第19話
魔法学校には三十日間の夏季休暇というのがある。年の変わる時も休みがあるらしいが十日ほど。今回ほど長くはない。
魔法協会、学校の者には観光して帰る、と言い、魔法学校に来た時同様、駅に。西の魔女の孫とは駅で会うことになっている。孫によると。
「色々準備があるので。この子を連れていてください」
黒猫を
魔法学校の門前には学長、案内してくれたサイル、クファール、魔法協会のユーリエ、他の面々も。
「渡してくれましたか」
「渡したけど、こんなものいるかと、燃やしていたよ」
「
火に油をそそぐようなことを。
「渡さなかったのでは。我々に東の魔女殿を取られると。お前達は竜。我々は魔女殿と同じ人。どちらの味方をするかは」
「ラビアは精霊の味方だ」
幻獣狩りは
「彼女の名前だよ。教えてもらわなかったの」
魔法協会は「どちらに、誰かつけましょうか」と。
人に迷惑をかけることはしない、と断り、学校を出た。
どこも魔法学校に子供を預けはしない。白夜達ならまだしも、子供達が幻獣狩りに狙われ、
駅で西の魔女の孫と会い、港行きの汽車に。黒猫の説明もあったが、一日では港に着かず、汽車で寝食。
ラビアは家から港に来るらしい。駅には現れず。
「姉さん、来てくれるといいんですけど」
夕食時、孫は小さく息を吐き。
食事を取るだけの場所に移動。そこにはテーブルと椅子が。
「来るのが面倒になる、緊急の用が入れば来ないので。でも、協会のお仕事以外の緊急のお仕事って」
魔王関係か。ラビアも優先しないと、と話していた。
「気まぐれ?」
「はい」
「どんな家なのか。行ってみたかったけど」
「東の魔女は精霊、妖精、動物の保護を代々していたそうです。癒しの使い手として有名だったとか。そのため、たくさんの精霊達がいます。保護したので絶滅を
「それが今や破壊の魔女」
「姉さん、細かい調整もできるのに、一気に終わらせようと大きな魔法でどかん」
「……」
少し、理由がわかったような。
「今回も色々あったようですね。魔法協会の
これに反応したのは
「早いですよ」
孫は笑い。
「東の魔女様にも同じ年齢の頃に
「魔法の実験台、でしょうか。わたしがいた頃も実験台がいたら、とぼやいていたから」
「薬の実験台、もしくは材料採ってこい、と言ったのかもしれませんね」
「材料なら簡単に
「そんなやさしい場所にあると。あの方のこと、魔族か精霊のいる場所、生きて帰ってこられない場所から採ってこいと言います」
「姉さんなら生きて帰ってこられても、他の
「お相手は苦労しますね」
「そうね。どうでもいい方だと三日で顔を忘れるけど、執着するものは執着するから」
「……」
ラビアがこの場にいれば、どうなっていたか。
「魔女ちゃんは」
「え、わたし、ですか」
「この場にいるのはあなただけでしょ」
「わたしはまだ魔女では。リディスと呼んでください。呼びにくければ、リースでも」
「それじゃ、リーちゃんは、どんな人が良いの?」
「おい」
「いいじゃない、女の子同士。学校じゃ女の子とはあまり話せなかったし。なぜか男の子が寄ってきたんだよね」
「それで、どんな人が理想。あたしはね」
茜は自分の理想を。
「んな奴いるか」と真紅は呟き。
「で、リーちゃんの理想は」
理想を語り終えた茜は孫を見る。
「え、え~と、え~と」
「学校で気になる人とか」
「いま、せん」
「西の魔女の孫として見ていますから」
黒猫が補足。
ラビアと同じ、か個人でなく、肩書きを。
「でも、リーちゃんくらいの年なら恋話とか」
「それよりも、勉強が。十日、十日間」
ラビアに叩き込まれる期間か。沈んだ様子で呟き。
「魔女にならない、とも聞きましたけど」
「はい。決めるのは祖母なので」
「その場合、あなたはどうするのです」
「そう、ですね。西の魔女の補助、魔法協会の手伝い、でしょうか。魔力はあるようですから」
手元に置いておきたい。利用したいとラビアも言っていた。いいように利用されたくないからラビアは魔法協会からの依頼を受けない? それを気まぐれと取られ。
「でも、恋愛は自由なんでしょ」
「そ、そうですね」
孫は茜に
「えっと、茜さまは」
「
「好きにしろ」
「真紅くんも、いないでしょ。
ひひ、と笑い。
「うるさい。俺を巻き込むな」
「
飛び火した。
「一応、候補は。まだ決まっては」
「そうなんだ。
