第15話

 学校の敷地は広く、一日で回れなくはないが、時間をかけ。じっくり見ていれば怪しまれる。幻獣狩げんじゅうがり、という者が離れているがついてきて。

 日中散々歩かせ、夜中に動くか、とも話していたが、幻獣狩りが何人いるかはっきりわからない。交代で見張られていれば。

 次期東竜王  とうりゅうおう青蘭せいらんはクファールに話しを聞いていたが、クファール達教えている者も混乱している、原因を探していると。

 四日経ったが、進展せず。結界は張られたまま。すべて見回ったわけではないが、怪しい、嫌な感じがする場所はなく。クファール達も道具のせんを考え、あちこち、白夜びゃくや達に入らせなかった場所まで調べていると。

 結界を攻撃したことも。竜の姿でなく人の姿。手加減して。白慈はくじ真紅しんく青蘭せいらん黒輝こくき。次期竜王に竜王の血族が攻撃したが、穴すら開かず。真紅などは「東の魔女に連絡取れないのか」と苛立って。

 ラビアから連絡はなく。一刻を争う、という件にかかりきりなのか。上手くいっていればいいが。

 六日経っても何も変わらず。竜がやっているのでは、とささやく者も。学長、教えている者は否定しているようだが、疑いの目で見てくる者も。

 ユーリエは「魔法協会も事態に気づいています。外からもどうにかしようと」と申し訳なさそうに。

 これでは子供達をここに預けるのは。


 部屋の中でじっとしているのは、と外に出て歩いていた。

「そういや、西の魔女の孫もいるんだよな。そいつはなんとかできないのか」

「それは東竜王とうりゅうおうのところの二人に聞いて。親しいのは東竜王。でも、西の魔女候補もいて、なんの進展もないんじゃ」

 あの三人も何もできていない。

 歩いているのは真紅しんくあかね白慈はくじ白夜びゃくや黒輝こくき黒林こくりん青蘭せいらん達はクファールと話している。

 サイル、ユーリエ、クファールは結界が張られてから、そちらにかかりきりでこちらには顔を見せなくなった。

 歩いていると、行く先に少女が一人立っている。白夜びゃくや達を睨むように。

 め事は起こすな、と忠告されている。

あかね、誰か呼んで来い。ここは人目が少ない。お前が本気で走ればついて来ている奴も、隠れている奴らも追いつけない」

 真紅しんくの言葉通り。姿は見えないが気配が。穏やかでない気配。

 茜は真紅に頷き。

「あ、ごめ~ん、忘れ物したから取りに行くね」

「気ぃつけて行け」

 茜は来た道を全速で。

「で、僕達はどうするの。まっすぐしか進めないけど」

 建物の入口はない。脇道も。前にしか進めない。あかねのように戻ることもできるが。

「進む。睨むだけで終わりか、何か言ってくるか」

「手は出さないでよ。出したら」

「攻撃の理由を与える、だろ」

 速度を速めず、ゆるめず歩いて行く、近づいて行く。

 少女は睨み続け、近くまで。

「竜」

 少女が呟く。

「何か用か」

 立ち止まり、真紅しんくが返す。少女の背後、白夜びゃくや達の背後から幻獣狩げんじゅうがりの者達が。

 少女の後ろに三人。白夜達の後ろに五人。

 黒輝こくきおびえ、黒林こくりんが傍に。

「用がなければ進みたいんだが。それとも、お前がそいつらのあるじか」

 真紅しんくが見たのは幻獣狩り。

「覚えて、ないのね」

 少女は口を歪めて笑う。

「覚えていない?」

「あたしの村を滅ぼしておいて、覚えていないのね」

