。訓練している姿を見た覚えはない。家で、誰も見ていない所で剣を振っているかもしれないが。
「お、いいね。俺も見ていてやる。手を抜くなよ、白夜」
もしかして訓練に出てこない、真面目に仕事していないことに、いい加減頭にきて、人前で恥をかかせようと。
彼も隊長だが、仕事は隊員に任せ、本人は何をしているのやら。あまりいい噂は聞かない。
「それなら、僕が勝てば三将に」
「勝てば、考えてやるよ」
彼はそれが気に入らないのだろう。顔を引きつらせ。
彼は純粋な竜。プライドも高く。
「手を抜いた、体調が悪かった、なんて言い訳は通用しない。白夜も」
彼はいつも「今日は体調が」「
わかる者はわかる。彼が
了解していないのに、場を
小さく息を吐き、持っている訓練用の剣を構える。
見学している者達の中には彼の両親も。負かせば、また彼らの一派に色々言われるが、わざと負けても、
彼も剣を手に。白夜と
剣を合わせる。彼は余裕の表情。勝てる、と思っているのだろう。
ここのところ色々あり、睡眠をしっかりとれていない。食事もとれる時に。なので、一日一食の日も。そのせいか、顔色は悪いようだ。自分ではいつも通りだと。判断力も、動きも。いつもと変わらない。
だが、彼はそう思っていない。打ち込んでくる。かわし、弾き、打ち込む。風を操り。
人の地で、船で見た激しい剣技。比べものにならない。あの、人であった魔族と
もう少し打ち合う、相手に花を持たせるつもりが、彼の剣を弾き飛ばす。彼は驚いた顔。終わりかと思えば、素手で向かってくる。
「倒すなら、とっとと倒せ。手を抜くな」
背後から
素手で向かってきたが、難なくかわし、足を引っかけると、彼は見事に転び。
白斗が終了の声を。彼は起き上がり、白夜を睨む。取り巻きが彼を囲み。いつもの光景。言い訳を口にしているのだろう。
「それとも、本当に体調悪いのか」
「試してみます」
続けて白斗と手合わせ。
「すごいですね」
「あの人との手合わせ、手を抜きまくって。白斗様とは互角に」
「手を抜かれていたような」
「そうですかぁ」
「それとも、噂のお相手が来ているんで、気合が入っているんですか」
にやりと笑い。
「あ、それ聞いた。綺麗な人だって」
「……」
「噂は噂だろ」
鼻で笑う通りすがりも。
誰が綺麗、好み。誰が誰を狙っている、付き合っている、という話に。
人の地から戻ってきて、魔法学校のことを
「東の魔女殿が変わらず教えてくれるのなら」と学校の件は流れた。
その
剣の腕は彼よりラビアが上。ラビアと手合わせしていた方が。
子供達に魔法を教え、日が
あれから色々あり。もし、もっと早く起こっていれば。だが、あれを見せるのは。頼ってどうする、と考えていると、頭上が陰る。
「?」
顔を上げるより早く、何かがふって。
「っ」
「んん? 出るとこ間違えたか?」
人の上でそんな声。
「間違うはずないと思うんだが」
「いつまで」
「ん?」
「いつまで人の上で話している!」
倒れるまでいっていない。勢いよく体を起こす。乗っているラビアのことを考えず。
まったく、と息を吐き、地面に落ちているだろう、と地面を見るも、ラビアは地面にはおらず、空中に浮いていた。
「女一人支えられないのか。情けない。太って、はいないはず。旅行で食ったが、その後、誰かに運動させられ。ん?」
背は
「ブサイ、いい男が
「悪かったな、ブサイクで。それで、何の用だ。そんなことを言いに来たのか」
「いや、それじゃ、本題」
ラビアは一度口を閉ざし。地面に下りるかと思えば、そのまま浮いて。
「西の魔女が
西の魔女が逝去。言われた言葉を声にせず繰り返す。
「厄介なことに、後継を決めないまま」
「厄介? 後継を決めていないことが」
「そうだ。お前達も人の地に来た時につきまとわれただろう。忘れたのか」
「覚えている」
うんざりと。
「まさか、また俺達に」
「私が
ラビアは顔をしかめ。
「候補達は言葉巧みにお前達を味方につけようとするだろう。味方につけて、一緒に、もしくは代理でお前達、竜同士を争わす。私はそれを危惧している」
竜同士。東西南北の竜。
「西の魔女の住んでいる所だけが消し飛ぶなら問題ない」
「大ありだ」
「私の家が無事なら、どこが消滅しようと」
ラビアは肩をすくめ。
「よくない」
「それなら言いたいことはわかるだろう。竜王達は出てこずとも、お前達が争えば。一対一じゃないだろう。何十体と争われれば」
人の地の被害は。そして人の地と
