第16話

「楽しそうだな」

 遅めの昼食にしていると、不機嫌な声。場所は学校の食堂。いるのは白夜びゃくや白慈はくじ。生徒もまばらに昼食をとっている。他の面々は学校の外、学校内を見ている。学校内では案内はつかなくなり、外はついている。

 声の主は白夜達の対面に座る。

「そっちは大変そうだな」

 不機嫌顔のラビア。

「ああ。この二日間つきっきりでこれ以上ないくらいわかりやすく説明してやっているのに、上手く使いこなしていない。南もそろそろ限界。詳しいのはあいつ。だが明日にも帰ると言い出しそうだ。私も帰りたい。関係のない話まで。もっと集中しろ」

 囲まれ、何かやっている姿は見た。学校の者も、東の魔女が来ている、と話しており。

幻獣狩げんじゅうがりの者にもつきまとわれて。それがかなり、鬱陶うっとうしい」

 かなりを強調。

「つきまとわれている?」

 ラビアは顔をしかめ。

「力を貸してくれ、仲間にならないかと、勧誘がしつこい。魔法協会の者も阻止しようと。あと、一緒にお茶でも、と言う奴も」

 東の魔女を取られては、と牽制けんせい、か。当分、依頼は受けないと話していた。そのことで、だろう。お茶は個人の感情。容姿だけ見れば。

 クファールが魔法協会の者に叱責しっせきされている姿も見てしまった。

「お前は、誰かを頼ることはあるのか」

 クファールは睨みながらもラビアを頼っている。他の者も、だろう。最終的には東の魔女がなんとかしてくれると。

 それなら、ラビアは。

「ん~、魔法に関しては南の魔女を頼ることがある。本人は使えないが、色々知っている。魔法に関しては。ただ、夢中になる、集中していれば、それが終わるまで相手にされない。だから気を引くものを持っていく。そして聞き出す。今回は退屈していたのと、ノームを連れて行ったからな。そのノームが今回、共同で動く原因に気づいた。いなければどうなっていたか」

 そういえばクファールが叱責されていた時、ラビアのおかげで多くの人が助かったと。

「お前はできたのか。いや、お前だけを責められない。我々もあの件は終わったこととしていた。だが東と南の魔女は終わっていないと考え、研究し続け。今回、助かった。ノーム様に教えてもらったらしいが、気づけたのは、早い段階で手を打て、助かったのは東と南の魔女のおかげ」

 クファールはどこか納得できない、といった顔で聞いていた。

「南の魔女も新しい魔法を考えている。本人が扱えない魔法は私が扱い、実験。持ちつ持たれつ、か。生活面では使用人に頼りっぱなし。食事、掃除、洗濯、その他」

「ああ」

 納得。髪は結んでおらず、そのまま。くせがつかないのか、はねていない。

「私としても、あと二、三日でなんとかできなければ、もう知らん。帰る。南は二日が限界」

「その南の魔女は」

「教えている。食事は食べさせてもらって。自由に動くことができないからな。魔法は使えるから動こうと思えば動けるが、人の目が多い中、生首が宙を飛んでいるのは」

 知らない者が見れば。

「魔法協会の者は知識が必要だから、手は出さないが、幻獣狩げんじゅうがりが手を出しそうで。あっちも警備はがちがち」

 白夜びゃくや達より大変そうだ。いまだ遠くから監視されている。魔法協会、学長は幻獣狩りの者達を追い出そうとしているが。白夜達、竜に魔女まで来ては、と言い訳され、居座っているそうだ。

