第13話

 道を使い、人の地へ。

 他の竜も今回は道を使い。竜の姿で人の地に下りても、魔法学校がどこにあるかわからない。それなら道を使い、そろって行こう、ということになり。

 それぞれの地に一つ、人の地に下りる、つながっている道、転移できる場所がある。が、出る場所は決まっている。魔法協会という所。

 白夜びゃくや白慈はくじも道を使うのは初めて。さらに人の地に下りることも。西竜王せいりゅうおう様、フォディーナ様に見送られ。

 一瞬で出た場所はどこかの部屋。床は木ではなく石? きれいにみがかれ。周りを見ると、御殿ごてん、家とは違う。竜の地は木造。だがこの部屋は頑丈そうな石? に囲まれ。先に来ていた竜も近くに。

「まさか、次期東竜王  とうりゅうおう様と南竜王なんりゅうおう様が来ているとは」

 白夜びゃくや達が最後だったようだ。次期東竜王様と南竜王様の傍には付き添いが一人。北竜王ほくりゅうおう様の所は次男が。見た目十六、七歳くらい。大人しく物静か。こう言ってはなんだが、存在感が薄い。

「他の所のことは言えないよ。僕も来たから」

 白慈はくじは楽しそうに。真紅しんくの傍にいるあかねが手を振っている。北竜王様の次男は小さく頭を下げ。

「ようこそ、竜の方々かたがた。わかっていると思いますが、ここは魔法協会の本部。ここから魔法学校へ。案内しますが、服はえなくてよろしいですか。人の地は春夏秋冬。季節があり、今は夏。暑いですよ」

 説明している男が着ている服は白夜びゃくや達とは違う。ラビアが言うには白夜達の服はどこかの国の着物という服に似ていると。

「部屋は適温にしていますが、外は」

「外に出て、決めていいか」

 真紅しんくたずねる。

「でも、着替えもこれと似たようなものだよ」

 あかねは着ている服を指し。

「案内をつけます。近くに服を売っている店もあるので、そちらで選んでください。代金はこちらで。そうなると、学校に行くのは明日になりますが」

「ここから離れているの」

 白慈はくじが。

「半日、でしょうか。ただ、服を五分、十分で選べないでしょう」

 じっくり選びたいのなら。

「そうだな。こいつがうるさそうだ」

 真紅しんくあかねを指し。

「当たり前でしょう。似合わないものを着て、行きたくない」

 今日はここで泊まりになりそうだ。

「案内はクファールとユーリエがいたします。東竜王とうりゅうおう様の地の方はクファールはご存知でしょう」

 説明している男が顔を動かす。この部屋にある一つだけの扉の前には男女が。男は見覚えのある顔。

「クファールは学校でも教師、魔法を教えています。ユーリエはここ、協会の者です」

 メガネをかけた三十代ほどの女性。

「では、外へ」

 男が扉を指す。女性が扉を開け、部屋の外へ。

 出た部屋と同じ。廊下は石? 木造ではない。窓の外は背の高い建物が。高さも建物によって違う。竜の家は平屋が多い。全員、珍しそうに窓の外を見ていた。そして、歩いている者も白夜びゃくや達を見ている。