「滅ぼした?」

 真紅しんくだけでなく全員困惑している。

「それとも、滅ぼしすぎて覚えていない?」

「何を、言っている」

「あ、あの、何かの間違いでは」

 黒輝こくきは声を上げ。

「間違い? あたしは覚えている。黒いうろこの奴が村を襲ったのを!」

 黒い鱗。黒は北竜王ほくりゅうおうの所の竜。しかし誰も黒輝こくきを見ない。黒輝は「え」と。

「で、敵討かたきうちがしたいと」

「そうよ! あたしだけの力じゃ無理だから、彼らに頼んだ」

真紅しんくくん!」

 あかねの声。

「何をしている!」

 クファールの怒鳴り声。クファールだけでなく、サイル、ユーリエ、学長、青蘭せいらん達もけて来る。クファール達は息を切らして。

「敵討ち、だとよ」

 真紅しんくは軽く。

「どういうことです」

 学長は息を整え、少女と幻獣狩りを見た。

「そいつら竜があたしの村を滅ぼした」

「だから、かたきを」

 ユーリエも息を整え、少女を見る。

「討ってどうするのです。彼らに勝てると。勝ったとしても仲間が黙っていると」

 学長の言葉に少女はひるみ。

「そして、あなた達も。私達、魔法学校はあなた達を招いていません。勝手なことはしないでもらおう」

「魔法協会も同じです」

 学長、ユーリエが幻獣狩りを睨む。

「彼女が手を貸して欲しいと言った。それに竜を恨んでいるのはこの娘だけではない」

 学長、ユーリエ、サイル、クファールが白夜びゃくや達をかばうように囲む。

「びゃ、白夜くん!」

 あかねの悲鳴。茜を見ると、

「う、うしろ、それ」

 指しているのは地面。他の者も見て、ぎょっとしている。

 白夜びゃくやも見ると、影から右手、ひじから上が出ている。手はわきわきと動き。

「なっ」

 腕はさらに出る。肩、顔がゆっくり現れる。

「東の、魔女」

 クファールの驚いた声。

「ん? お、成功だな。入れた」

 ラビアは「よ」と右手を上げ。

 上半身すべてが現れ、白慈はくじが手を差し出すと、その手を取り、立ち上がるように、残りの下半身も。

「どうだ、進展したか。けたか」

「見ての通り」

 白慈はくじが周りを見て、ラビアも見る。

「う~ん、来るタイミング間違えたか」

「おい、どうなっている」

 くぐもった男の声。

「ああ、すまない」

 ラビアは肩からげていたかばんに手を。取り出したのは男の生首。全員驚き、固まっている。

「上手くいった。魔法学校だ。お前は初めてか。私は初めてだ。そして、これが竜。瞳が金だろ」

 生首を白夜びゃくや達に。

「人の姿をとる、とは聞いていたが」

「はな、した」

 あかね真紅しんくにとびつき。

「ま、さか、南の魔女」

 学長は目を見開き。

 そういえば、ラビアも南の魔女は男で、首から上だけだと。それでも。

「……」

「こうやっているとデュラハンみたいだな」

「自分の頭はあるだろう」

「ああ。しっかりついている。で、どうなっている。こうして雁首がんくびそろえているってことは、何かあったんだろ」

「その前に、なぜ、お前がここに」

 クファールは睨むように。

「南と共同作業していた。協会にも手伝ってもらって。そうしていれば、魔法学校が結界により閉じられた、と。作業が終わったから、帰ってもよかったんだが、行ってくれと頼まれ、渋々、仕方なく。入れなかったら大人しく帰ろうと考えていた」