「魔王から何か言われたのか」
「今のところ言われていない。言われるのは、竜が争い出してからだろう。全部始末しろとか無茶言うに決まっている」
腕を組み、迷惑だといわんばかりに。
「私の家、無駄な労力を使いたくないから、
「なるほど」
「それに、竜同士を争わせ、勝ったとしても必ず西の魔女になれるという保証はない。竜も竜で話が違うと話がこじれにこじれ、竜と人が争うことになっても。……竜の勝ちか。私は手を出さんし。西の魔女の住み家が消滅して」
「おい」
自分だけでなく、他の場所、人も心配しろと浮いているラビアの右足を引っ張った。
「うおっ」とバランスを崩しただけで、浮き続けている。
「
「ここはお前が説得してくれれば」
「説得しなくても」
今の話しを聞いていれば。
……。ここがどこだか、今さらながら思い出す。
周りを見ると、ラビアを見ている。
「どうかしたのか」
その本人は周りを気にせず、顔を近づけてくる。
「いや。西の魔女の孫は大丈夫なのか」
「さあ」
「さあって。心配じゃないのか」
「私があれの傍に今、行けると。今、あれの傍には魔法協会やあれの
「
「わかっているじゃないか。落ち着けば、南の魔女を連れて、花の一つでも持って行く。今、動くのは」
「ちゃんと考えているんだな」
「考えなしみたいな言い方だな」
「その通りだろ」
「むう」と両頬をつねられた。
「怪我でもしたのか」
右手首に包帯を巻いている。怪我をしても治癒魔法で治していた。子供達にも手本として見せて。
「ああ。これは魔王にやられた」
なんでもないように、さらりと。
「……今度は何をした」
「何もしていない。ここから帰った次の日、寝ていれば、魔王の右腕が来て、そのまま魔族の地へ。剣が直ったから、取りに来い、ということだったんだが」
「だが?」
大きな
「あんな奴の相手もできないのか、と鍛え直された。さらに魔王まで参戦。ご自慢の顔にかすり傷をつければ、さらに攻撃は激しくなり。何十年ぶりかに本気を出した。今、考えると、あの空間、よく無事だったな。それほど魔王が強い、ということか。ま、本気を出せる相手はいないから、出せたのは満足だった」
あはは、と軽く笑い。
「そういうわけだ。魔王にやられて治りは遅い。帰ってからも色々あったからなぁ。ゆっくり休めていない。いい加減休みたい」
「そういえば」
再び、じっと見てくる。
「なんだ」
「お前、私よりかなり年上、だよな」
「ひっかかる言い方だな」
「聞きたいことがある。聞き返すな。他人に話すな。知っている、知らないで答えろ」
ラビアは
こちらを見ている者の中には驚いている者、口を開けている者。
「 を知っているか」
小さな声。ラビアは顔を離し。
「知らない」
聞いた覚えはない。正直に答える。
「そう、か」
ラビアは腕を組み、難しそうな顔。
「
いいことを思いついた、という顔。
「待て」
右足首を再び引っ張る。
「うお、いきなり馬鹿力で引っ張るな。私の細く、か弱い足が折れる」
「手加減はしている。何を考えている」
「西竜王かフォディーナ様に会いに」
「西竜王様に会うには許可が
そう言ったのは純粋な竜。先ほど、
彼はあちこちの女性に声をかけ。
ラビアに目を付けないはずはない。声をかけるタイミングを見ていたのだろう。
「僕が頼めば」
「
「ん、ここにいるのか」
そこでラビアは周りを見て、西竜王様の元へ。
「待て」
握り続けている足首を引く。
「さっきから、何度も。蹴るぞ」
「蹴りながら言うな」
自由な左足であちこち蹴ってくる。
「西竜王様の許可を得てからだ。そうでないと周りに」
ラビアなら控えている護衛を魔法で軽々蹴散らしそうだ。だがそれをやれば。
「
彼がさらに声をかけようと口を開くが、手を離すとラビアは周りを見ず、
彼にしては初めての経験だろう。家柄と容姿で無視する者はいなかった。
「仲良さそうにしていたな」
「話しは聞こえていたでしょう」
「ああ。顔を寄せた時は何をするのかと」
「誰にも話すなと」
その話しを西竜王様、フォディーナ様にしているのだろう。二人のいる場所を見る。
西竜王様は屋敷の中から見学している。他の者は廊下から。
ラビアは浮いておらず、床に足をつけ。二人の顔色が変わる。
「何を、話しているんだ」
控えている護衛は無表情で立っていた。
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