「あら、クファール」

 女性の声。

「先に行っていてくれ」

 先頭を歩いていたクファールは並んで歩いていた女性、ユーリエに声をかけ。

「これが、リディスが手懐てなずけたっていう竜?」

 金髪碧眼の女性がじろじろと。並んで歩く。

「いえ、協力です」

「ふうん。いっそのこと、竜にあげれば。いつかのように」

「ご冗談を。それで、貴女あなたはなぜここに。リディス様と同じことをしようと来たのですか」

 女性の眉がぴくりと動く。

「それとも貴女あなたが竜に嫁ぐのですか」

 火花が飛び散りそうなくらい、睨みあっている。

「あの子が魔女になれるとでも」

「ええ」

「七光りで実力もないのに。私や他の者が余程。あんな子と手を切って、私と手を組まない」

 女性の目は白夜びゃくや達に。

「聞かなくて結構です」

「クファール!」

 女性は叫び。

「どうせ、ここの道を使い、竜の地へ行こうとしていたのでしょう。しかし個人的な理由では許可は下りず。リディス様は竜から招かれた。貴女あなたと違い」

「私が魔女を継いだら、あんたなんか」

「継げれば、でしょう。貴女と同じ考え、待ち構えている者がそこにいますよ」

 女性はクファールの視線を追い。白夜びゃくやもつい追ってしまった。

 離れているが、黒髪の女性と栗色の髪の女性がこちらを見ている。

「あの方達とみにくわめかれてはどうです。竜の方々かたがた、ここの職員の前で」

 女性はクファールを睨み、二人の女性へと足音荒く歩いて行く。

「見苦しいものを見せて、申し訳ありません」

 無表情、平淡な声で。

「彼女は」

「魔女候補です。リディス様を気に食わない方々。気に食わないのはリディス様だけではありません。お互い。気にしないでください」

 気にするなと言われても。だが気にしてもどうにもならない。

 あちこち見ながら、話しながら、建物の外へ。

「暑い」

「そうだね。暑い」

 真紅しんくに同意する白慈はくじ。だが二人の言う通り、暑い。

「どうしましょう。服を見に行きます?」

「行きます!」

 あかねが元気良く。

ごうに入ってはごうに従えって言うでしょ」

「服見たいだけじゃ」

 真紅しんくは呆れ。

「だが、茜殿の言うことも。周りを見れば」

 次期東竜王  とうりゅうおう青蘭せいらんは周りを見て。周りも白夜びゃくや達を見ている。

「見に、行くか」

 誰も真紅しんくの言葉にいなと言わない。あかねは「買い物、買い物」と嬉しそうに。

 服選びに時間がかかり、特に茜が。その日は魔法協会で泊まりとなった。


 翌日、汽車という鉄のかたまりでできた乗り物に乗り、魔法学校に。持ってきた、昨日買った荷物を持って。

 人の地では遠方に移動する、旅する時は汽車か船を使うそうだ。

「彼女に色々聞いておけばよかったね」

 白慈はくじと向かい合って座り。二人掛けの椅子だが、並んで座るのは。他も向かい合って座っている。

「もしくは、ついて来ている? 御前試合の時のように」

「いない」

「誘えばよかったのに」

 白慈はくじは楽しそうに。

「気をつけろ、と。あと、これを持っていろと」

 取り出したのは小さな鳥のぬいぐるみ。

「これに化けて」

「いない。うっかり潰したが、文句は何も。よくわからないが持っていろと」

 ラビアが化けていたら、潰せば確実怒っている。

「そう言うってことは持っていた方がいいんじゃない」

「だから持っている」

 なんの役に立つかわからないが。

 着慣れない服なので少し居心地が悪い。Tシャツに薄手の上着。下はパンツ。ラフなよそおい、らしい。東竜王とうりゅうおうの地の二人はクファールのようにきっちり着ている。クファールの着ているのはスーツという服だそうだ。黒の上着に白のシャツ。ユーリエという女性も似たような姿。

