第17話

「なぜ、ついてきた」

 ラビアは南の魔女を定位置の机の上に置くと、白夜びゃくや白慈はくじを睨む。

「魔女の家が見たかったから」

 白慈は笑顔で。

「ここは南の魔女の家、だがな」

「本だらけ」

 白慈はくじの言葉通り、本が並んでいる。縦に横に、棚に床に。

「ご主人様、戻られたのですか」

 女の声が部屋の外から。家の中に扉はない。扉があるのは出入り口の一ヶ所だけ。

「ああ。戻った。疲れたから、お茶をれてくれるかい」

「わかりました」

 足音が遠ざかる。

「竜は連れて行ってくれよ」

「……わかっている。連れて来たくて来たんじゃない。勝手についてきたんだ」

 ラビアは顔をしかめ。白慈はくじ白夜びゃくやの腕を適当に掴む。場所が違えば、両手に花、に見える者もいるかもしれない。

 南の魔女の家から再び別の場所に移動。白慈、白夜を連れて。

 出たのは泉。周囲は木々に囲まれ。水面は澄んでいる。

「ここは」

「ウンディーネの

 ラビアは自身をあちこち触り。

「何をやっている?」

 白夜びゃくやいぶかしそうに。

「何かないかと思って。ここまで来たんだ。このさい、ここで一つ済まそうと」

 二人は首を傾げ。

 次に、いつでも帰れるよう持っていたかばんの中身を地面に。

「本当に、何をやっている」

「気にするな」

 木々の間からここに棲んでいる精霊、妖精がラビア達を見ている。

「これでいいか。買って、また来るのも手間だし。整理もしないと」

 中にはいくつかのぬいぐるみ、お菓子の空袋。封の開けられていない菓子。思いついたことを適当にメモしているメモ帳、筆記具。青い鳥のぬいぐるみ以外は鞄の中。不細工ぶさいくなドラゴンのぬいぐるみを取り出しやすい位置に。どこでこんなもの買ったのだろう。鳥は覚えているが、ドラゴンは。