「帰るな」

 白夜びゃくやはぼそっと。連絡してきておいて。

「彼女の村が竜に襲われた。その敵討かたきうち、だそうだ」

 クファールの視線を追い、ラビアも白夜びゃくやの背後から少女を見た。

「ふうん。で、その子がこの結界もやっているのか」

 少女から空へと視線を移す。

 それには誰も答えず。幻獣狩りを除く全員が少女を見た。

「そう、よ。やっと会えた。ここで逃すわけにはいかない!」

「ん~、でもこれだけの結界となると」

 ラビアは空を見続けている。

「これのおかげよ」

 少女は左手をあげる。人差し指には指輪が。

「この指輪は魔力増幅してくれる。だから」

「おい、南。あれ、わかるか」

「さあ、私は道具に詳しくない。魔法ならわかるが」

 ラビアは息を吐き、

「それ、どうした。どこからか盗んだか」

「っ、失礼なこと言わないで! 村に代々伝わる宝よ!」

「そんなもん伝えるな。とっとと捨てろ」

 頭を乱暴にかいている。

「敵討ちしたいのか」

 ラビアは白夜びゃくやの背後から出て、少女をまっすぐ見た。

「ええ」

 少女ははっきり。ラビアから目をらさず。

「そうか。お前達、二日逃げろ」

「は?」

「二日すればこの結界は解ける。早ければ一日、か。その間逃げ回れ。あいつらに邪魔されるかもしれないが、人目のある所で斬りかかられろ。抵抗せず、逃げれば、ここの生徒が何もしていない無抵抗な竜を襲っていたと証言してくれる。人目があればあるほど、口止めは難しい」

「一日、二日で解ける?」

 白慈はくじはラビアを見て。

「ああ、あれは魔力増幅じゃない。この結界はあの子が張り続けている。魔力と、足りない分は寿命、命を使って」

「っ」

 学長達も驚き。

「う、そよ。嘘! そんなこと言って、これを取り上げるつもりでしょ!」

 少女は指輪をはめている手を握り、胸に。

「いるか、そんなもの」

 ラビアは辛辣しんらつに。

「君がそう言うってことは、あれは」

 あれは? 南の魔女にはわかったのか。

「そういうわけだ。二日、もしくは一日逃げ回れ。お前ら竜なら一日動き続けても平気だろう」

 ラビアは平然と。

「平気、だけど、あの子は」

 白慈はくじが見たのは少女。

「結界が解けた時が命尽きる時」

「おい!」

 クファールは怒鳴り。

「うるさい。やると決め、実行したのはあの子だ。たとえだまされていても」

 クファールは睨み、ラビアは呆れたように息を吐き。

「助けろと言うのか。結局、私を頼るんだな。良く思っていないのに」

「頼ってなど」

「それならお前が助けてやればいいだろう。私はあの子になんの思い入れもない。初対面」

「……」

「それとも、あの子に私の命をあげて助けろと。命の代償は命」

「何を言って」

 白夜びゃくやはラビアの肩を掴む。

「私は反対だ。そう言うのなら、やらないだろうが、たとえ竜と人の争いになろうと。君に逃げろと、とっとと去れ、と言う」

 南の魔女の強い口調。姿が姿だけに、少女、幻獣狩りもひるむ。

「ま、人と竜の争いになったら、私も引きこもる。どちらにつく気もない」

「北も、だろう。西は」

「嫌でも引っ張り出される。一端いったんはそこにいるからな」

 クファールは西の魔女の弟子。原因が彼にあろうとなかろうと。

「お前達はそうやって」

 クファールは怒りをにじませ。

「東も言ったが、なぜ自分達で対処しない。それともしようとしていた? それならすればいい」

「勘違いしているんだろう」

「勘違い?」

「魔女は万能。なんでもできる」

「馬鹿か。そんなわけないだろう。魔女とはいえ人間。できることは限られている」

 南の魔女はほとほと呆れた、といわんばかりに。

「あと、あいつは私が気に入らない。例の、村を焼き払ったことが」

「それこそ馬鹿か、大馬鹿か。あれは魔法協会が許可した。許可しなければ君はしなかった。どんどん広がり、今どうなっていたか。恨むのなら魔法協会だろう。それとも、君はなんとかできたと」

