第19話

 魔法学校には三十日間の夏季休暇というのがある。年の変わる時も休みがあるらしいが十日ほど。今回ほど長くはない。

 白夜びゃくや達は学校が休みに入るその日に汽車に。

 魔法協会、学校の者には観光して帰る、と言い、魔法学校に来た時同様、駅に。西の魔女の孫とは駅で会うことになっている。孫によると。

「色々準備があるので。この子を連れていてください」

 黒猫を青蘭せいらんに渡していた。

 魔法学校の門前には学長、案内してくれたサイル、クファール、魔法協会のユーリエ、他の面々も。幻獣狩げんじゅうがりは白夜びゃくや達をにらみ。ペンダントを渡してくれと言った若い男は、

「渡してくれましたか」

 白夜びゃくやを睨み、きつい口調で。

「渡したけど、こんなものいるかと、燃やしていたよ」

白慈はくじ

 火に油をそそぐようなことを。

「渡さなかったのでは。我々に東の魔女殿を取られると。お前達は竜。我々は魔女殿と同じ人。どちらの味方をするかは」

「ラビアは精霊の味方だ」

 幻獣狩りは怪訝けげんな顔。

「彼女の名前だよ。教えてもらわなかったの」

 白慈はくじ面白おもしろがるように。幻獣狩りは歯ぎしり。他の幻獣狩りの者が来て、白夜びゃくやと離す。

 魔法協会は「どちらに、誰かつけましょうか」と。

 人に迷惑をかけることはしない、と断り、学校を出た。

 どこも魔法学校に子供を預けはしない。白夜達ならまだしも、子供達が幻獣狩りに狙われ、さらわれては。

 駅で西の魔女の孫と会い、港行きの汽車に。黒猫の説明もあったが、一日では港に着かず、汽車で寝食。あかねは「乗り物で寝たり食べたりできるんだ」と。風呂はない。そのことが不満だったようだが。

 ラビアは家から港に来るらしい。駅には現れず。

「姉さん、来てくれるといいんですけど」

 夕食時、孫は小さく息を吐き。

 食事を取るだけの場所に移動。そこにはテーブルと椅子が。

「来るのが面倒になる、緊急の用が入れば来ないので。でも、協会のお仕事以外の緊急のお仕事って」

 魔王関係か。ラビアも優先しないと、と話していた。

「気まぐれ?」

 白慈はくじは小さく笑い。

「はい」

「どんな家なのか。行ってみたかったけど」

「東の魔女は精霊、妖精、動物の保護を代々していたそうです。癒しの使い手として有名だったとか。そのため、たくさんの精霊達がいます。保護したので絶滅をまぬがれたものもいた、と」