「竜の地とは違うね」

 白慈はくじは外の景色を見ながら。

 昨夜は西の魔女の弟子という女性が部屋に来て、味方になってほしい。魔女になればもちろんお礼も、と言っていたが。

「なれなければ」と白慈が笑顔で。

「聞いたけど、決めるのは西の魔女、なんでしょ。僕達を味方につけても、ついたから魔女になれるとは限らない。こびを売るなら、僕達より西の魔女に売ればどうだい」

 ラビアの受け売り。

 決めるのは西の魔女。たとえ、四竜王すべて味方につけても譲るかどうか。

「お前達より西の魔女に媚を売り、いいところ見せた方が余程いいと思うが。候補といっておいて、まったく違う奴、選ぶかも、な」

 そう言い、笑っていた。

 女性は顔を真っ赤にして、去り。

 朝食の席で話していたが、他の竜の所にも行ったらしい。あかねなどは「何あれ、腹立つ態度」と。

 あきらめきれないのか、汽車に乗っている姿は見た。ラビアが来ていればどうなっていたか。

 白夜びゃくやも窓の外の景色を。


「ようこそ、魔法学校へ。歓迎しますよ、竜の方々かたがた

 大きな建物がいくつも建っている。その入口、門前に六十代ほどの細い男。横には三十代半ばほどの男が。

「見学に来ただけ。学びに来るのは子供。見学して決める」

 真紅しんくが口を開く。

「ええ。じっくり見ていってください。私はここの代表者、学長です。学校の説明、案内はクファールとサイルがします」

 横の男が頭を下げる。

「ユーリエもここの卒業生。ここに来た、ということは」

「はい。学校の案内、説明を」

「それなら、この三人に色々聞いてください。他の教師、生徒に聞いてもらってもかまいません」

 学長という男は笑顔で。

 この学校も石造り。建物によって高さが違う。服も。白夜びゃくや達がいつも着ているものとは違う。今は、こちらの服を着ているので目立たず。

 案内役のサイルが説明しながら歩き出す。

「ここははば広いとしの者が学んでいます。家から通う者もいればりょうもあります。寮というのは」

 離れた場所を同じ服を着た男女が歩き、走っている。

「全員が同じ服を着ているな」

 不思議に思ったのだろう。誰かが。

「ええ。制服です。ここで学んでいる者、という証でもあります」

「ここには魔力持ち、魔法を使える者だけが通っています。教養も学びますが、大半の時間、魔法を」

 ユーリエが続ける。

「学校の者にも、竜の方々が来ることは伝えております。質問されることもあると思います。失礼なことを言っていたら、申し訳ありません」

「評判悪い? 以前そう聞いたけど」

 白慈はくじが。ラビアと初めて会った時にそう言われ。

「場所に、よっては」

 言いにくそうに。サイル、ユーリエは目を合わせない。

 気をつけろと言うはずだ。

「魔女も通っていたのか」

 真紅しんくは珍しそうに周りを見ながら。

「いえ、魔女様は独学、先代から教わっています。ですが、西の魔女様の孫は今、こちらに」

「いるのですか」

 北竜王ほくりゅうおう様の次男、黒輝こくきが遠慮がちに。

「お、なんだ、仲良くなったのか」

真紅しんくくん」

 からかいがにじんでいたので、あかねが注意するように。

「もし、竜の方々がこちらで学ぶようになれば、魔女様に匹敵するかもしれませんね」

「サイル」

 ユーリエは注意するように。

「魔女は嫌われているのか」

「西の魔女様以外は何を考えているのか」

 西の魔女を味方につけている、と思っている東竜王とうりゅうおうの地の二人は小さく頷き。

「サイル」

「本当のことでしょう。弟子も取らず。北と南の魔女は完全無視。東の魔女は気まぐれ」

 クファールも小さく頷き。

 気まぐれ。

 文句を言いながらも子供達に魔法を教えてくれている。子供達に文句は言わず。時間に遅れることもなく。眠そうにふってくることもあるが。

 こちらで何をやっているのか。

「あの離れて付いて来るのは」

 白慈はくじが背後を指す。白夜びゃくやも気づいていた。おそらく他の者も。

「気にしないでください、と言っても無理でしょう。あの者達は頼んでもいないのに勝手に来て、警備してやると」

「魔法協会も必要ないと言いました。それでも強引に」

 両者とも顔をしかめ。

「僕達が来るから」

「何かありましたら、すぐ言ってください」

 多少警戒されると思っていたが。

 二人は説明に戻る。


 案内された部屋は二人部屋。一つの階をすべて使ってもよいとのことで、一人で部屋を使ってもよいのだが、どこの竜も二人一緒に入る。部屋も隣を選んで。固まっていれば何かあった時。