 青い鳥のぬいぐるみを持ち、泉の水面を見て、唱え始めた。



 突然、体を触る、かばんをひっくり返し。そうかと思えば泉に向かい、魔法だろうが、歌のようにも聞こえる。詰まる、つかえることもなく朗々ろうろうと。

 こういう姿を見ていると神秘的な魔女、に見えなくも、と黙ってラビアを見ていた。



「我の元に現出せよ、水の精霊、ウンディーネ」

 水柱が立つ。水柱はゆっくりと低く、落ち着いて、形をとっていく。水のドレスをまとった女性の形。

 ゆっくりと目が開く。澄んだ水面と同じ色。

「ウンディーネ、わかるか」

「……ええ」

「成功、か」

「いいえ、体がありません」

「つまり」

「精神、魂だけ」

「半分成功で半分失敗、か。あの男、何者だ。北の魔女にチクって、解剖してもらうか」

「お手数おかけしたようで。精神だけでも自由になれてよかったです」

 ウンディーネは小さく頭を下げ。

「で、どうする。ここにいるのなら、結界張って、近づけないようにしておくが」

「シルフとノームは」

「私の家」

「それならそちらが安全でしょう。わたしの力は半分になっています。結界を張り、彼らも共に護ってくれるとしても、彼らが傷つくのは」

 ウンディーネが見ているのは、こちらをうかがっている精霊達。

「私や、私の家はいいと」

「あなた、そう簡単に負けないでしょう。シルフ、ノーム、他の精霊もいます。彼ら全員で相手すれば」

「私の家を壊すな。壊したらお前らに修理させるからな」

「精霊を家の修理に使うとは」

 ウンディーネは小さく息を吐き。

「壊したのはお前らだ」

「まだ壊していません。それと体がありませんが」

 ラビアは手にある青い鳥のぬいぐるみを。

「嫌なら、これもある。こっちはサラマンダーにしようと」

 片方の手にかばんから取り出した不細工ぶさいくなドラゴンのぬいぐるみ。左右の目の大きさ、翼の大きさが違う。

 ウンディーネは青い鳥へ。

「仮の体、ですよね。本来の体、取り戻してくれますよね」

「自分で取り戻そうとは」

「今の体でできると。先ほども言いましたが、力は半減しています」

「取り返せと」

 ラビアは半眼で。

「協力してください」

 そう言うと、青い鳥のぬいぐるみへと吸い込まれるように。

「慣れるのに時間がかかりそうですが、これで目をあざむけるでしょう」

 ぬいぐるみからウンディーネの声。

「取り込んだ奴はお前を召喚したのか」

 自分の有利な場所に。

「いいえ。ここに来て、力を貸して欲しいと。もちろん、ただでは貸しません。代価はもらいます。そう話していれば、いきなり襲い掛かってきて」

「取り込まれた。来たのは男一人か。白髪で左右瞳の色が違う」

「黒いよろいの者もいました。最初は、その左右瞳の色が違う男が一人で。力を貸して欲しいと。男はあっさり倒れ、これほど弱いから力を借りに来たのか、よくここまで来れた、と気を抜いていた時に黒い鎧の者が現れ、背後から」

 不意打ち。

「応戦しようとすれば、今度は倒したはずの男が」

「北にチクろう」

 興味を持つはずだ。捜し、見つけてくれれば。

「わたしの体まで危ないのでは」

「あ~、魂がない、か。でも、あの女は不老不死求めているんだし、お前達、不老不死じゃないんだろ」

「それでも、です」

 青い鳥はくちばしでラビアの首をつつく。

「じゃ、次はサラマンダーのとこ行くか」

 白夜びゃくや白慈はくじを見た。

「魔族の頼み事と関係が」

 鋭い白慈。

「サラマンダーとウンディーネは自然四大精霊。自然、だ」

「取り込まれたままだと自然に影響が出る?」

「ああ。特にウンディーネは水。北竜王ほくりゅうおうでたとえればわかりやすいか。誰かが北竜王を捕らえ、雨を降らさない、逆にずっと降らせ続ければ」

「影響大、だね」

「だから二体を取り戻せと言ってきた。しかし居場所はわからない。それなら召喚しろと」

「召喚。確か、力を借りたい精霊を呼び出す。魔法陣を描いて」

「私の場合、呼べば風に乗り、もしくは風の精霊が風に声を乗せて、届けてくれる。それで来てくれていた。召喚をはぶく、端折はしょっていた。だが、今回は」

「呼んでも来ない。届いていない。はばまれている。だから正しい方法で?」

「そう。少しでも成功率を上げるため、棲み処で呼び出した。半分成功。精神、魂、中身はこちら。体は向こう。本来なら揃って現れる。まったく、何者だあの男」

 頭をかき。

「しかし、力は半減しています」

 右肩の青い鳥のぬいぐるみ、ウンディーネが。

「次へ行く」

 白夜びゃくや白慈はくじを掴む。

「今度は暑い」

「勝手について来たのは誰だ」

 ウンディーネの棲み処に竜を置いていくわけにもいかず。別の場所なら遠慮なく置いてきた。

 暑いのも当たり前。火山、火口近く。

 ウンディーネ同様、唱え始める。暑さのため汗がだらだら。早く終わらせたくて、早口になりかけ。集中するのも一苦労。

 なんとか呼び出したが、ウンディーネ同様、精神だけ。さらにウンディーネよりやかましくわめかれ、

「だったら、ここに封印していってやる。あいつらだろうが、誰だろうが呼び出せないように」

 こちらも暑さで気が短く。

 サラマンダーは渋々、不細工なドラゴンのぬいぐるみに。本体もトカゲなので、あまり変わらない。封印され自由を奪われるより、不自由な体の自由を選んだ。

「あいつらぁ、今度会ったら、ちりも残さず」

 力が半減しているのに、できるのか。

「で、お前はどんな不意打ちされた。ウンディーネ、ノームは不意打ちで取り込まれた。呼び出されたところを、か。それともここまで歩いてきた、か。歩きだったら根性あるな。暑い上に他の精霊もいる。炎の精霊は気性が荒い」