「それが今や破壊の魔女」

「姉さん、細かい調整もできるのに、一気に終わらせようと大きな魔法でどかん」

「……」

 少し、理由がわかったような。

「今回も色々あったようですね。魔法協会の方々かたがたが話していました。リディス様もお相手を、と言っていましたが」

 これに反応したのは青蘭せいらん黒輝こくき。青蘭はかすかに顔をしかめ、黒輝は「えっ」と声をあげ。

「早いですよ」

 孫は笑い。

「東の魔女様にも同じ年齢の頃にすすめられたそうですよ。全員怯    おびえて、二度と関わりたくないと」

「魔法の実験台、でしょうか。わたしがいた頃も実験台がいたら、とぼやいていたから」

「薬の実験台、もしくは材料採ってこい、と言ったのかもしれませんね」

「材料なら簡単にってこられるんじゃ」

 白慈はくじは首を傾げ。

「そんなやさしい場所にあると。あの方のこと、魔族か精霊のいる場所、生きて帰ってこられない場所から採ってこいと言います」

「姉さんなら生きて帰ってこられても、他のかたもそうとは」

「お相手は苦労しますね」

「そうね。どうでもいい方だと三日で顔を忘れるけど、執着するものは執着するから」

「……」

 ラビアがこの場にいれば、どうなっていたか。

「魔女ちゃんは」

 あかねの明るい声。

「え、わたし、ですか」

「この場にいるのはあなただけでしょ」

「わたしはまだ魔女では。リディスと呼んでください。呼びにくければ、リースでも」

「それじゃ、リーちゃんは、どんな人が良いの?」

「おい」

「いいじゃない、女の子同士。学校じゃ女の子とはあまり話せなかったし。なぜか男の子が寄ってきたんだよね」

 あかね真紅しんくを見て。

「それで、どんな人が理想。あたしはね」

 茜は自分の理想を。

「んな奴いるか」と真紅は呟き。

「で、リーちゃんの理想は」

 理想を語り終えた茜は孫を見る。

「え、え~と、え~と」

「学校で気になる人とか」

「いま、せん」

「西の魔女の孫として見ていますから」

 黒猫が補足。

 ラビアと同じ、か個人でなく、肩書きを。

「でも、リーちゃんくらいの年なら恋話とか」

「それよりも、勉強が。十日、十日間」

 ラビアに叩き込まれる期間か。沈んだ様子で呟き。

「魔女にならない、とも聞きましたけど」

 黒輝こくきは遠慮がちに。

「はい。決めるのは祖母なので」

「その場合、あなたはどうするのです」

「そう、ですね。西の魔女の補助、魔法協会の手伝い、でしょうか。魔力はあるようですから」

 手元に置いておきたい。利用したいとラビアも言っていた。いいように利用されたくないからラビアは魔法協会からの依頼を受けない? それを気まぐれと取られ。

「でも、恋愛は自由なんでしょ」

 あかねは恋愛話をしたいらしい。

「そ、そうですね」

 孫は茜に気圧けおされ。

「えっと、茜さまは」

あかねでいいよ。あたしはさっき話した通り。相手はまだ決めていないから別へ行ってもいいよ~、ね」

 真紅しんくを見て。

「好きにしろ」

「真紅くんも、いないでしょ。南竜王なんりゅうおうさまが早く決めろって、言ってるもんね」

 ひひ、と笑い。

「うるさい。俺を巻き込むな」

 真紅しんくあかねの左頬をつねり。

青蘭せいらんくんは」

 飛び火した。

「一応、候補は。まだ決まっては」

「そうなんだ。黒輝こくきくんは」

「い、いません。兄、はいますが、ぼくは、まだ」

 大きく首を左右に振っている。

「僕は決まった女性がいるから」

 白慈はくじは振られる前に。

「東の魔女、か。仲良さそうだったし、な」

「それはこっち」

 指したのは白夜びゃくや。しかも行儀悪くはしで。

白慈はくじ

「一時期一緒に住んでいた仲じゃない」

「えっ」

 白慈を除く全員が驚き。

「一緒に」

「住んでいて、五体満足」

 ……。

「姉さん、丸くなりましたね」

「家、家はご無事なのですか。燃やされる、お化け屋敷にされていません」

「彼女の家はお化け屋敷なの? そのお化け屋敷、というのもよくわからないけど」

「使用人さんがいるじゃない」

「あのかたがいなければ、キノコ屋敷ですよ。もしくは、ゴミ屋敷」

「姉さんが聞いたら燃やされそうね」

 孫は笑い。

 一体どんな家に住んでいるのか。


 船の停まっているという港町の駅で降り、船へと徒歩で。吹いてくる風にはかすかに塩の匂いが。

「これが海」

 初めて見る海。その海に浮かぶ大きな船。どのような仕組みで浮いているのか。

 白夜びゃくや達と同じように荷物を持ち、船へと向かう人々。孫の荷物は青蘭せいらんが。あかねの荷物は茜が真紅しんくに押しつけ。

「姉さんは」

 孫はきょろきょろと。人が行き来しており、どこにいるのか。

「ここだ」

 背後から声。振り返ると白い帽子に黒いメガネ。一見ラビアかわからないが、まだ見られる服装。孫も。あかねは暑いと腕も足も出し、腹も少し見える。目のやり場に困る服装。竜の地ではあまり肌を見せない。