 何もなければいいが。争いに来たのではないので、武器は持ってきていない。

 小さく息を吐き、着替えの入った荷物を置いた。

 その日は宿泊する建物の中、周辺を団体で見て終わり。次期竜王もいる。警備も兼ねて。そこでも離れて見ている者が。あまりよい視線とはいえず。

 夕食は竜だけで。竜の地と違うものもあるので、これはなんだ、とにぎやかな食事となった。

 翌日からは、クファール、サイル、ユーリエに案内され、学んでいる場を見せてもらい。

 座学というものでは数十人が一つの部屋に集まり、本を見ながら、教師という者の話しを聞いていた。実技では、やはり数十人が順番に同じ魔法を使い。薬の調合も。

「魔力を持つ者は以前からいえば増えました。精霊と人の子もいるからでしょう。竜と人の子は、いないと思いますが」

 サイルが説明。

 竜身になればここへ自由に来られるが、なれない者は来られない。

 道は一つ。しかも西竜王せいりゅうおう様の御殿ごてんに。勝手に行くことはできない。行けたとしても帰ってこられない。

「初歩から学んでいきます。試験といって実力を試すことも。合格すれば次に進み、できなければ同じことを学びます」

 説明を受けていると、大きな音と悲鳴。見ると煙が。

「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝る声。サイルはそちらを見て小さく息を吐いている。

「あれ、あの子」

 白慈はくじも同じ方向を。

「ああ、東が味方につけた西の魔女の孫」

 真紅しんくも見ている。

 桃色の髪の子が頭を下げ続けている。以前より顔が見える。黒いもやが少し晴れている、ような。

「あんな状態で教えられるのか」

 真紅しんくの言葉に次期東竜王  とうりゅうおう青蘭せいらんは顔をしかめ。

「クファール殿に教えてもらっている。彼女はまだ学んでいると。クファール殿はここでも教えている。そのため十日に一度だが」

「うちもそうすれば」

 白慈はくじは小さく。

「……」

 対抗しているのか、冗談か。冗談だと思いたい。間に入る、とばっちりを受けるのは白夜びゃくや

「そのクファール、殿は西の魔女の弟子だと聞いたけど」

 白慈はくじが尋ね。

「ええ、そうです。弟子だからといってずっと傍にいるのではありません。さらに弟子をとることもあります」

 本人は淡々と。

「クファール殿にも弟子がおります。クファール殿は西の魔女様の弟子の中でも優秀だと」

 サイルはクファールを見る。

「いや、私など」

「そういや、西も西の魔女の関係者がって以前話していたな。そいつに教わっているのか」

 西、西とややこしい、と真紅しんくは。

「どうだろうね」

 白慈はくじは笑顔で。

「どこかに頼みに行った?」

「いや、俺のとこは行っていない。お前のとこは」

「行ってないよ」

 ラビアに頼んで来てもらっている。ラビアの家に行って頼んではいないので、白慈はくじの答えは嘘では。

「お前は」

 真紅しんく黒輝こくきを。

「頼みに行こうと考えていたのですが、西の魔女以外まともなかたが」

 黒輝は申し訳なさそうに。

 ラビアは破壊の魔女、最強の魔女だと。

「なにより、居場所が」

「そうですね。西の魔女様の居場所、家ははっきりわかっています。頼りたい者、弟子入りしたい者も多いので。ですが、他の魔女様は関わりたくないとばかりに。この辺りに住んでいる、というあやふやな場所。しかも辿り着けないようにしており。弟子もいませんし」

「魔女の弟子になりたい人はいるの?」

「それは、なんとも。私は西の魔女様以外お会いしたことがありませんので。話を聞くだけで」

「私は東の魔女様にお会いしたことが。魔法協会に来られていて、その時に。北と南の魔女様はまったく。生きているのかどうかもわからないと」

 ユーリエは顎に手をあて。

「魔女って何やっているんだ」

「西の魔女様は薬作りや、依頼に来られた方の話しを聞いています。他の方は」

「北と南の魔女は自分のやりたいことを。東の魔女は何度も言うが気まぐれ。魔法協会の依頼を受けたり、受けなかったり。ただ、どこの魔女も偽物がいます」

 前半は辛辣しんらつ。後半は呆れたクファールの口調。

「偽物?」

「魔女の名を利用しようと。たとえば西の魔女は薬作りも得意なので、西の魔女が作ったものだと高額で」

「ああ」

 誰かが納得したように。

「それ、偽物は大丈夫なの?」

「なんとも」

「なんとも?」

「魔女様方はほっていますが。北と東の魔女様は人に恨まれるようなことも。その偽物となれば」

 さらに納得。恨みはその偽物に。

「西の魔女は弟子が目を光らせているので、それ相応の罰を」

 クファールは淡々と。

「ですが、今はこうして学校があります。昔は魔力持ちが少なく、教えられる者も限られていたのですが、魔力持ちが増え、教えられる者も。弟子入りしなくても」

「魔女になれる?」

「それは、なんとも」

「魔力の大きい者がいれば、なれるかもしれませんね」

 ユーリエが続ける。

「リディス様は、魔力はあります。弟子の方々より。次期魔女に相応しいでしょう。実技が、なんとかなれば」

 ユーリエ、クファールは小さく息を吐き。

 魔力だけあっても、ということか。

白夜びゃくやは他の魔女のこと聞いている?」

 白慈はくじは小声で。サイルは説明に戻る。

「北は氷の魔女。最狂さいきょうもっとも狂った魔女だと」

 白夜びゃくやも小さく返す。

 ラビアが話していた。

「最も強い? お前のように強暴?」

「私のどこが強暴だ。最も狂った魔女。自分の望みのために、人としてどうか、ということをこれでもかと。長く生きているから強いは強い」

 ものすごく嫌そうに。

 南の魔女にそういう通り名はないらしい。話しを聞く限り、自由に動ける身とは。

「南の魔女は首から上だけ」

「……」

「不老不死を求めた結果、そうなったそうだ。ただ魔法に関しては右に出る者はいない。魔法の字引じびき。ただし、本人は使いこなす魔力がない」

「そして彼女は破壊の魔女。最強の魔女、か。何を壊してきたんだろうね。白夜びゃくやの家も、うちも壊されていない」

 散らかされはしたが、壊され、燃やされていない。

うわさは噂、か。それとも」

 真実か。白夜達が知らないだけ。

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