「歩きかどうかは知らんが、ここに来た。来て、ウンディーネの力を使った。だから驚いた。ウンディーネがおれを攻撃するなんて、気でも狂ったかと」

「四大精霊は仲良し?」

 白慈はくじが。

「いや。だが仲が悪い、ということもない。不可侵、というところか。精霊同士が喧嘩けんかすれば周りが。それがトップともなれば」

「竜と似たようなもの、か」

「精霊は人の都合など考えないから、な」

 人を巻き込もうと気にしない。ある意味、人を考えてくれる竜が良い方、か。

「これで魔王の頼まれ事は終わった」

「魔王に言われて動いたのですか」

 ウンディーネの冷たい声。

「言われなかったらどうする気だった!」

 サラマンダーは騒がしい。今まで自由に動けず、話せなかった反動だろう。

「向こうから来るまで、ほっといた」

 両方からつつかれた。

「では、戻るか」

 白慈はくじ白夜びゃくやを掴み、移動。

「あ、涼しい。学校? 君の家じゃなくて」

「なぜ、私の家」

「魔女の家に興味が」

「南の魔女の家に行っただろう。北の魔女の住み家の入口に置いてきてやろうか」

「それは、遠慮したい」

「お~い、戻ってきたぞ」

 誰かの声。ばたばたという足音。

「げっ」

 魔法協会の者が迫力ある顔で駆け寄って来る。

「今日は諦めたら」

 白慈はくじの楽しそうな声。協会の者に囲まれた。

 協会の者にすれば、当分依頼を受けない、というのを撤回てっかいして欲しいのだろう。半年受けずにいたこともある。覚えている者もいる。

 魔法協会も幻獣狩げんじゅうがりも利用したいだけ。ラビアではなく、東の魔女として見ている。

 白慈はくじ達を連れて家へ帰っていれば。道を作る下調べだったら。

 その日は協会の者に囲まれ夕食。ご機嫌取り。幻獣狩りからは離れた所から睨まれ。



 顔に何か当たり、それで目を覚ました。

 目に入ってきたのは白い毛。シーツは白。だがこんな毛玉は。

 毛玉は動いている。すうすうという音も。聞き覚え、見覚えがある。

 潰したくなった。

 ゆっくり起き上がると、白いネズミの他にも二つのぬいぐるみ。一つは青色の鳥。一つはドラゴン、か。竜とも呼ばれている、トカゲのような顔、コウモリのような翼。太い手足。なのだが、ぬいぐるみなので小さい。が足下に。

 学校には図書室といって本ばかりの部屋も。そこには、こちらの動物、精霊、妖精の絵が描かれた本もあり、あかね黒輝こくきは楽しそうに見ていた。白慈はくじ青蘭せいらんも興味ある本を手に取り、真紅しんくは興味がないらしく、どこかに、学校の外、が楽しいようだ。