 ラビアが持っている南の魔女が見ているのはクファール。

「なんとかできたのなら言えばよかった。大きな声で。できる、と」

 クファールは唇をみ。

「もしくは西の魔女に言えばよかった。い魔女、なのだろう。西の魔女でもあれは手に負えなかっただろうが」

「言うわけない。あれは西の魔女の弟子。師が失敗すればどう言われるかわかっている。いるから何も言わず」

「批判も、憎しみも君に向けた、か。ある意味賢い、楽なやり方だ」

「何もしなくても同じだっただろうさ」

 批判されるのは。ラビアに弟子はいない。家も辿り着けないようにしているのだろう。

「だが、私にも責任はある、か」

「何を言っている。君は」

 南の魔女の声には苛立ちが。

「いやいや。なんでもかんでも引き受けた私も悪かった。これでは次が育たないも同然」

 ラビアは意地の悪い笑み。南の魔女は口を閉ざし、ユーリエは顔色を変え、クファールも「まさか」と。

「当分、魔法協会からの依頼は受けない」

「魔女様!」

 ユーリエは悲鳴をあげ、南の魔女は笑っている。

「甘やかした私が悪かった」

 ラビアは、うんうんと頷き。

「どこが甘やかしている! お前は魔法協会からの依頼を受けたり、受けなかったり」

 クファールは叫び。

「お願いです、魔女様。考え直しを」

「い、や」

 ラビアは笑顔で。

「う~ん。なんかすごいことになった、の?」

 白慈はくじはぼそっと。

「日数増やしていいかな」

「間をけろ。このままだと、こちらも巻き添え。今は下手なことを言うな」

 巻き添え。こちらもやめる、と言われても。

「わかったよ」

「で、こっちの話になったが、お前はどうする。敵討ちしたいのか。せっかく生き残ったのに。無駄に命を使うのか。もっと有意義に生きる方法もあっただろう」

 ラビアは少女を見て。

「うるさい! 魔女だっていうのなら、そいつら倒してよ」

「断る。私は竜を敵に回したくない。お前と違って」

 仲間に何かあれば黙っていない。特に、この場には竜王の血を引く者がいる。

「倒せないだろうが、もし、倒したとしても、竜が大人しくしていると。お前の村と同じこと、さらに多くの者が犠牲になるぞ」

「っう~」

 少女は唸り。と思えば「え? 」と不思議そうに呟き、ゆっくり地面へと倒れる。

 クファール、サイルが少女の元へ。先に背後の幻獣狩りの一人が倒れた少女の傍に。

事切こときれている」

「確かめさせてもらう」

 クファールが少女の手首、首筋に手をあて。

「結界、解けたな」

 ラビアは晴れた空を見上げ、平然と。


 結界は解けたが、後味がよいとは。部屋は重い空気。

「なんで、東の魔女がいる」

 真紅しんくは苦々しげに。

「南の魔女もいる。魔法協会から言われて来たと話したが」

「この部屋に、だ」

 いるのは竜とラビア、南の魔女。

「あのままだと学校関係者、魔法協会の者にうるさく言われる。結界が解けたのなら、外で待機している協会の者も入って来る。それらも加われば。ここには竜ばかり。少々うるさく言うだろうが、あっちより」

 つまり、竜と魔法協会の者達を天秤てんびんけ、竜がまだうるさくないと判断した?