「い、いません。兄、はいますが、ぼくは、まだ」
大きく首を左右に振っている。
「僕は決まった女性がいるから」
「東の魔女、か。仲良さそうだったし、な」
「それはこっち」
指したのは
「
「一時期一緒に住んでいた仲じゃない」
「えっ」
白慈を除く全員が驚き。
「一緒に」
「住んでいて、五体満足」
……。
「姉さん、丸くなりましたね」
「家、家はご無事なのですか。燃やされる、お化け屋敷にされていません」
「彼女の家はお化け屋敷なの? そのお化け屋敷、というのもよくわからないけど」
「使用人さんがいるじゃない」
「あの
「姉さんが聞いたら燃やされそうね」
孫は笑い。
一体どんな家に住んでいるのか。
船の停まっているという港町の駅で降り、船へと徒歩で。吹いてくる風には
「これが海」
初めて見る海。その海に浮かぶ大きな船。どのような仕組みで浮いているのか。
「姉さんは」
孫はきょろきょろと。人が行き来しており、どこにいるのか。
「ここだ」
背後から声。振り返ると白い帽子に黒いメガネ。一見ラビアかわからないが、まだ見られる服装。孫も。
「よかった。来てくれたんですね。て、何を食べているんです」
「タコ焼き。小さいタコを焼いて、
ラビアの片手には串。
「西の魔女に手紙を送れば、よろしくお願いします、とすぐ返事が来た。これはお前に渡せと」
串を持っていない片手にある封筒を孫の顔にびしりと。
「話したんですか」
孫は顔色を変え。
「やっぱり話していなかったか」
ラビアは呆れ。
「学校にいない、家にもいない。お前派の連中が大騒ぎする」
封筒で孫の額をぺしぺしと。
「無人島に置いてきて、誰が一番に見つけるか、自分で脱出するか、試すのも」
「試さないでください! 遊びたいです。楽しみたいです」
「無人島で」
「船で、です」
孫は大きな船を指す。
「私としては家でゆっくり」
「若いのに何を言っているんです」
「暑い。寒いのはもっと嫌だが、家は涼しい」
言う通り、暑い。しかし、ここは水場、海が近いので風は少し涼しい。
「船の中も快適ですよ。はい、行きましょう。皆さまも」
孫はラビアの背を押し。
「姉弟子達は大人しく帰ったか」
「どうでしょう」
「
「そちらもさっぱり。わたしはあまり関わらなかったので」
両方につきまとわれていたのは
ラビアは背後、孫について歩く白夜達を見る。
「学校を出るまで僕達を
目的が
「乗ったことない、のか」
「これだけ大きな客船は初めてだ。魔法で移動していたからな」
ラビアは黒いメガネと帽子をとり。
「リディス様、ですね」
スーツをきっちり着た年配の男性が頭を下げる。
「あ、はい」
孫は背筋を正し。
「こ、今回はお招きいただき、ありがとうございました」
緊張しているのか。勢いよく頭を下げる。
「いえ、西の魔女様にはお世話に、とはいえ、お世話になったのは
「いいえ、ご招待していただいただけで」
孫は両手を上げ、首を左右に振っている。
「お部屋にご案内しましょう。その後は船内を」
「だ、大丈夫です。自分達で」
「部屋だけでも案内してもらえ。荷物を置きたい。これだけ広ければ迷う。荷物を持っていつまでもうろうろは」
「そう、ですね。お願いします」
再び勢いよく頭を下げていた。
迷う。案内されている間、そう考えていた。寝泊りする部屋だけでなく、いくつも大きな部屋が。あちこちで足を止め、ここは、あそこは、と
中の地図はあちこちにあり、案内の者もいるが、迷う。
部屋は二人部屋。魔法学校同様、東西南北に分かれ。ラビアは孫と一緒の部屋。
部屋に荷物を置くと、中を見よう、ということになり。
「色々あるんだね。どこから行こう。遊ぶのなら、プール、カジノっていうのもあるみたい。わかる?」
「カジノは金を
「詳しいな」
説明したラビアを見た。
「おばあちゃんが息抜きに本場に行っていた。覚えていないだろうが、一年に一回、家に数日いなかっただろう。仕事でいない時もあったが」
孫を見て。
「小さいお前を連れて行くわけにはいかなかったからな。私も留守番。面倒を見てくれる者はいたし」
孫は「う~ん、そうでしたか」と顎に手をあて。
「このショーっていうのは」
「えっと、音楽、踊り、寸劇などをまぜた
孫も紙を見ながら。
「プールは」
「水遊び、ですか」
「水遊び?」
「はい、水を張って、その中で泳いで」
「お風呂?