 ネズミは大の字になって寝ている。

「ん、白夜びゃくや、起きたの? 早くない」

 白慈は眠そうに。離れた寝台から顔を上げ。

 カーテンの閉じられた窓。日が昇れば隙間から日が差し込んでくるが、今は差し込んでいない。

 ネズミの首根っこを掴み、持ち上げた。ネズミは寝ている。

「……連れて入った?」

「いない。今、気づいた」

白夜びゃくやに気づかれず侵入するとは」

 起き上がり、こちらを見ている。

「それも、彼女が持ち込んだ?」

 二つのぬいぐるみ。ウンディーネとサラマンダー。

「たぶん」

 ネズミを持ち替え、握り締めた。


「中身が出るかと思った。なんだ、あの起こしかたは」

 ネズミは白夜の右肩。地団駄じだんだ、ではないが、足をばたばた。

「勝手に入ってきたのが悪い」

 朝食にするため、用意されている場所に。

「この姿でなく、別の姿で寝ていればよかったのか」

 別の姿、本来の姿。

「すいません。狙われているとか。あの部屋が安全だと」

 白慈はくじの右肩にも青い鳥のぬいぐるみ。ウンディーネは申し訳なさそうに。

「こいつを狙っている命知らずがいるとは」

 白夜びゃくやの左肩にはドラゴンのぬいぐるみ、サラマンダー。こちらは笑っている。

 ウンディーネは礼儀正しい。挨拶、謝罪、礼をきちんと。それに比べ、このネズミは。

「また握り潰してやろうか」

 ネズミは小さな両手で白夜びゃくやの右頬を引っ張り、ウンディーネが止めていた。

 部屋には全員揃っており、白夜達が最後、皆、食べている。

 肩にいる、ネズミ、鳥、ドラゴンを見た真紅しんくは笑い、あかねは「かわいい」と黒輝こくきはじっと見て。

「精霊、だそうだよ」

 席に着くと、ネズミ、鳥、ドラゴンは肩から下り。

「精霊。これが精霊なのか」

 真紅しんくは笑いをおさめ。他の者も珍しそうに見ている。

「そういや、人の地には精霊の棲み処があると。全然見てないな」

「ね、ちょっと楽しみにしていたのに」

 真紅しんくに同意するあかね

「色々、いるみたいですね。本で見ました」

 黒輝こくきも。

幻獣狩げんじゅうがりがいるから、隠れている」

 ネズミが体より大きなパンを取りながら。

 しゃべった、と白夜びゃくや白慈はくじを除く全員が見ている。

「あいつらには倒した精霊のにおいが染み付いている。さらに倒した精霊、妖精の体の一部を使い、武器、防具、装飾品を造っている。そんな者がいるのに近づく馬鹿はいない」

「燃やしたい」

 ドラゴンは舌打ち。鳥も頷いている。

「お前らだって仲間を倒され、その一部を使われるのは嫌だろう。しかも、それでさらに仲間を傷つけられれば」

「嫌、というより、黙っていないよ。それで、精霊はここにはこない?」

 白慈はくじは笑顔だが、目は笑っていない。

「いる、が隠れているのだろう。あいつらは勝てるものを相手にしていた。強いものがくれば、あいつらは食われる、かもな。魔法使いは精霊から力を借りることもある。だが、あいつらは無理だ。誰もこたえない。協力しない。それに」

「それに?」

 ネズミはパンにかじりついている。

「いずれ使っている武器により、終わるでしょう」

 鳥が後を続ける。鳥とドラゴンは何も口にしていない。

「倒された、武器、防具にされても、憎しみ、恨みは消えません。あの武器を使い続ける限り、その武器により、いずれ命を落とすでしょう」

「……」

「自業自得だ。あいつらのせいで絶滅寸前に追い込まれた精霊もいる」

「だな。あいつら、とっとと終わってくれねぇかな」

 ドラゴンはネズミに同意。

 なんとなく気づいていたが、ラビアは幻獣狩りにいい感情はないようだ。

 教えても無駄むだ、なのだろう。武器、防具を奪おうと思われ。自業自得。

「精霊の力を借りるには代価が必要なの? そんなこと話していたけど」

「ああ。タダでは精霊も力を貸さない。代価は精霊により違う。精霊にれられたら、タダだが」

「精霊から助けを求められたら?」

 今の状況か。精霊はラビアに代価を払わないといけない?

「ん~、弱い精霊は強い精霊に助けを求めるからな。大抵の場合はそれで済んでいる。あまり人に助けを求めない。魔法協会に求めたら、何を言われるか。一生こき使われるかもしれない。ただ、たまたま助けた人を好きになる、というのもあるな」