「ここなら実験し放題。な、南」

「否定しないが」

「何度も呼び出されたくない」

「呼び出しじゃなく、軟禁されるかもな」

「そうなったら、お前も、だろ。あれの魔法はお前の頭の中。私はお前に従っただけ」

「覚えただろう」

「私だけ使えても。どうやって教える。見て覚えてくれればいいが、他の者にそれができるかどうか。だから実験し放題」

 ここに来る前の件か。会話の内容はまったく。

「一刻を争う件は成功したのか」

 たずねると。

「したからここにいる。失敗していたら、いない」

 扉を叩く音。

「はい」

 白慈はくじが返事をして入って来たのは、顔をしかめたクファール。眉間のしわが固定しそうなほどしかめている。

「これが、あの子の履歴だ」

 クファールはラビアに紙を渡す。

「なぜ俺に」

「お前しか知らない」

 ラビアは、しれっと。

「履歴?」

「出身地、年齢、血液型、などなどが書かれたもの」

 ラビアは紙を見ながら。

「何か気になることが」

 南の魔女に紙は見えていない。

「あの子、竜に村を滅ぼされたと」

「ああ。言っていた」

 クファール、白夜びゃくや達も頷き。ラビアは唸り。

「ワーム、を知っているか」

「ワーム?」

「巨大で細長い蛇のような姿。全身ぬるぬるしており、足も翼もなく、毒の息を吐く。たとえ胴体を斬られても、元通りにくっついてしまう、便利な能力があった」

 南の魔女の説明。

「そのワームだが、この子の村の近くに封じられていた」

「竜ではなく、ワームがやったと」

「さあな。いつ襲われたのか知らん。しかし暗くなってから襲われたのなら、間違えても。そして、これは推測。ワームについては協会の者が詳しいだろう。見習い、アホな魔法使いが面白がって解いたのかも、な。自分の力を試してやろうと。何が封じられているのか知らず解く奴もいるくらいだ」

 ラビアは紙をクファールに。

「……封じられているものすべてを把握しているのか」

「危険なものは。そうでないのは覚えていない。どれだけここに封じられていると」

「忙しいな。見回っているのだろう。協会の依頼は断って正解だ」

 南の魔女はそんなことを。嫌味、か。

「あの子は調べたのか」

「死者に鞭打むちうてと」

「調べていない、か」

 ラビアは息を吐き。クファールは眉をつり上げ。真紅しんく青蘭せいらん黒輝こくき達も顔をしかめ。

 南の魔女も息を吐き。

「彼女が言ったことを覚えているか」

「言ったこと?」

 クファールは不機嫌を隠しもせず。

「彼女は、結界は一日、二日で解けると言った。つまり、それまであの子は生き続けられた。あの場で解いていれば、どれだけかわからないが生きられただろう。それが突然事切れた」

「……」

「誰かが何かした。あの場にいた誰かが、あの子を。そんなことにも考えが回らないとは」

 再び、今度は大きく息を吐く。

「だが誰が。あの場にいたのは」

 そう言ったクファール。学長、サイル、ユーリエ、白夜びゃくや達、ラビア、南の魔女、幻獣狩げんじゅうがり。

「竜でできるのは風を操る竜だけ。あの子の周りの空気、酸素を奪えばいい。だが、その場合、あの子は苦しんだはず。水や炎、土は一目でわかる」

「……つまり、やったのは、魔法を使える者」

「私はやっていない。そんなことしても何もならない。あれくらいの結界なら、穴開けて出られる。南も、だろう。何も唱えていなかった。唱えていたら近い位置にいたこいつらに聞こえている」

「話しはしていたけど、魔法は唱えていなかった、と思う。僕達もここに来て、魔法の仕組みは聞いている」

「俺達を疑うと」

 クファールは顔をしかめ続け。

「もっと疑わしいのがいるだろう。自分達の利益のために精霊、妖精を倒しているのが。それとも、あれはお前達が引き入れたのか」

「いない。勝手に来た。お前のように」

「竜を一体でも倒して、魔法学校、魔法協会も巻き込みたかった? 一蓮托生いちれんたくしょうと盾にしたかった? 鱗や角、眼だけを盗って、責任をなすりつけ、逃げる気だった?」