「よかった。来てくれたんですね。て、何を食べているんです」

「タコ焼き。小さいタコを焼いて、くしに刺し、味付けたもの。少し早く来て、町を見ていた」

 ラビアの片手には串。

「西の魔女に手紙を送れば、よろしくお願いします、とすぐ返事が来た。これはお前に渡せと」

 串を持っていない片手にある封筒を孫の顔にびしりと。

「話したんですか」

 孫は顔色を変え。

「やっぱり話していなかったか」

 ラビアは呆れ。

「学校にいない、家にもいない。お前派の連中が大騒ぎする」

 封筒で孫の額をぺしぺしと。

「無人島に置いてきて、誰が一番に見つけるか、自分で脱出するか、試すのも」

「試さないでください! 遊びたいです。楽しみたいです」

「無人島で」

「船で、です」

 孫は大きな船を指す。

「私としては家でゆっくり」

「若いのに何を言っているんです」

「暑い。寒いのはもっと嫌だが、家は涼しい」

 言う通り、暑い。しかし、ここは水場、海が近いので風は少し涼しい。

「船の中も快適ですよ。はい、行きましょう。皆さまも」

 孫はラビアの背を押し。

「姉弟子達は大人しく帰ったか」

「どうでしょう」

幻獣狩げんじゅうがりの連中は」

「そちらもさっぱり。わたしはあまり関わらなかったので」

 両方につきまとわれていたのは白夜びゃくや達、竜。

 ラビアは背後、孫について歩く白夜達を見る。

「学校を出るまで僕達をにらんでいた。そこからは」

 白慈はくじは小さく肩をすくめ。

 目的が白夜達なら学校に用はない。あきらめきれず一人、二人ついてきているかもしれないが。


 白夜びゃくや達、竜だけでなく、孫、ラビアも珍しそうに中を見回して。

「乗ったことない、のか」

「これだけ大きな客船は初めてだ。魔法で移動していたからな」

 ラビアは黒いメガネと帽子をとり。

「リディス様、ですね」

 スーツをきっちり着た年配の男性が頭を下げる。

「あ、はい」

 孫は背筋を正し。

「こ、今回はお招きいただき、ありがとうございました」

 緊張しているのか。勢いよく頭を下げる。

「いえ、西の魔女様にはお世話に、とはいえ、お世話になったのはあるじですが。申し訳ありません。主は忙しく」

「いいえ、ご招待していただいただけで」

 孫は両手を上げ、首を左右に振っている。

「お部屋にご案内しましょう。その後は船内を」

「だ、大丈夫です。自分達で」

「部屋だけでも案内してもらえ。荷物を置きたい。これだけ広ければ迷う。荷物を持っていつまでもうろうろは」

「そう、ですね。お願いします」

 再び勢いよく頭を下げていた。


 迷う。案内されている間、そう考えていた。寝泊りする部屋だけでなく、いくつも大きな部屋が。あちこちで足を止め、ここは、あそこは、とたずねていた。

 中の地図はあちこちにあり、案内の者もいるが、迷う。

 部屋は二人部屋。魔法学校同様、東西南北に分かれ。ラビアは孫と一緒の部屋。

 部屋に荷物を置くと、中を見よう、ということになり。あかねは船の施設が説明されている紙を見ながら。

「色々あるんだね。どこから行こう。遊ぶのなら、プール、カジノっていうのもあるみたい。わかる?」

 あかね真紅しんくを見て。

「カジノは金をけて遊ぶ。トランプ、スロット、などなど。最初は勝てるようにしてくれているらしいが、あまりやりすぎると、全財産失う。ここではそこまでやらないだろう」

「詳しいな」

 説明したラビアを見た。

「おばあちゃんが息抜きに本場に行っていた。覚えていないだろうが、一年に一回、家に数日いなかっただろう。仕事でいない時もあったが」

 孫を見て。

「小さいお前を連れて行くわけにはいかなかったからな。私も留守番。面倒を見てくれる者はいたし」

 孫は「う~ん、そうでしたか」と顎に手をあて。

「このショーっていうのは」

「えっと、音楽、踊り、寸劇などをまぜたもよおし物、です。今の時間はないようですね。夜にコンサートがあるようです」

 孫も紙を見ながら。

「プールは」

「水遊び、ですか」

「水遊び?」

「はい、水を張って、その中で泳いで」