「失礼。隣いいですか」

「自分も」

 男が二人。ラビアの隣に。

 一人は幻獣狩り。二十代前半、顔に剣の形をしたずみが。もう一人は二十代半ばの男。

 ラビアは顔をしかめ。

「席なら他にもいているだろう」

 周りを指して。混雑する時間は過ぎている。混雑時は座る場所を探して歩き回らないといけないほど。

「魔女殿と話す機会などないので。協会にあまり顔を出さないでしょう」

「西の魔女候補が揃っている。そっちに行けばいいだろう」

 西の魔女候補の三人はしつこく白夜びゃくや達に話しかけてきていた。白慈はくじ真紅しんく黒輝こくきは無視。青蘭せいらんは話しを聞いて。

「魔法協会をめるのでしょう。それなら、ぜひ我々の力に。我々は歓迎します」

「勝手なことは言わないでもらおうか。今回は色々疲れたでしょう。その分、休むのでしょう」

 ラビアをはさみ、二人は睨み合っている。

「ごちそうさま」

 ラビアは一気に食べ、立ち上がる。

「それじゃあ、僕達も行こうか」

 食事は終わっている。話しに付き合っていたようなもの。この場にいるのは。

 幻獣狩りの男は「あっ」と言い、ラビアの後ろ姿を見ていた。見ているのは彼だけでなく他の者も。

 不機嫌にもなる。

「彼女、人気だねぇ」

「そうだな」

 あの幻獣狩りの男は勧誘ではなく個人的な感情、だろう。もう一人も。向けられている本人はわかっているのか。

 歩いていると気軽に話しかけてくる者も。白慈はくじ白夜びゃくやも笑顔で対応。これ以上濡   ぬぎぬをきせられたくない。青蘭せいらん黒輝こくきはぎこちない表情で。そのおかげか、生徒も気安く。「竜のかたって気安いんですね。もっと近寄りがたいと思っていました」と笑顔で話して。不躾ぶしつけな質問をしてくることも。

 黒輝こくきは人気らしく、見た目、年の近い子に色々もらったり、食事に誘われたり。白夜びゃくや達の中でも一番若い。

 ラビアから「食べ物は気をつけろ。ここは魔法学校。魔法、薬が入れられているかも、な」と助言? され。


 覚えた道を話しながら、休みながら歩いていた。

 あと一時間ほどで夕食。早く食べる、遅く、揃って。今日はどうするのか。風呂は共同の大きな風呂。最初はここの者と時間をずらしていたが、今はいつ入ろうと自由。

「おや?」

 白慈はくじがどこかを見る。

 白夜びゃくやも見ると、人だかり。青蘭せいらん黒輝こくき達もいる。真紅しんくあかねは外、か。茜の買い物に付き合わされて。

「行く、のか」

 どう見てもいい雰囲気とは。

 西の魔女候補三人と西の魔女の孫、クファールと弟子の女性、フィリ、だったか。幻獣狩げんじゅうがりまでいる。ラビアと南の魔女も。

「何かあったのか」

 人をかきけ、ラビアの傍に。近くには南の魔女。椅子に柔らかそうな座布団。背もたれにも。その座布団の上に南の魔女はいる。

 クファール、フィリ、黒輝こくきは孫をかばうように立ち、三人はその前に腕を組んで立っている。その間に昼に見た男が入り、なだめている、のか。

「あの三人が騒いでいる。やかましい、鬱陶うっとうしい、全部ぶっとばしたい」

「やめろ」

 やりかねないラビアの雰囲気。苛立いらだっているのがはっきりわかる。

 大きく息を吐き。

「あの三人も私と南が作った魔法に挑戦していた。その魔法は何人かで組んでおこなう。だが、上手く発動せず、最初はお前が間違った、遅れたと言い合い、責任のなすりつけあい。人を変えてやっていたが、それでも上手くいかず。息の合う者でやり、やっと成功。あの三人はそれが気に入らず。魔法自体に文句は言わなかった。言ったら格の違いを見せつけてやった。かえるに姿を変えてやったのに」