 クファールは大きく舌打ち。

「あの指輪は。知っているような口ぶりだったが」

「知らないのか」

 ラビアは南の魔女を見て。

「魔力増幅と言っていたが、君はそうでないと」

「あれはアンドヴァリナウト。魔力増幅ではなく、無限に黄金を生み出す、破滅をもたらす魔法の指輪」

「破滅をもたらす魔法の指輪?」

「破滅の指輪?」

 白夜びゃくやとクファールの声が重なる。

「黄金を生みだす力のほかに、作ったものたちの呪いによって持ち主に破滅をもたらすという力も込められていた」

 再び南の魔女の説明。

「知っているじゃないか」

「話だけは。実物は見たことない。見たことあるのか」

「ない、が古い本にっていた。確か、お前の家で見たような」

「帰れば整理でもするか。その指輪は」

 南の魔女はクファールを見ようと。

「……」

「別のことで頭が一杯。確かめていない、か。盗られた可能性あるな。盗った犯人は、ばればれ。だが向こうも言い訳くらい考えているだろう」

「放っておけばいい。持ち主はろくな目にわないのだろう」

「破滅~」

 軽い魔女同士の会話。いいのか、と思わなくも。

「回収したければそっちで勝手にやってくれ。貴重といえば貴重なもの」

 ラビアは手を振り。クファールは部屋を出る。

「いいのか」

「どれが」

「どれって」

「あの子のこと、幻獣狩り、指輪」

 確かに。

「指輪?」

「なぜ疑問形」

 ラビアは呆れて見ている。

「色々ありすぎて、整理できていない。お前が来たことも」

「魔法協会に頼まれたのもある」

「頭を下げられていたな」

「その下げていたのが一番偉い奴、だそうだ。協会の奴らが無駄口たたいていた」

「以前も下げられたと聞いたが」

「ああ。北の魔女と大喧嘩して、協会の依頼を半年無視していた。買い物に出たところ、どこかに連れて行かれ、上層部全員が土下座」

見物みものだっただろうな」

「十四、五の小娘にいい年をした者達が土下座して頼んで。プライドあるのなら、自分達でなんとかしろ」

「まったくだ」

 魔女とはこういうものなのか。黙って聞いていた。

「指輪だが、似たようなものなら家に大量にある。これ以上増やしたくない」

 ラビアは顔をしかめ。

「この間、魔族に押し付けたが、まだある」

「なぜ、魔族」

 白夜びゃくやはなんともえいない口調で。

「人は使えない。壊すもの苦労する。おそらく、お前達、竜もあの手のものは触れない」

「どうしてわかる」

「精霊が触れないから。無理に触れば火傷、のような症状がでる。竜も、だろう。どうなってもいいと言うのなら、家から持ってくるが」

「こなくていい」

「西からも押し付けられたし」

 うんざりと。

「西の魔女から。どうしてまた」

 知らなかったのか、南の魔女が尋ねている。

「弟子どもが目を盗んで売っていた」

「……」

「西の魔女は高齢。自分で管理するのは難しい。クファールのような真面目な奴が任されればよかっただろうが。盗まれていることに気づいた西の魔女が売られる前に危険物、貴重な物を送りつけてきた。私の家は保管庫か」

「君は悪用しないと知っているから。魔法書なら引き取るが」

 それを魔族に。いいのか、と再び。

「あ、あの」

 遠慮がちな声をあげたのは黒輝こくき

 一斉に見られ、小さく。

「あの子の村を襲ったのは」

北竜王ほくりゅうおう様の次男。うろこは黒」

 小さくラビアに教える。

「それはなんとも。竜かもしれないし、ワームかもしれない。真実を知っている者はいない。だが、ワームがあの村の近くに封印されていたのは確か。そしてその封印が解かれていたのも」

 ラビアは淡々と。

「安心しろ、竜は評判悪い」

「安心できるか」

「ま、今回の真実は隠される。幻獣狩りのせいにするかも、な。生徒をそそのかした、とかなんとか。竜を敵に回すより幻獣狩りを敵に回す方がいいだろう」

 こちらのせいにされるよりはいいが。

「これからどうするんだ」

「実験、だな」

「実験?」

「新しい魔法を作った。それを使えるように。そっちはどうするんだ」

「話し合い、か」

 一人では決められない。先に帰るのも。見るものは見て、聞いた。西竜王せいりゅうおう様に報告するにしても整理したい。それは他の竜も、だろう。

「ここにいる、のか」

 白夜びゃくやはラビアに。

「そうなるな。あまりに使えないなら、帰る」


 翌日、魔法協会で一番偉い、魔法協会長という男とユーリエ、学長が謝罪に来た。

 ラビアと南の魔女は魔法協会、魔法学校で教えている者に囲まれ、新しい魔法を教えていた。

 白夜びゃくや達はおび、ではないだろうが、学校の外へ。

 学校の中とはまた違い。珍しそうに全員あれこれ見て、案内の者にも質問していた。瞳の色は気にならないのか、声をかけてくる女性も。

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