「お風呂? 水練すいれん?」

「とは違います。行ってみます」

 あかねは大きく頷き。

 迷いながら屋外に。

「うわあぁ」

「広いですね」

 あかねと孫は目を輝かせ。特に茜は風呂に入れなかったことが不満だったようで。

 プール、屋外に人はまばら。白夜びゃくや達のように紙を片手に歩き回っている人も。

「入れるの。入りたい」

「そのままは無理です。水着に着替えないと」

 今にも飛び込みそうなあかね真紅しんくが止めている。

「みずぎ?」

「はい。あ、でも持って来ていないです」

「借りられるようですよ」

 孫の肩で大人しくしていた黒猫が、持っている紙を指し。

「余計なことを」

 ラビアは小さく。

「どうします?」

「今日は船の中を見て回ればどうだ。明日、明後日とある」

「私もそちらが」

 青蘭せいらんはラビアに同意。

「むう」とあかねは不満そうだ。だが、中へ。

 休憩しながらあちこち見ていた。船の中なのに階があり、軽食を取れる場所が階ごとに一ヶ所はある。昼食はそこで。歩いている最中もラビアは「海にいる精霊は」と。肩にいる黒猫が答えようとすると「甘やかすな」と睨み。

 本日は船の中を見て終了。孫は、

「こんなに歩いたのは久々です。疲れました」

「体力つけろ」

 ラビアは平気な様子。竜もこれくらいは。立ち止まり、夕食はどこにする、と話し合っていた。

「ここは用意されているものの中から、自分で選んで盛り付けていくようです。こちらは注文して」

 孫が説明。

「好きなだけ食べられるのがいいな。各地の料理があるのだろう」

「みたいですね。デザートも。好きなだけ取り放題。こちらはフルコースのようで、好きなだけとは」

「足りなければどこかで飲む」

「大丈夫ですか。色々な意味で」

 孫は右頬をつねられていた。

「団体行動しなくても、かれて好きなものを食べればいいんじゃないか。迷子になっても船の中。船員もいる」

「それはそうなんですけど。部屋までの道を覚えていなくて。迷子になりそうで」

「それがいるから大丈夫だろう」

 ラビアは黒猫を指し。

「姉さんは覚えているんですか」

「いると思うか」

 しれっと。

「迷子になったら」

「荷物が部屋にある。転移の魔法で」

「ずるいです!」

「だったら早く使えるようになれ」

「むうぅ」

 分かれることなく、食事の場へ。

 並べられている料理を好きな、食べられるだけ取る、というものを選び。

「そういえば、昨日話していたんだけど、東の魔女ちゃんって、白夜びゃくやくんと一緒に暮らしていたの」

「……」

「そう、なるのか。世話にはなったが。東の魔女ちゃん言うな。ラビアでいい」

「本当だったんだ」

「家、燃やされませんでした?」

「キノコやされませんでした」

「おい」

 ラビアは孫を睨み。

「別の家を燃やそうとしていたな」

「「やっぱり」」

 孫と黒猫は声を揃え。

「余計なことは言うな」

 白夜びゃくやも睨む。

「頼まれごとをされ、協力してもらっていた。竜の地はさっぱり。宿とかあるのか」

「なくはないけど、少ない、かな。来る者は限られている。竜王とか、近しい者が来るのなら御殿や別邸でもてなすから。西竜王うちはそうだけど」

 白慈はくじが他の者を見る。

南竜王うちも同じだ。人の地のように旅人っていうのはいない」

 黒輝こくきも頷いている。

「姉さん、家事全然だめでしょう」

「人のこと言えるのか」

「ゆで玉子爆発させる人に言われたくありません。わたしは作れます、ゆで玉子」

 そのゆで玉子をはしに持ち、口に。

「作ってもらえばいいだろう。もしくは買う」

「キノコ屋敷」

 黒猫がぼそっと。

「勝手にキノコ屋敷にするな。お前の家も似たようなものだろ。弟子がやってくれている。むしろ、お前の家がキノコ屋敷」

「薬草です。ただのキノコじゃありません」

「とにかく、家にキノコは生えていない。お化け屋敷でも。いや、ある意味、お化け屋敷か。今は精霊が家でごろごろ。鬱陶うっとうしくて踏んだことも。家を壊せば出て行け、もしくは直せと言っている」