 小さく舌打ち。

めにめ、リディスを呼んで来いと言い出した。呼んで、やってみろと」

「誰かと組んでやったのか」

 この場にいるということは。

「クファールと弟子が一緒に来たから、一緒にやったがタイミングが合わず。そのげ足を取り、あの三人が」

 ラビアは再び大きく息を吐き、舌打ち。

「リディス! 一人でやれ!」

「ええ!」

「いいからやれ、南の言葉を繰り返すだけ。お前の魔力は多い。やれる」

「でも」

 孫は情けない顔で。

「いいからやれ。これ以上ごちゃごちゃ言うのなら、ストレス解消にここにいる奴らぶっとばして、南と一緒に帰る」

 これには顔色を変える者が何人か。

 ラビアも限界なのだろう。

「実践だ」

 何か唱える。ぞっとした感覚。あれはよくないものだと。地面に現れた小さな模様を見た。

 先ほどとは違う意味で顔色を変えている者が。

「東の魔女様、これは」

 魔法協会の者か。声が震えて。

「これは教えない。悪用されては。改良するなら教えた、解く方を改良しろ。あれは私の魔法、広がりはしない」

 ラビアは孫を見て。

「やれ、南の言葉だけに集中しろ。気になるなら目を閉じろ。お前の魔力はその三人より多い」

 候補の三人を。三人は「はあ! 」「できるわけない」「東の魔女とはいえ失礼な」とそれぞれ似たような反応。

「あまりにうるさいなら、蛙に変える。それとも地面でなく、あの三人の誰かに、これを」

 ぴたりと口を閉ざす。三人だけでなく全員。

 孫は不安そうな顔をしながらも、地面に現れた複雑な模様を見る。目を閉じ、深呼吸。南の魔女が一言、一言はっきりと伝える。孫は繰り返し。

 模様周辺は青白く光り。

「何人かで組んでやるんだが、魔力が多く、仕掛けられた魔法が小さければ一人でもできる」

「お前でも」

「当たり前」

 なんでもない、当然のように。

 模様全体が一際ひときわ青白く輝く。

 輝きが収まり、その場所を見ると、地面には何もない。いや、焦げたような跡が。

「リディス様!」

 フィリは孫に飛びつき。

「成功、だな。余分に魔力を使い、仕掛けられた魔法より広く浄化しているが、一人ででき、倒れてもいない」

 ラビアは地面を見て。

 フィリは三人を見て「どうだ」と。クファールはほっとしている? 三人は顔を歪め、ぶつぶつ何か呟いて。ラビアは難しい顔をして孫を見ている。

「南、お前にあれは見えているか」

「私は、君ほど目は良くない。彼女に何かいているのか」

「お前は」

 白夜びゃくやを見上げ。

 孫はフィリと喜び合っている。

「前より減っている。顔が、姿が見える」

「そう、か」

 ラビアは再び孫へと視線を。

「あれには、あの姉弟子、兄弟子、おそらくこの学校の者、だろう。呪いをかけられている」

 南の魔女は息を吐き。

「それが以前より減っている。本人が返したのではない。浄化も。誰かがやったとは考えにくい。返したのなら、あの三人も態度が違う、警戒するはず。見えていない者が多いから、誰も気づかない」

「君の考えは」

「食った。もしくは争った。壷毒のように」

「こどく?」

「壷毒というのは一つの壷や入れ物に色々な虫を入れて争わすんだ。そして勝ったものが最も強いものとなる。もの、というより呪い、かな?」

 白慈はくじが説明。

「私の考えはそれ。お前なら別の考え、何か知っているんじゃないか」

「……寄生」

「寄生?」

「魔法使いの体に張り付いて少しずつ魔力を吸い取っていく。少しずつ、だ。命に別状はない。そして大きくなる。大きくなれば、今度はその魔力を魔法使いに返し、それも魔法使いと一体化。その魔法使いを操れる、意思を奪う、というのがあったような」