「とは違います。行ってみます」
迷いながら屋外に。
「うわあぁ」
「広いですね」
プール、屋外に人はまばら。
「入れるの。入りたい」
「そのままは無理です。水着に着替えないと」
今にも飛び込みそうな
「みずぎ?」
「はい。あ、でも持って来ていないです」
「借りられるようですよ」
孫の肩で大人しくしていた黒猫が、持っている紙を指し。
「余計なことを」
ラビアは小さく。
「どうします?」
「今日は船の中を見て回ればどうだ。明日、明後日とある」
「私もそちらが」
「むう」と
休憩しながらあちこち見ていた。船の中なのに階があり、軽食を取れる場所が階ごとに一ヶ所はある。昼食はそこで。歩いている最中もラビアは「海にいる精霊は」と。肩にいる黒猫が答えようとすると「甘やかすな」と睨み。
本日は船の中を見て終了。孫は、
「こんなに歩いたのは久々です。疲れました」
「体力つけろ」
ラビアは平気な様子。竜もこれくらいは。立ち止まり、夕食はどこにする、と話し合っていた。
「ここは用意されているものの中から、自分で選んで盛り付けていくようです。こちらは注文して」
孫が説明。
「好きなだけ食べられるのがいいな。各地の料理があるのだろう」
「みたいですね。デザートも。好きなだけ取り放題。こちらはフルコースのようで、好きなだけとは」
「足りなければどこかで飲む」
「大丈夫ですか。色々な意味で」
孫は右頬をつねられていた。
「団体行動しなくても、
「それはそうなんですけど。部屋までの道を覚えていなくて。迷子になりそうで」
「それがいるから大丈夫だろう」
ラビアは黒猫を指し。
「姉さんは覚えているんですか」
「いると思うか」
しれっと。
「迷子になったら」
「荷物が部屋にある。転移の魔法で」
「ずるいです!」
「だったら早く使えるようになれ」
「むうぅ」
分かれることなく、食事の場へ。
並べられている料理を好きな、食べられるだけ取る、というものを選び。
「そういえば、昨日話していたんだけど、東の魔女ちゃんって、
「……」
「そう、なるのか。世話にはなったが。東の魔女ちゃん言うな。ラビアでいい」
「本当だったんだ」
「家、燃やされませんでした?」
「キノコ
「おい」
ラビアは孫を睨み。
「別の家を燃やそうとしていたな」
「「やっぱり」」
孫と黒猫は声を揃え。
「余計なことは言うな」
「頼まれごとをされ、協力してもらっていた。竜の地はさっぱり。宿とかあるのか」
「なくはないけど、少ない、かな。来る者は限られている。竜王とか、近しい者が来るのなら御殿や別邸でもてなすから。
「
「姉さん、家事全然だめでしょう」
「人のこと言えるのか」
「ゆで玉子爆発させる人に言われたくありません。わたしは作れます、ゆで玉子」
そのゆで玉子を
「作ってもらえばいいだろう。もしくは買う」
「キノコ屋敷」
黒猫がぼそっと。
「勝手にキノコ屋敷にするな。お前の家も似たようなものだろ。弟子がやってくれている。むしろ、お前の家がキノコ屋敷」
「薬草です。ただのキノコじゃありません」
「とにかく、家にキノコは生えていない。お化け屋敷でも。いや、ある意味、お化け屋敷か。今は精霊が家でごろごろ。
「相変わらず精霊を顎で使っているのですね」
黒猫は呆れをにじませ。
「持ちつ持たれつ。護ってやっているんだ。家を壊されれば、私が困る。家には色々ある。壊されていいものもあるが、貴重なものも。誰にも譲れない」
「魔法協会にも、ですか」
「あんなところに渡せるか。あそこに渡すくらいなら魔族に渡す」
以前も思ったが、なぜ魔族に。
「そんなに、信用ないのか」
「ああ」
はっきり。
「姉さん」
孫は注意するように。
「本当のこと。真面目な奴もいるが、そうでない奴も。自分の欲を満たすために使い、
行儀悪く、
「それじゃ、魔女ちゃんの理想は」
「魔女ちゃん言うな」
ラビアは
まだ続いていたのか。
「姉さんの」
「魔女様の」
「「理想」」
孫と黒猫の声が
「そういえば聞いたことありませんね。姉さんどうでもいい人ならすぐ忘れるでしょう。相手は覚えているみたいですけど」
「ようですね。学校に来ていた魔法協会の
「陰で
「まさか、何か魔法をかけて」
「かけるか。そんな魔力の無駄使いするか」
「でも、姉さん、呼吸するように、自然に、簡単に魔法使っていますよね」
「お前もできるだろう」
「はっ、
「そのうち嫌でも寄ってくる」
「むうう」
今でも寄ってこられているのでは。人はわからないが、
「姉さんはどのように対処しているんです。理想も聞いていませんけど」
「相手にしない、が一番。しつこければ記憶を消す。
「平和的なので、お願いします」
「平和的。……私より、そっちに聞けばどうだ」
ラビアは
「う~ん。相手がいないから、いっぱい言い寄られたけど。試しに付き合ってもいたし。困ったら
「そうだな。何かあれば、すぐ俺のとこ来て、面倒押し付けて」
幼なじみとはどこも同じか。と聞いていた。
「試しに付き合ってみるのも、いいんじゃない」
茜は笑顔で。
「なるほど。破産するまで
「つまり、東の魔女は男と付き合ったことない」
「ない、な。特に必要とも思わない。それに
ラビアは笑い。
「精霊は人より
黒猫は呆れたように。
親しくしていれば、その人まで巻き込まれる。それなら
人よりは
ラビアを見た。
「なんだ」
「ついている」
口のふちに何かのソースをつけ。すぐには
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