「相変わらず精霊を顎で使っているのですね」

 黒猫は呆れをにじませ。

「持ちつ持たれつ。護ってやっているんだ。家を壊されれば、私が困る。家には色々ある。壊されていいものもあるが、貴重なものも。誰にも譲れない」

「魔法協会にも、ですか」

「あんなところに渡せるか。あそこに渡すくらいなら魔族に渡す」

 以前も思ったが、なぜ魔族に。

「そんなに、信用ないのか」

 白夜びゃくやは口をはさむ。

「ああ」

 はっきり。

「姉さん」

 孫は注意するように。

「本当のこと。真面目な奴もいるが、そうでない奴も。自分の欲を満たすために使い、自滅じめつ。ならいいが、他人を巻き込み、手に負えなければこちらに押しつけ。手に負えないものに手を出すな」

 行儀悪く、はしで刺し、刺したものを口に。

「それじゃ、魔女ちゃんの理想は」

「魔女ちゃん言うな」

 ラビアはあかねを見て。

 まだ続いていたのか。

「姉さんの」

「魔女様の」

「「理想」」

 孫と黒猫の声がそろう。

「そういえば聞いたことありませんね。姉さんどうでもいい人ならすぐ忘れるでしょう。相手は覚えているみたいですけど」

「ようですね。学校に来ていた魔法協会のかたもなんとか気をこうと」

「陰で悪態あくたいついていたな。なぜ、口説くどき落とせない、気が惹けないと。自信過剰か」

「まさか、何か魔法をかけて」

「かけるか。そんな魔力の無駄使いするか」

「でも、姉さん、呼吸するように、自然に、簡単に魔法使っていますよね」

「お前もできるだろう」

「はっ、墓穴ぼけつ

「そのうち嫌でも寄ってくる」

「むうう」

 今でも寄ってこられているのでは。人はわからないが、黒輝こくき、もしかしたら青蘭せいらんも。本人でなくとも誰かにと考えているかもしれない。

「姉さんはどのように対処しているんです。理想も聞いていませんけど」

「相手にしない、が一番。しつこければ記憶を消す。完膚かんぷなきまでに叩きのめして、力の差を」

「平和的なので、お願いします」

「平和的。……私より、そっちに聞けばどうだ」

 ラビアはあかねを。見られた茜は、

「う~ん。相手がいないから、いっぱい言い寄られたけど。試しに付き合ってもいたし。困ったら真紅しんくくん頼って。だから真紅くんが本命って」

「そうだな。何かあれば、すぐ俺のとこ来て、面倒押し付けて」

 幼なじみとはどこも同じか。と聞いていた。

「試しに付き合ってみるのも、いいんじゃない」

 茜は笑顔で。

「なるほど。破産するまでみつがせるのも」

「つまり、東の魔女は男と付き合ったことない」

 真紅しんくが口をはさむ。

「ない、な。特に必要とも思わない。それにうらまれているからなぁ。人だけじゃなく精霊にも。その相手に何をするか。私が家を燃やす前に、精霊が燃やすかもな」

 ラビアは笑い。

「精霊は人より厄介やっかいですよ。何をやっているんです」

 黒猫は呆れたように。

 親しくしていれば、その人まで巻き込まれる。それなら白夜びゃくやは。

 人よりは頑丈がんじょう。精霊と争ったことはないが、争えばろくな結果には。

 ラビアを見た。

「なんだ」

「ついている」

 口のふちに何かのソースをつけ。すぐにはかず、食べ終われば拭いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る