「だが、それでは」

「彼女は護られているのだろう。西の魔女か君が護りをほどこした。だから寄生できない。それなら他の、取りいているものの力を吸収して」

「護りが破れれば襲う。もしくは寄生、か。吸収したものと一緒に。一つ、巧妙こうみょうなのが」

 ラビアは目を細め、孫を見ている。

「人は怖い、ですね」

 背後から声。気配もなく。驚き、振り返った。

「それに竜までいるとは」

「お前がいる、ということは」

 ラビアは難しい顔のまま。

 濃い紫の瞳、短い黒髪、黒スーツの若い男。

「こちらで何かあったでしょう。まだ影響はでていません。ですが、このままほっておくと」

「出る、かどこに行けと」

「場所ではありません。あのかたの話しだと、自然、だそうですよ」

「しぜん? 随分ずいぶん大きいな。そんなの、どうやっ……」

 ラビアは言葉を切り。

「私も聞きたいことがある」

「思い当たることがあるんですね」

「見ろ、それが早い」

 ラビアは額を指す。

「では、失礼して」

 男はラビアに近づき、額を合わせた。

「なっ! 」という声。見ると幻獣狩りの一人が声を上げ、目を見開き、ラビアを見ている。

「彼女がここまでの接近を許すとは」

 南の魔女は、驚いてはいないが。

「見ろ、と言って、二人とも目は閉じているけど」

 白慈はくじは南の魔女を見て。右肘は白夜びゃくやをつついている。気にならないか、ということだろう。

「記憶を見せているんだ。言葉にすると難しい部分も。だが、その光景を見せれば」

 早く済む。便利といえば便利だが、誤解を生みそうな。

「接近を許す、と言っていたけど、普段は」

「彼女の容姿を見ればわかるのでは。立っているだけなら、遠くから見るにはいいが、口を開けば。あまりにしつこければ、魔法で」

「納得」

 白夜びゃくやはぼそっと。

「魔女だということもある。利用してやろうという者はいくらでも。私はこんなのだからね。北の魔女は誰だろうと相手にしない。知らない者が多い。近づいたら最後、実験台。西の魔女は若い頃美人だったと。あの子が継ぐのなら、嫌でもむらがってくる。魔女になるのなら、警戒心を持つ、裏の裏まで読まないと」