「精霊と人の子のこと。ここにも何人かいるみたいだけど」

 白夜びゃくやも何人か見た。

「それは良い方だろう。散々、利用された、というのも聞く。精霊によっては、人を取り込む、というのも」

 ぱたぱたと駆けてくる足音。

 竜は揃っている。また何かあったのか。

「おはようございます」

 元気よく挨拶したのは西の魔女の孫。竜側は返したり、返さなかったり。

「姉さんは、こちらでは」

 孫は一人一人見て。

「何か用があったの」

「はい。もうすぐ休みに入るので、一緒に旅行しようと、申し込みました」

 置かれていたかたそうなパンが破裂。驚いている竜も。鳥、ドラゴンは驚いておらず、ネズミを見て。やったのはネズミか。そのネズミは動きを止め。

「それを伝えようと捜しているのですが。もし見つけたら、伝えておいてください」

「え~と、たぶん、伝わっていると」

 ネズミはテーブルを走り、跳ぶ。孫の顔、額に小さな両足を。跳び蹴り。

「ひゃっ」

 孫は小さな悲鳴。

 ネズミは空中で一回転。床に着いた時には元の、人の姿に。

「旅行に申し込んだ、だぁ。勝手に何をしている」

 不機嫌極まりない声。

「あれ、いたんですか。でも」

「姿を変えていた。うるさいのにつきまとわれているからな。で、なに勝手してやがる」

 ラビアは左手を孫の頭に。

「だって、だって、今年は補習がないんです。毎年毎年、学校に残って、勉強。今年はそれもなく。それで」

「別の誰かを誘えばいいだろう」

「皆さん、予定があるらしく、誰も」

「友達いないのか」

「います。姉さんと一緒にしないでください。それと、わたしも今年も補習だと。それがなかったので、て、痛いです。頭痛いですぅ」

「だからといって人の許可も得ず、勝手に。それに補習とはなんだ」

「テストで平均点を取れなかった者が休みの間、勉強することです。追試があって、それでもだめなら補習。補習に出れば、留年はまぬがれます」

 黒猫が冷静に説明。

「どんなテストだ」

 頭から手を離し。

「それより旅行、船ですよ、船。二十日間の船旅」

「いいから、見せろ」

「ふきゅう」

 孫は大人しく持っている本の中から何枚か紙を。ラビアは受け取り、見ている。

「あの~、これも」

 関係ないものだろう。差し出して。

「……なんだ、この調合」

「へ?」

「へ? じゃない。こんな調合したら死ぬぞ、天国送りにしたいのか!」

「姉さん、調合は」

「苦手なだけ、作らないだけ、こんな調合したらどうなるかくらいわかる!」

「料理もできないのに」

 白夜びゃくやはぼそっと。

「それに、こっち、これ、お前、自爆する気か。周り巻き込んで自爆か!」

「する気はないですけど」

「だったら、なぜこんな魔法になる!」

 物騒な言葉ばかり。

 ラビアは大きく息を吐き、

「二十日間の船旅だと言っていたな」

「はい。行ってくれます?」

 孫は沈んだ顔から笑顔に。

「ああ。二十日間、基礎を叩き込み直してやる」

「ええ~」

「よかったですね、リディス様」

 孫はうなだれ、黒猫は嬉しそうに。

「ねえねえ、その船旅って」

 あかねが声をかけ。

「これです」

 孫はうなだれながら茜に紙を渡す。

「お前、家に戻っているか」

 ラビアは腕を組み、半眼で。

「……」

「戻っていないんだな」

 孫はラビアと目を合わせず。

「はい」

 黒猫がはっきり。

「かわいがってくれる姉弟子、兄弟子はいますが、嫌味を言ってくる者もいるので。なにより、成績は中の下。西の魔女様も戻ってくるよりは、こちらで学べ、遊べと」

「……そうか」

「行きたい」

「は?」

「あたしもこの船旅に行きたい」

あかね、お前」

「いいじゃない。もう少しいても。二十日、なんでしょ。行きたい、行きたい、行きたい」

「ぼくも、行ってみたいです」

黒輝こくき様」

 お付きの黒林こくりんは驚き。

「行けるのなら、行こうかなぁ」

 白慈はくじまで。