「ふむ、なかなかの出来事ですね」

 額を離し。

「金色の竜に心当たりは」

「ありません。そんなのがいたんですね。早速報告しましょう」

「男は」

「造られたのでは。北の魔女の技術を使って。人、精霊、竜、魔族も組み合わせて。失敗もあったでしょう。そして成功。外見は大人でも中身は子供。できて間もないのでは」

「そう、なるのか?」

「魔族でもあれほどの回復力は。下位ではなく上位魔族を捕らえて実験した? 少し調べてみるか」

 男は顎に手をあて。

「では、その二体をよろしくお願いします」

 声を明るいものに変え。

「待て、呼んでもこたえない。どうやって」

「他の者はどうやって呼び出しています」

 呆れたように。

貴女あなた色々端折    はしょっているでしょう」

「準備、めんどい」

「面倒でもやりなさい。でないと、次はあのかたが来ますよ」

「……半分でもいい?」

「半分?」

「体だけ、精神だけ」

「……時間稼ぎくらいは。根本的な解決には」

「どこにいるかわからない」

「捜せ。では」

 丁寧なのか、辛辣しんらつなのか。男の姿が消える。

 ラビアは息を吐き出し。

「よかったな南。滅多めったに会えないものに会えた」

「彼のことか」

「あれは魔族。魔王の右腕。魔王の次に強い」

「……」

 白慈はくじそろい、言葉もない。

「へえ、彼が。って、あれ、彼どんな顔していた。記憶力には自信があるんだが」

 白夜びゃくやも思い返そうとするが、話の内容は覚えている。だが声、容姿は。

「記憶に残らないようにしているそうだ。偵察に来て、覚えられれば」

「なるほど、でも君は」

「こちらでの数少ない協力者。忘れたら意味はない」

「魔族に協力しているのか」

 驚いたように口を挟む。

「この世界がどういう仕組みか知っているか」

「空に竜、地に人と精霊、妖精。地の底に魔族」

 白慈はくじが答える。

「魔族の棲み処が人の地の影響を受けるのは」

「影響を受ける?」

「例えば、この地に毒を一滴、落とす」

 南の魔女が続きを。

「人の地に影響は出るが、染み込んでいき、いずれ魔族の地にもなんらかの影響を及ぼす。逆に魔族の地で何かあっても遅れて人の地に」

「竜の地に人の地から毒を届けようとしても届かない。投げても届かないからな」

「魔法を使えば届くのでは」

「届くかぁ?」

 ラビアは腕を組んで空を見上げる。白夜びゃくやも。

「人が竜の地まで行き、直接届ければ」

 それなら確かに届くだろう。

「竜が空から毒を落として、それが魔族の地まで届いたのなら、竜のせいだと言って」

「やらない、やらない」

 白慈はくじは手を振り。

「その前に人の地に影響が出ている」

 南の魔女は小さく息を吐き。

「そういうことだ。昔から協力者がいたらしい。いない場合はさっきの奴が隠密行動。とはいえ、人の地の問題。最低限のことしかしない。自分達の棲み処さえ護れれば」

「今は」

 ラビアを見た。

「こき使われている。協会より優先しないと。しかもタダ働き」

 がっくりと肩を落とし。

「当分受けないのだろう。それに魔王の右腕が出てくるほど。優先するのは当たり前」

「だよね~。やらなかったら怖い。地獄耳だし」

 近くで小さな爆発音。皆、何事かと。

「地獄耳」

 ラビアはぼそっと。

 つまり、今の会話は魔王に聞こえて。……。

「さて、成功したようだから、私は帰る」

 その言葉を聞いた魔法協会の者は南の魔女の傍に。

「もう少し、あと一日」と引き留めて。

「帰るよ。これ以上教えることはない。これ以上いて、西の魔女に推薦してくれと言われても、私にはできない」

「南に同じ~」

 ラビアは軽く。

 この二人にもあの三人は頼みに行ったのか。魔法協会、幻獣狩り、魔女候補につきまとわれては機嫌が悪くなるのも。今までよく破壊されずに。

「帰る。送ってくれ」

 南の魔女はラビアを見上げた。

「わかった。今回は付き合ってくれて助かった。いなかったらどうなっていたか」

「君が再び悪者になっていただけ。まったく、時間はあったのに、協会は何をしていたのか」

 協会の者は言葉も出ないらしい。

「東の魔女様、お願いします。あなたからも」

 協会の者は頭を下げ。

「ええ~、私も帰りたい~。やることはやったし」

 子供のように。

 南の魔女を送り届けるのはラビア。そのラビアを説得すれば。そしてラビアにも残ってもらい。

「そう言わず、お願いします」

 昼に見た男が笑顔で。

「わたしはあなたともっとお話しを」

「私はない」

 ラビアはばっさり。

「南と話していた方が余程いい」

 さらに。男の眉がぴくりと動く。言われたことがないのだろう。容姿は良い。

「教えるのがお上手ですね。他の魔法も」

「どこが。そして、少しは自分達で考えろ、頭を使え」

「東の魔女殿!」

 幻獣狩げんじゅうがりの男まで。

「先ほどの男は」

「先ほど?」

「ひ、額を合わせていたでしょう。どういう関係で」

「どういう関係だろうと、関係ないだろ。私はお前達に手を貸す気も、仲間になる気もない」

 これまたばっさり。

 では、なぜ白夜びゃくや達には手を貸してくれるのか。

「南の魔女殿、貴公きこうは。我々に協力していただけないだろうか」

 別の、ラビアに話しかけてきた男より十は上の男が。言い方は丁寧だが高圧的に。

「断る。私も誰かに協力する気はない。力ずくと言うのなら、彼女から奪えばいい。できないだろうが」

 南の魔女は馬鹿にした目。それまでは理知的な光りの穏やかな目だった。挑発するようにも見え。

「つまり、東の魔女から奪えば」

「隊長」

 若い男は困惑したように。

 この場にいる幻獣狩りがラビアを囲む。ラビアは息を吐き。

「全員潰すか。鬱陶うっとうしかったし」

「僕達、何もしていないけど」

 言いつつ、避難している。クファールは孫とフィリを引っ張り。黒輝こくき青蘭せいらんも空気を読み、遠ざかる。わかる者はこの場から離れ。

「それなら同士討ち。好きに争え」

「え? 」「なにを」「おい」

 幻獣狩りの者達は手にある武器を仲間に向け。

「帰るか」

「頼む」

 ラビアと南の魔女は気にせず。

 白慈はくじ白夜びゃくやの腕を掴む。何を、と聞く前に、視界がゆがむ。次に見えたのは、本の山。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る