「えっと、誘ってくれたかたに聞いてみますけど、行くのは何人です」

 すべての竜が手を上げ。

 白慈はくじが行くのなら、必然的に白夜びゃくやも。

「誘ってくれた?」

 ラビアはいぶかしそうに。

「はい。父親がこの船の持ち主、企画者、社長だそうです。お友達を誘って、是非と。旅行代金は無料でかまわないと」

「嫌な予感しかしないな」

「姉さん!」

「授業があるんだろ、行け」

「むうう。それでは、失礼します」

 孫は頭を下げ、部屋を出て行く。黒猫も後について。

 あかねは渡された紙を隣にいる黒輝こくきと見て「今日はここに行くための用意、買い物」と楽しそうに。

「まだ行けるとは限らないだろ」

 真紅しんくは呆れ。

 ラビアはテーブルに近づき、

「てい」

 ネズミの姿に。途中だった食事を再開。

「あの」

 遠慮がちに声をかけたのは黒輝こくき

「あなたは、あの子と仲が良いのですか」

「良くない」

 考えず、はっきり。

「おい」

「でも、あの子は」

「小さい頃から知っている。この数年は会っていなかったが」

「あの子は、魔女に」

「さあ」

「さあ? でも、西の魔女の孫なのでしょう」

「孫だから魔女になれるのではない。決めるのは現西の魔女。他の者がなるかもしれない。あの三人以外が選ばれるかもしれない。あんなのでなれるかわからないが」

「ならない場合も」

「ある、が魔法協会がほっておかない。あれの魔力はこの学校内では一番ある。弟子の中でも。魔力だけなら西の魔女に相応しい。が、知識が」

「知識がないとだめなのですか」

「先ほども言ったが、正しく使わないと周りを巻き込む、自爆」

「……」

「薬の調合、できるのか」

 白夜びゃくやは口を挟む。

「やろうと思えば。だがやれば劇薬になりかねない。見た目もまずそうで、とても薬とは」

「作ったのか」

「作った。失敗し、庭の隅に虫除けにとまけば、草が生えなくなった」

 どんな薬を作ろうとしていたのか。

「薬には魔力も込めるそうだ。込めすぎて」

 劇薬に。

「途中爆発も」

「作るな」

「暴走されたら困るから、魔法協会は手元に置いておきたいのと、利用したいから」

「暴走」

「感情に任せて暴れる奴がいる。お前達、竜はないのか?」

「なくは、ないかな」

 白慈はくじは苦笑。

「それならわかるだろう。暴走したら、そいつより上の者が出ないと止まらないのは」

「あの子が暴走することになれば」

「私が出ることになるだろうな。もしかしたら、体欲しさに北の魔女が動くかもしれない」

「それなら、あなたが暴走すれば」

「う~ん。誰だろうな。やはり北か。だが手加減なしなら」

「魔王じゃね」

「魔王では。もしくは妖精王」

 ドラゴンと鳥が揃って。

「うわぁ」と白慈はくじは小さく。

「まあ、私は魔女になるべく育てられたから。そのあたりは」

「魔女になるべく育てられた?」

「ああ。白慈はくじと同じ、か。白慈は生まれた時から王になると決められていたのだろう。それと同じ、私も物心つく前から魔女になるべく育てられた。それ以外道はなかった。だから心構えや、なんやかんや教え込まれている。だが、あれ、リディスは違う」

「魔女に、なるべく育てられていない、のですか」

「そうだ」

 ラビアは黒輝こくきを見る。

 黒輝も竜王の子だが、兄がいる。次は兄が継ぐ。

「西の魔女にすれば、広い世界を見聞きして、同年代の友人作って遊べ、楽しめ、という親心だったのかもしれないな。娘で失敗したから」

 最後は小さく。

「私は同年代の者と遊び、語り合った記憶はない。ただ、魔女になるべく育てられ、教えられただけ」

 白慈はくじと似ていて違う。白慈には友人がいて、子供らしく遊んでいた、話していた。竜王になるべく教えられてもいた。

「ま、あの三人みたいに、何がなんでも魔女になってやるっていうのも」

 小さな肩を小さくすくめ。

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